次の日・・・。朝はいつも通りウザイ親父をぶっ飛ばし・・・・恋次が来る前に家の前で待っていた。
5分もたたないうちに恋次はやってきて・・・・向こうの方から走ってくる。俺が待ってんのを見つけて急いでくれてるんだろう。
『別に走んなくてもいいのに』
『運動だ運動!!今日は早いな・・・俺が遅かったのか?』
『いーや。いつもより早いぐらいだ。親父がうぜぇから外で待ってたんだよ』
 いつもと変わらないウザイ親父から入る話。朝の日課みたいになってるぞ・・・・。
とまぁくだらない話で盛り上がり学校に向かう。そこで俺は大事なことを思い出す。
『そぉだ恋次!今日先に帰っててくれね?』
『そらかまわねぇがどぉしたんだ?』
『あ・・・いや、ちょっと先生に聞きたいことあってさ!』
『そぉなのか?わかった。浦原とか市丸には気つけろよ?』
 ギクッとする。まさしくその市丸のところに行くのだから。市丸の名前出さなくてよかった・・・・。出してたら反対されてたか、恋次もついてきただろうしな。
恋次に悪いと思いながらも本当のことは言えない。これはまぁ恋次には関係ないし・・・・。もしかしたら今日市丸と話すことでセクハラが1つ減るかもしれないしな!!
『大丈夫だって!全然普通の先生だし!進路指導の!!』
『なんだ?一護もぅ進路の相談か?』
『ん〜・・・・まぁそんなとこかな!適当にな!!』
 誤魔化し誤魔化しで冷や汗をかきながら、やっと学校に着く。
今日は特に平凡に過ごすことができて、昨日に比べたら全然内容のない1日だった。まぁそれが普通だろうけど。あんな濃いいのが毎日続いたらさすがに死ぬ。
 6時間目終了と共に担任が入ってきて掃除の当番とかの話してるけど今日当番じゃねぇし関係ねぇ。
そのあと明日の連絡とかでしばらく話した後、やっと終わる。みんな一斉に教室から出て行く。
『ごめんな恋次!じゃぁなぁ〜!』
『あぁ。また明日な一護!』
 恋次にあいさつして俺はそのまま教室を飛び出す。俺の向かう先は校舎3階の国語準備室。たぶん市丸はここにいるはずだ・・・。
それにしても3階って準備室とかばっかだから人の通りねぇんだよなぁ・・・ちょっと不気味。
おそるおそるドアをノックすると少しなまった返事が聞こえる。市丸だ。
『失礼しまぁす』
『一護ちゃん!どないしたん?めずらしい・・・ゆうても・・・・まぁ昨日のことやろうけど。まぁ座りぃ。茶ぐらい淹れたるわ』
 中に入るとなんか難しそうな分厚い本が並んだ本棚に挟まれて圧迫されそうな中でポツンと机に向かいお茶を飲んでいた市丸が迎え入れてくれる。市丸の後ろにあったソファに腰をかけると目の前の小さなテーブルにコトンとお茶が置かれる。
『ども』
『で?なんやったっけ?』
『・・・・前から思ってたんだ。・・・なんであんたは冬獅郎の前で俺にくっついてきたりするんだ?冬獅郎に気付いてなかったなんて言わせないぜ』
『別に冬獅郎の前やのうても一護ちゃんにはくっついてるやん?』
『違う。度合いが違うんだ。授業中とか2人であったときより・・・・冬獅郎がいるときのほうが明らかにヒドイセクハラしてんじゃねぇか』
 たとえば昨日。門検のとき・・・冬獅郎は俺達が門に入るほんとにちょっと前に入ってるんだ。俺が市丸に絡まれてるとき、冬獅郎はすぐ俺の前を歩いていた。もちろん門なんてそう広いもんじゃないし絶対俺達が門に入る前に市丸と接触してるはず。だから市丸はまだ冬獅郎が近くにいることもわかってたはず。なのに・・・・・ふだんよりでかい声で『僕とちゅぅしてから』なんて言いやがった。まぁ恋次に途中で遮られたが・・・。冬獅郎には届いていたはずだ。気付かぬふりで歩いていったけど・・・。俺みたんだ・・・恋次に引っ張られて走って校舎まで連れて行かれて冬獅郎を追い抜いたとき・・・冬獅郎が潰れそうなほど苦しそうな顔をしていたのを。
昨日だけじゃない。前にも・・・何回かあった。2人のときは絶対“かわええな”“一護ちゃん好きやで”とかしか言わない。それも冗談だとすぐわかる言い方。でも決まって冬獅郎がいるときは“一護ちゃん今日僕ん家くる?”“一護ちゃんちゅぅしよか?”とか・・・ひどいときは抱きついてきたりもする。
なんでわざわざ冬獅郎の前でそんな嫌われるようなことするのか・・・さっぱりわからねぇ。
『・・・・やっぱり気付くよなァ・・・。ご免な一護ちゃん。僕一護ちゃんのこと利用しとってん。あっ!可愛い思てんのはほんまやで!』
『利用・・・ってなんで?』
『冬獅郎ってな・・・・僕に好きって言ってくれたことないねん。伝えたんも僕からやったし 返事も“うん”としかもらってない』
『でも!冬獅郎は好きでもねぇやつとズルズル付き合うようなやつじゃ・・・』
『わかってるよ・・・。冬獅郎が素直やないのもわかってる。だから・・・・ヤキモチやいて欲しくてわざと冬獅郎の前で一護ちゃんに手出してたんや。でも・・・・冬獅郎いつも知らん顔で行ってまう。2人で会ったときもそのことについてなんも言って来てくれへん。僕のこと怒ってくれてもええのに。さすがに僕も不安になってきてもぅた・・・』
 だからわざと目の前で俺にちょっかいかけてきてたのか・・・。市丸も可愛いとこあるじゃん。つーかすれ違いすぎだよな・・・。冬獅郎がもっと素直になりゃぁいいのに・・・。
『市丸・・・・。冬獅郎ちゃんとヤキモチやいてるぞ? 昨日・・・俺見ちまったんだよ・・・・冬獅郎が苦しそうな顔して歩いてんの。あの門のとこのやつ』
『一護ちゃんそれほんまか?!』
『あぁ。冬獅郎も不安になってんじゃねぇか?ただそれを市丸に問い詰めてウザがられるのが怖くて言えねぇんじゃねぇの?そんなやつだろ?冬獅郎わ・・・』
 好きなやつの前ではやっぱ臆病になるから・・・。そうか・・・みんな怖いのは一緒なんだな。俺が恋次との仲壊すのが怖いみたいにみんなも同じ様な怖さ持ってんだな・・・。
『俺さ・・・・冬獅郎と仲良くて・・・よくあんたとの話聞いてたんだ。冬獅郎はあんたとの年の差をものすごく気にしてるぜ』
『年の差?またなんで・・・・』
『市丸に比べたら自分はまだまだ子供で・・・つりあえるようになりたいっつってたぞ。 だから・・・そんな市丸がちょっと他のやつに手出したぐらいでいちいち怒ってたら子供だと思われるって思ってんじゃねーかな?子供っぽい自分が嫌われそうで怖いんだって前1回話してくれた。その後照れまくって“今の聞かなかったことにしろ”とか言ってたけどな』
『なぁんや・・・そぉか。それ聞いて安心した。おおきに一護ちゃん。今日冬獅郎に会って全部話すわ。言ってくれるかわからへんけど・・・冬獅郎の気持ちも全部聞きだしてみるわ』
『あぁ。そうしろよ。ってことで今日であんたからのセクハラは解放されるな!!』
 俺もすっきりして、冷めてしまったお茶を一口飲む。ん〜っとひとつ伸びをすると市丸の口がいつも以上に裂けてニヤッと笑った。
『なっ・・・なんだよ・・・?』
『ん〜?一護ちゃんって・・・・阿散井くんのこと好き・・・?』
『んなっ!?なんでそうなるんだ?!』
『勘や。図星か?顔赤いで』
 なんでわかったんだ?俺ってそんな解りやすいのか??
『・・・・・な・・・内緒にしててくれよ・・・?』
『・・・まぁ今日助けてもろたし。ええよ。協力したる』
『いや・・・・それは別にいらねぇけど』
 協力って・・・・なんか危ない気がするしな。ちょっとして欲しい気持ちはあるが・・・市丸は止めといたほうがいいと本能が言っている。
なんか気まずくて俺は強引に話を変えることにした。もうひとつ気になってたことだ。
『そういえばさ。なんであんたあんなに英語も出来たんだ?』
 昨日の自習の時間、こいつは専門外のことなのにどんな質問にもスラスラと答えた。他の教師にはなかなか出来ないことだ。
『あれな。まぁ僕がもともと天才なんもあるけど・・・・・冬獅郎に教えたってたからや』
『冬獅郎でも教えなきゃなんねぇのがあんのかよ!?』
 冬獅郎はこの学園創立以来の天才児と呼ばれるほど頭が良い。そんな冬獅郎にもわからないものはあるんだなぁ・・・と素直に思った。
『そうなんや。だから僕が教え取ったんや。特に英語が苦手みたいなんや。教えるとめに僕も勉強したからなァ。まぁ性教育の方は常に冬獅郎と一緒に学んでるけどなァ』
『生々しいこと言うんじゃねぇよ』
 思わず想像しちまうじゃねぇか・・・・年頃の男子にそんな刺激的なこと言うなっつの。
『まぁいいや!俺そろそろ帰るわ!頑張れよな!!』
『ほんまにおおきに一護ちゃん。気いつけて帰りやァ』
 お茶の残りを一気に飲み干しカバンを肩に担いで国語準備室を後にする。
これで冬獅郎もあんな顔せずに済むよな?俺も市丸に絡まれることもなくなるだろうし!!恋次好きなのばれちまったけど・・・・ まぁ言いふらすようなガキじゃねぇだろうし・・・。
 でも・・・そっか。みんな悩んでんだな。俺だけじゃないんだ怖いの。それがわかっただけでもなんかホッとした。頑張れそうな気がしてきた。


『もしもし、冬獅郎?今から車で冬獅郎ん家行ってもええ?今日僕ん家泊まりにおいで?・・・・・・・ぅん。ほんならまた後で・・・』
 一護が出て行ってすぐ、市丸は冬獅郎に電話していた。冬獅郎とちゃんと腹を割って話したい。今までのことを全て謝り、冬獅郎の気持ちもちゃんと知ってもっとちゃんと心から付き合いたいと思うから。
 了解を得た市丸は電話を切り、冬獅郎の家に向かう準備を始めた。
『ほんま一護ちゃんには感謝やなァ。・・・・・一護ちゃん鈍感やな。なんであの阿散井くんの態度で気付かへんのやろ?まぁ阿散井くんも鈍感やけど・・・はよくっついたらええのにな・・・』
 一護にセクハラしながら2人の気持ちを悟っていた市丸が冬獅郎の前以外で特に恋次の前でもよくセクハラしていた。一護はそっちの方には気付いていなかったが・・・・一護を利用する代わりの恩返しとして市丸はわざと恋次の前で一護にかまって恋次の気持ちに気付かせてやろうとしていたのにあまり意味がなかったようだった。
『先が思いやられるなァ・・・・・・。さて、用意出来たし行こか』
 カバンに資料など全て詰め終わり、市丸も国語準備室を後にした。一刻も早く冬獅郎に会いたいと思うと自然と前に出る足が早くなる。可愛い恋人に会うために市丸は駐車場へと急いだ。


『ごめんな急に呼び出してもぅて』
 車を飛ばし冬獅郎の家の前までくると、すでに冬獅郎は前で待っていてくれた。冬獅郎を乗せ、まだ御飯を食べていないと言うので近くのレストランに入り食事を済ませてから家へと帰ってきた。普段ならお気に入りのソファにならんで座るのだが、今日はテーブルの方で向かい合わせに座った。
『・・・別に。今日仕事終わるの早くねぇか?』
『今日はたまたますることなかったんや。それより・・・話あるんやけどええかな?』
 僕にしては真剣な顔で切り出すもんやから冬獅郎は何事かと一瞬顔がこわばった。
『僕な・・・冬獅郎のこといっぱい傷つけててんな・・・』
『なんだよ・・・急に・・・』
『僕な、ずっと一護ちゃんにちょっかいかけてたやろ?あれな・・・冬獅郎にヤキモチ焼いて欲しかったからやねん。・・・冬獅郎・・・好きってゆうてくれたことないから・・・・。別に冬獅郎の気持ち疑ったわけやないねん。ただ・・・・ゆうてくれへん分態度で示してくれたら嬉しいなァ思て・・・。でも冬獅郎怒ることもしてくれへんし・・・僕もだんだん不安なってきてもぅて・・・。でも今日一護ちゃんが教えてくれたんや。昨日冬獅郎が苦しそうな顔しとったって。だから・・・ほんまにごめんな』
 僕の気持ちはこれで全部や。一気にゆうてもうたけど・・・・伝わったんかな?さっきから冬獅郎下むきっぱなしで 表情見えへんし・・・。
 少し不安になっていると、冬獅郎が口を開いた。
『・・・・っかやろー・・・。俺は・・・その・・・好きとか全然言えねぇし・・・ギンがいつもくれる分の愛情を全然返せてねぇって思ってて・・・それでも恥ずかしくて言えなくて・・・・・そんな俺にギンが飽きたってしょうがねぇって思ってたし・・・・ギンが一護に手出してようが俺に止める権利はねぇって・・・・でも・・・・苦しくて・・・・・』
 なにかを堪える様にポツリポツリと吐き出した言葉は、付き合い始めて初めて聞く冬獅郎の本音だった。
 震えるちっちゃい体を見ながら僕は改めて残酷なことをしたと思た。こんなちっちゃい体で背負いきれん思いを背負わせてもぅたとほんまに後悔した。
せめてその震えを止めてやりたくて僕は席を立って冬獅郎のところへ行き、力いっぱいに抱きしめる。
『ごめん・・・・・ほんまにごめんな・・・・』
 堪えきれずにこぼれた涙が僕の肩を濡らす。初めて見た冬獅郎の弱音に驚きつつ、僕が冬獅郎の プライドを崩したんやと静かに思った。


『・・・・・ほんまにごめんな』
『何回目だよ・・・俺だって悪かったんだからそんな謝んな』
 なんとか落ち着きを取り戻し場所を変えてあのお気に入りのソファにいつものように隣同士で座る。泣いてしまって照れているのか冬獅郎は顔が赤いままだ。
冬獅郎が泣いている間、ずっと抱きしめたまま“ごめん”だけを繰り返しつぶやいとった。それしか言葉が浮かんでこんくて、それ以外に当てはまるええ言葉が見つからんくて・・・・。
『なァ・・・もっと話してや。冬獅郎も本音』
『本音って・・・・・』
『じゃぁ僕から思うこと全部言うわ。だからあとで冬獅郎も全部ゆうてや?』
 そう言うと観念したようにコクンと頷く。それを見て、あァ・・・話してくれるんや・・・と少し安心して、ゆっくりと口を開く。
『僕が冬獅郎に飽きることなんてあらへんよ。ヤキモチやかせるためとは言え一護ちゃんに手ぇ出して冬獅郎を傷つけてほんまにごめんな。僕は冬獅郎が大好きやで』
 顔を見て微笑むと冬獅郎は顔をまた赤く染めパッと目を逸らす。そして、冬獅郎もまたゆっくりと口を開いた。
『・・・・ほんとは・・・俺以外に触られんの嫌だった。何回嫌だって言おうと思ったかわかんねぇぐらい思った。でもずっとそんな権利ないって思ってた。別れようとも思った・・・けど・・・・ギンが俺に会ってくれている間は・・・・・俺から離れるのは嫌だったんだ。だから・・・・何も言えなかった。ギンも苦しい思いしてたなんて気付かなくてほんとに悪かった。・・・・・・俺は・・・・』
 みるみるうちに赤くなっていく冬獅郎を不思議に思いなんやろ?と思いつつ次の言葉を待つ。そうすると急に冬獅郎が僕にギュウッとしがみ付いてきた。
『ななッ!?なんや?!冬獅郎??』
 条件反射で冬獅郎の体を受け止め抱きしめると耳にほとんど吐息で言葉が入ってくる。その言葉を聞き取ったとき、僕は飛び上がるほどビックリしたと同時にふつふつと嬉しさがこみ上げてきてギュウッと冬獅郎を抱きしめた。

――――俺も・・・ギンがスキ・・・

 初めて・・・・ほんまに初めて言葉にしてくれた。このたった2文字がこんなに嬉しい言葉なんやと思たんは初めてかもしれへん。こんなにも単純な言葉がこんなにも重い気持ちを含んでるなんてしらへんかった。
冬獅郎の気持ち・・・・・ずっと言ってくれんでも冬獅郎は僕のこと好いてくれてるて信じとったけど・・・・・言葉で言われるとこんなにも伝わってくるんやね。
『おおきに・・・冬獅郎・・・・』
 顔見たくて体を離そうと思うけど、冬獅郎がそれを許してくれんかった。僕にしがみついたまま離れへん。いつも以上に赤なった顔を見られたくないんやろうな。もったいない気はしたけどあの言葉が嬉しかったから、それで十分か思て冬獅郎を無理に剥がすことはせんかった。それぐらい・・・・ほんまに嬉しかった。


 僕は上機嫌。だってさっきなァ〜冬獅郎恥ずかしがってなかなか顔上げてくれんかったんやけど、急にバッと顔上げた思たら何してくれた思う??
なんと!冬獅郎から僕にちゅぅしてくれたんや!!しかもな・・・・・
『もう一護にちょっかいかけないでくれ・・・・ほかのやつにも。 ・・・・・俺だけ・・・・見てろよ・・・・』
なァんて可愛らしいこと言うてくれてん!!そんなん可愛い可愛い冬獅郎に言われたらもぅ二度とあんなこと出きんやろ〜。あァもぅ・・・・幸せやァ・・・。
 まぁ一護ちゃん以外に手出すことはまずありえへんねんけどね。あんなん言われたらもぅ一護ちゃんに手出すんもやめなね。これぞ僕が望んでた“冬獅郎にヤキモチやかせるぞ大作戦”や。まぁ失敗やったけど・・・。結果オーライかなァ・・・。これも一護ちゃんのおかげや。ほんまに一護ちゃんにもはよ幸せになってもらいたいなァ。
 そんなことを思いつつ、市丸は隣で気持ちよさそうに眠る冬獅郎の髪を優しくなでる。今日はほんとに泊まりにきただけでヤッてはいない。次の日学校がある日は冬獅郎が嫌だと言うので市丸もヤらないと約束している。破るとあとが怖いので・・・・。
寝顔を可愛いと思い、ガマンできずに優しく抱きしめる。冬獅郎は普段では考えられないほどに素直に本音を言ったことが余程疲れたのか、眉をピクリとも動かすことなく一定の寝息を立てている。そのことにホッとしながら市丸も静かに目を閉じ 深い眠りに落ちていった。


『・・・・ギン・・・・起きろよ・・・・ギン』
『ん〜・・・なんやァ?もう朝か・・・?おはよぉ冬獅郎』
『おはよぉじゃねぇ。遅刻するぞ』
 まだ寝ぼけ声を出す市丸をひっぱり起こす。
目が冷めたとき、ギンの腕の中にいてビックリした。いつからこうなっていたのかは全然わからないが、暖かくて心地よくて、しばらくそのままの状態でボーっとギンを眺めてしまっていたため、結構時間がせっている。
昨日は今までにないくらい恥ずかしかったことの連発だったため、いつもよりさらにギンに冷たくなりそうだ。
『ん〜・・・・なァ今日2人でサボろやァ・・・』
『教師が生徒にんなこと言ってんじゃねぇよ。俺は行くからな』
 ベッドから下りようとした瞬間に腕を引かれ俺はそのままベッドの中に引きずり込まれた。
抵抗したが体格差がありすぎでギンはビクともしない。しかたなく、声を上げることにした。
『ギンッ!!なにすんだよ!遅刻するって言ってんだろ?!』
『・・・・・じゃぁ僕もちゃんと行くから・・・・おはよぉのちゅぅして』
 ギンは言い出したら聞かない。そして俺がするまで このまま離さない気だろう。
俺は少しムスッとした顔でニヤニヤとするギンの顔を睨みつけてから顔を近づけ唇を合わせた。
『これでいいんだろ?』
『満足や。ほな学校行こか冬獅郎』
 最初から素直に出て来いよ・・・と思う。ギンのせいでかなりいそいで準備をしなくては間に合わなくなった。いくらギンの車で飛ばして行くからといってもゆっくりしすぎだ。
 俺は自分がギンに比べて子供なのがすごく嫌だった。つりあわないと思っていたから。でも・・・・・・最近ギンも相当子供なんじゃないかと思い始めた。甘えただし。今だって遅刻しそうだというのに後ろから擦り寄ってくるし。
“急げっていってるだろ!”と怒りつつも、実は心地いいと感じてしまっている天邪鬼な俺に、たぶんギンも気付いているから・・・・・・そのへんに大人の余裕を感じてムカつくが。
こんなのもいいか・・・と思ってしまうのは結局ギンが好きだからだろう。
“好き”と素直に言えるようになるまでもう少し掛かりそうだが・・・・・少しずつでもいえるようになっていきたいと思った。もう2度とギンを苦しませないように・・・。


 学校へと飛ばす車に中で、昨日一護に助けてもらったんだと 言う話を聞いた。手を出していたのはギンだが、俺のせいで巻き込んだことにもなるので、今日一護に謝りに行くことにした。
 なんとか遅刻は免れて3時間目が終わった後一護のいる2−Aの教室を覗く。オレンジの髪と赤の髪が2人で一緒にしゃべっているので目立つため、すぐに見つかる。ドアの近くに座っていたやつに一護を呼んで欲しいと頼むとそいつはその場から一護を呼んだ。一護はパッとこっちを振り向くとすぐ俺に気がつき、阿散井に一声かけてこちらへと向かってくる。そして廊下の窓のところまで移動した。
『どうしたんだ?冬獅郎。めずらしいじゃん』
『お前は先輩とか日番谷さんとか呼べねぇのか?』
『いいじゃねぇか!俺と冬獅郎の仲だろ。で?用件あるんだろ?』
『・・・・・。昨日、ギ・・・市丸に話を聞いて・・・・俺達の問題に巻き込んで悪かったな』
『なんだ。そんなことかよ。べっつに。仲直り出来たのか?』
『あぁ。ケンカしてた訳じゃないが・・・・分かり合えた気はする・・・』
『なら良かったじゃねぇか!』
 ほんとにコイツは自分のことのように笑う。一護みたいに素直になれたらいいのに・・・と思う。
『本当にありがとう。・・・・で?一護は阿散井とどうなんだ?』
『なぁんもかわんねぇよ。まぁ俺が変わるのを怖がってるんだから変わるわけねぇよな・・・』
『・・・・・昨日・・・ギン・・・ッ市丸が・・・』
『無理して市丸って呼ばなくていいのに・・・・』
 人前でギンと呼ぶのはなんだか恥ずかしくて嫌なのに・・・・どうしてもくせで出てしまう。一護は俺がギンと呼ぶのを知っているから別にいいんだが・・・・・やっぱり恥ずかしくて今までもずっと市丸で話してきていたのに・・・。
『・・・・・黙って聞け。昨日市丸が言っていたんだが・・・・そんな臆病にならなくても大丈夫だと言っていたぞ。・・・・・もっと積極的になれって・・・』
『なにを根拠に言ってんだアイツは・・・』
『さぁな。でも・・・俺もそう思う。もっと阿散井にいろいろ聞いてみたらどうだ?』
『なにを?』
『・・・・・たとえば・・・・・好きなやついるのかとか・・・・好きなタイプとか・・・・』
 市丸は昨日一護たちは両思いだと言っていた。俺もそう思う。ギンが門のとこで一護にちょっかい出してたときのあの阿散井の反応を見ていれば気付いてもいいだろうに・・・・・。鈍感にも程がある。
『そんなこといってもよぉ〜・・・・・あぁでも・・・・やってみる』
『ん?どうしたんだ急に。いままで散々嫌がってたじゃねぇか』
『いや、なんつーか・・・冬獅郎たち見ててさ、みんな悩んで怖くても進んでるんだって思ったら俺もやってみようかなぁと思って・・・』
 そういった一護の顔は今までとは少し変わって、なにかを決心したような目をしていた。
その瞬間チャイムが鳴って俺は少し慌てる。
『まぁ頑張れよ!絶対大丈夫だ。じゃぁな』
『ぉう!サンキュ、冬獅郎!』


 何を根拠に市丸も冬獅郎も大丈夫だとか言うんだ?俺を勇気付けてくれてんのかな?なら俄然やる気にはなるけど・・・・・今日あたりにでも聞いてみるかな・・・・。
教室に入った俺は恋次のところへ行く。
『なぁ恋次。今日暇?』
『あ?今日はなんもねぇけど・・・』
『じゃぁ俺ん家寄ってくよな?』
『あぁ・・・・一護がいいんなら』
 よしッ!今日ちょっと頑張って前に進んでみよう。今なら・・・・出来る気がする。
 決意を胸に、ドキドキするのを抑えてあまり集中できない残りの授業を受ける。授業の合間に恋次としゃべっているときでさえ、挙動不審になりそうな自分を抑えるのに必死だった。

 一方の恋次も・・・決意していた。一昨日修兵の ところに行って固めた決意。今日が勝負だと思った。一護に暇かと聞かれたときからもうドキドキがとまらなかった。落ち着かなくて饒舌になっていた気がする。変なところはなかっただろうか?

 もうすぐ一護の家に着く。