あの後市丸は特に俺にちょっかいを出すようなことはなかった。
みんなも真面目に課題に取り組んでいたし、一人勇気のあるやつが本当に市丸が英語も出来るのか試しに聞いてみたところ・・・・やつは スラスラと簡単に解きやがった。なんで国語の教師してんだろ・・・?
みんなもわからないところを次々に聞き出して、あまりに解らないところが数人かぶると、市丸は黒板を使って説明しだした。
それがすごく解りやすかったのにビックりだ・・・。英語の先生より解りやすかったし・・・。 市丸の助けもあり(真面目にやってりゃいい先生なんじゃねぇか・・・)なんとか全員課題を終え、市丸に提出する。それを受け取った市丸はまだ授業終了のチャイムが鳴る5分前だというのに“みんなよぉ頑張ったからご褒美や。静かに自習しとき”とか言って教室を出て行った。出て行き際に一瞬目が合って ニヤリと笑われた気がしたが・・・・・気のせいじゃないよな・・・?
 6時間目はなんとか普通の授業で気楽に受けてやっと放課後がやってくる。今日が今までで一番長かった気がする・・・・・。
『恋次!早く帰ろうぜ?』
『あぁ・・・そうだな』
『ん?なんか機嫌悪ぃ?』
 どこかいつもと 違う雰囲気に俺は少し戸惑う。なんか目泳いでる・・・?
『恋次・・・?』
『別にそんなことねーよ!心配すんな!!帰ろうぜ!』
 恋次は少し無理やりな笑顔を俺に見せて席を立つ。俺も恋次がそう言うなら深く問い詰める必要もないと思い恋次に合わせて笑い、教室を出る。
・・・・・俺またなんか気に障ることしたかな? 確かに市丸とも接触したけど・・・・・特になにもされてないし・・・・・。俺の考えすぎか?

 朝と同様一緒に下校。帰りは恋次もいつもどおり普通で楽しくしゃべって帰った。そして俺の家の前につく。
『今日どうする?上がってくか?』
『いや、今日はちょっと用事あんだよ。悪ぃな』
『そか。じゃぁまた明日な』
『おぅ。じゃぁな』
 いつも特になにもない日は俺の部屋でしゃべったりCD聞いたりして過ごす。恋次が用事があるならしょうがないが・・・・・なにして過ごそうかな・・・・・。
俺はとりあえず自分の部屋へ行き制服から私服に着替える。なんかどっと急に疲れが来てベッドの上に寝転がると今日一日の出来事が一気に頭の中を走りぬけた。
気になることはたくさんあった。 市丸の話は・・・・・明日にでも聞きに行こうか・・・。俺だって冬獅郎の前でそんな引っ付かれても困るし・・・・冬獅郎も絶対傷ついてるはずだ・・・。市丸が何考えてやがんのかはっきり問い詰めないと。
もう1つは今日に限ってじゃないけど・・・・。恋次・・・。俺をセクハラから守ってくれたり・・・そりゃぁ一応親友だから恋次は守ってくれるんだろうケド・・・ そろそろ俺の心臓がヤバイ・・・。もしかしたら恋次もそういう風に俺を好きでいてくれてるのかもしない・・・っていう気持ち悪い期待。そんなことあるわけねぇのに。でもあそこまで必死にかばわれたら・・・嫌でも考えてしまう。
伝える勇気もないくせに・・・・・今のままの関係を崩すのが怖くて踏み出せずにいる臆病者のくせに・・・そんなことばかり思ってしまう女々しい自分が 嫌になる。
どぉすればいいんだろぅな・・・こういうのって・・・。
そんなことを考えているうちに俺のまぶたはだんだん閉じていき、深い眠りに落ちていった。


 同時刻、恋次はあるアパートの前に立っていた。そこからゆっくりと階段をあがり、3階の一番奥のドアの前に立ち、呼び鈴を押す。鳴らした直後、すぐその部屋の主がドアを開ける。
『恋次じゃねぇか・・・どぉした? ・・・つっても話は1つなんだろうケド・・・まぁ上がれよ』
『ごめん・・・先輩』
 恋次が訪れたのは3−Cの檜佐木修兵の家。修兵とは仲が良く・・・・・・体の関係もあったりする。恋次はたびたび修兵の部屋に訪れていた。理由は1つしかないのだが・・・・。
『今チューハイしかねぇけどいいか?』
 来過ぎて見慣れてしまった部屋。座る場所もいつも一緒。ベッドを背もたれにして座ると、修兵が奥の 部屋からチューハイの缶を抱えて持ってきてくれる。
 先輩にはいつも相談とグチを聞いてもらっている。まぁ一護のことなんだが・・・。グチってても意味がないことは俺だって解ってる。でも一人で抱えてられなくて・・・そのときに助けてくれたのが先輩だった。その前から仲良かったし・・・・・・まぁいろんなこと教えてもらってて・・・。なんかセフレみたいになっちまってるけど・・・・・。
それで、1回話したら止まんなくてそっからいつも先輩に話し聞いてもらうようになった。
 先輩は俺に1缶手渡すと隣に腰を下ろし、自分も缶を開けて口に含む。
『まぁ落ち着いたら話せよ。聞いてやるから』
『へへっ・・・サンキュ先輩』
 俺も缶を開けてグビッと飲む。酒でも入らないと、いくら先輩でも恥ずかしくて言えない。だから先輩は俺が気にせず全部しゃべれるようにいつも酒を持ってきてくれる。ほんとにいい先輩なんだ・・・。

『なぁ〜先輩・・・』
『お?話す気になったか??』
 あれから3缶開けて4缶目に入ってすぐ。いい感じに酒も 回ってきて今ならなんでも話せそうだと思ったら自然に口が開いた。
『今日さぁ・・・門検市丸だったんだよ・・・』
『そうだったな』
 先輩はいつもこんな風に優しく俺の話を聞いてくれる。話の腰を折るでもなく・・・・でも適当に聞いてるわけでもなく・・・。このペースが心地よくてついつい話しちまうんだよな・・・。
『あいつさ・・・・いつもいつも一護に絡んできてさ・・・・・市丸って日番谷さんと付き合ってんだろ?』
『あぁ。そう聞いたけどな』
『じゃぁなんでいちいち一護に手出すのかわかんねぇ・・・・しかも5時間目自習でさ〜あいつ監視に来て・・・・また一護に話しかけやがって・・・・そうだ!今日は一護から顔近づけていったんだぜ?!なんか2人で内緒話なんかしてさ・・・ 一護は日番谷さんと仲良いはずだから付き合ってんの知ってるだろうし・・・・。一護って好きなやついんのかな・・・』
『なんでそう思う?』
『ん〜・・・一護によく絡んで来んのは市丸と浦原なんだけどさ・・・・・市丸は違う気がするんだよな・・・・知り合いの恋人取るようなやつじゃねぇし。だから・・・浦原が好きなんかなぁって思ってさ。・・・・・あいつさ、今日やばかったんだ・・・・浦原に後ろから密着されてさ・・・それでも抵抗1つしなかったんだぜ?だから・・・』
『で?お前はまたいつも通り黒崎を助けたのか?』
『・・・・一応・・・。でも・・・もし一護が浦原好きなら・・・・俺すっげー邪魔してることになるだろ・・・』
『なら・・・黒崎に誰か好きなやついるのか聞いてみたらいいじゃねぇか。親友なら教えてくれるんじゃないのか?』
 確かに。一護なら、そんなやつがいるなら教えてくれるとは思う・・・・でも・・・でももし・・・・・それで誰かの名前でも言われたら俺は・・・・・。確実に今まで通り一護と接せなくなる・・・・・。それが一番怖いんだ。告ることも考えた。一護には好かれてると思うし・・・・でも一護の中で俺は親友でしかない。俺の親友以上の気持ちなんて受け入れてくれるとは限らない。俺がその気持ちを伝えることで今の関係が崩れてしまうぐらいなら、伝えないほうがマシだと思ったんだ・・・。でも我慢できない・・・。出来るわけねぇ。いつ誰に取られるかも解らない。あんなにベタベタされたら気が気でない。一護が抵抗しないとなるとさらにムカつく。でも一番ムカつくのは俺自身だ。気持ちを言えやしないくせに・・・・周りに勝手にムカついてる自分自身が一番許せねぇんだ。
 俺が黙ってしまったら先輩はふぅっと息を吐いて缶の中の残りをグイッと一気にあおった。
『恋次・・・・・あんま悩むなよ・・・。あんなこと言って悪かった』
『なんで先輩が謝ってんだよ。先輩の言うこと正しいと思ってる。せっかくアドバイスしてくれてんのに行動できない俺が意気地なしなんだから・・・』
 俺も残りを一気に飲み干す。そしてまたもう一本・・・5本目を開ける。
先輩は今までだってアドバイスくれてたんだ。でも俺は全部行動に移せていない。すっげー臆病者。俺自分がこんなに臆病者なんて知らなかった・・・。
『なぁ・・・恋次・・・』
『ん?・・・ッ!』
 先輩の方を向いたらいきなり口付けられる。まぁいつも急にしてくる人だからさほど驚きもしなかったけど・・・・。
『なんだよ・・・』
『・・・・・本気で・・・俺のもんになっちまえよ・・・』
 今なんて言った?オレノモンニナッチマエヨ・・・ってどういう意味だ??俺は一瞬戸惑ったが、いつもの冗談だろうと思い直し一度先輩から目を離して缶に口をつける。
『まぁた先輩は何言ってんだ。冗談言わないでくれよなぁ』
 先輩と目が合わせない。みられてる目線が痛い。先輩の顔・・・・すっげーマジなんだけど・・・・冗談だよなぁ?
『ハハッ悪い恋次。今のタイミングであの冗談はきついよな!』
 先輩の顔はさっきの真剣な顔ではなく、いたずらが成功したような顔で笑っている。俺は少しホッとして一緒に笑った。
『そうっすよ。先輩酒飲みすぎなんじゃねぇの?』
『バカ野郎。飲みすぎなのはお前だっての!俺一人暮らしだぜ?生活壊す気かよ!?』
『悪ぃ〜』
 そっからしばらくは話もそれて酒飲みまくってテンションあげて笑い話ばかりしていた。散々笑ってやっと落ち着いたころ、先輩から切り出してきた。
『まぁ・・・今は辛いかも知れねぇが・・・告る勇気も聞く勇気もないんじゃしゃぁねぇんじゃねぇか?今の関係崩したくないならゆっくり自分に好意を持ってもらえるように引き寄せりゃぁいいじゃねぇか。難しいことだけどな。焦らなくてもいいんじゃねぇの?』
『・・・・・そうなんすかねぇ・・・』
『たまには攻めてみるのもいいんじゃねぇか?押し倒しちゃえよ!』
『なっ!?あんたなぁ!人事だと思って・・・』
 先輩ならやりかねないけどな・・・・・。
『まぁ一理あるってだけだ。参考』
『・・・・・・一応覚えとく・・・』
『出来んのかよお前・・・聞くだけでも勇気ないくせに・・・』
『っせーな!・・・・・サンキュ先輩。元気でた』
『・・・そうかよ』
 もぅ何本目か解らない缶を開け、立ち上がる。
『先輩!ゴチ!!今日はとりあえず帰るわ』
『あぁ。気をつけて帰れよ。酔ってんだから』
  座ったまま手を振って俺を見送ってくれる先輩にもう一度礼を言ってドアを出た。
先輩の家に来るまでにずっと渦を巻いていたどろどろとした気持ちが嘘のようになくなっている。やっぱり先輩に話すと落ち着く・・・・。明日からまた溜まっていくだろうケド・・・・頑張れる気になってくる。
今はまだ一護には言えない。でも先輩の言ってくれたように少しずつでも俺のこと意識してもらえるようにはなりてぇよな!!・・・・・今度一護に浦原とかのことほんとにどう思ってんのか聞いてみるか・・・・・ウジウジしてんのらしくねぇしな!!!
よし!!やるぞ俺!!


『ったく・・・恋次のやつ・・・・・バカみてぇに飲み散らかしやがって・・・』
 恋次が帰った後、修兵は恋次が開けた缶を片付けていた。軽く10本以上あった缶をゴミ袋につめ、すっかり酔いの醒めてしまった修兵は冷蔵庫から新しい缶を持ってきて一人缶を開ける。
『・・・・・・・俺タイミング間違ったな・・・・・。アホ恋次。冗談な訳ねぇだろ・・・。俺はいつもマジだっつの・・・・』
 恋次とは俺が中2のときからつるんでる。アイツは中1な訳だが・・・・・あの髪の色が悪いんだ・・・。あんな色してなきゃ見つけることもなかっただろうに。・・・・・俺の一目ぼれだった。
人懐っこいアイツは俺が一声かけただけで俺の後ろをついて回るようになった。酒を教えたのも俺だし。体を繋げるようになったのは俺が高1。アイツが中3になってからだ。酒飲みすぎて2人して酔ってて・・・なんか気分的にそうなってた。俺もアイツも興味あったし・・・。ヤってみたら案外気持ちよくて そっからずるずるそんな関係が続いた。
俺がアイツを好きだと気付いたのはたぶんアイツが黒崎を好きだと言い出してからだろう。だから・・・アイツが高1になってからだから・・・俺が高2になってすぐぐらい。気付いた瞬間失恋だった。それでも・・・ずるずる思い続けてる。
 なんでさっきあのタイミングで言ってしまったんだろう・・・・。言わないつもりだったのに。しかも流されたし・・・・・。でも流されて良かったのかもなぁ。アイツに今俺のことでまで悩み増やしたら潰れちまいそうだ。
・・・・アイツの前では・・・俺を信じて頼ってくれてるアイツの前ではこんな俺は出さないでおこうって決めたのにな・・・・・。
俺も女々しいな・・・・。よく恋次の相談なんて受けてるぜ。偉そうなことばっか言って・・・・一番行動できてねぇの俺じゃん・・・。
『だっせぇ・・・・』


 それぞれ思いを胸に。時は待ってくれず流れていく。
明日はなにか変われるように。
明日こそ前進出来るように・・・。自分の胸に誓って・・・・。