何回も連れてきているため、すっかり家の構図を覚えてしまった恋次。
俺がお茶を持って上がるから先に俺の部屋へ上がっててくれと言ったら自分の家のように軽い足で上がっていった。
 さぁどうしようか。せっかくのチャンスだ。前進すると決めたからには少しでもなにか聞き出さなきゃ。ほんの少しでいい。些細なことでもいいから、恋次のことを知りたい。
そういえば、俺も恋次も恋愛の話とかはしたことがない。俺はまぁ避けてたってのもあるけど・・・・恋次からもそう言う話は聞いたことがなかった。あれだけ一緒にいて、性格とか、他の事は知り尽くしているようなものなのに。どういう子がタイプとかそういう話はほんとにしていない。そう考えると、なぜか余計に緊張する。どう切り出そうか・・・・・・。
 とりあえずお茶が入ったのでお盆に乗せ、俺も階段を上り恋次が待つ俺の部屋へと向かった。

『お前・・・・いくらなんでも慣れすぎだろ・・・・ちょっとは気遣え』
 俺は部屋に入った瞬間呆れる。思わずお盆を落としそうになったぐらいだ。それもそのはず・・・。恋次ときたら人の部屋あさりまわって勝手にCDかけてるし雑誌は読んでるし寝っ転がってるしでやりたい放題だ。まるで自分の部屋の様に馴染んでいる恋次を思いっきり蹴飛ばしてからテーブルにお茶を置き、俺も座る。
『いってーな一護』
『痛ぇじゃねよ誰の家だと思ってやがんだ?図々しいやつだな』
 しばらくぎゃいぎゃいと言い合ったあと、どうでもよくなってきてその言い合いがピタッと止む。部屋にはさっきから俺の好きな歌手のアルバムがずっと流れている。俺が恋次に勧めたやつだ。恋次もすぐ気に入って、俺の家に来るたびにこの曲をかけている。俺も好きだから全然いいんだけど。ただ、なんかこの3番目の曲が俺の今の心境にすっげぇ似てるんだ。でも今この曲を聴くのはプラスになる。この曲の主人公と俺で違うところは、この主人公が最後にはちゃんと思い人に気持ちを伝えてるところだから。
だから俺も頑張ろうって思うんだ。恋次の図々しさに感謝だな!

『やっぱいい曲だよなぁ』
『って一護!!なんでいい曲だとかいいながらCD止めんだよ?』
 3番目の曲にパワーをもらった俺は立ち上がり4曲目に入る寸前に電源を落とした。言動が伴っていないため、恋次はすばやくツッコミを入れてくる。
『恋次と話したいのにこれじゃ恋次の声聞こえねぇだろ』
『なっ・・・・そんな改まってなに話すってんだよ・・・?』
『俺と恋次がしたことない話』
『はぁ?!なんだよそれ!?』
 余裕ぶってるけど内心ビクビクなんだ。何からどう聞けばいいのか。不自然じゃないのか。冬獅郎は大丈夫だとか言うけど、なにが大丈夫なのか本気でわかんねぇし・・・そもそも恋の話ってみんなどぉやって切り出して始めんだよ?
とりあえず座って、お茶を一口すする。緊張のためか、口の中がカラカラだ。ってかとにかく・・・明るく明るく・・・・・。
『なぁ恋次ってさ、数学の朽木のことどう思う?』
 まずは遠くから行くことにした。朽木って俺から見てもやっぱ怪しいし・・・恋次のこと好きなんかなぁって思うし。恋次は朽木をどう思ってるのか・・・・・。
『どうって・・・・別に意識してねぇし。よく当てられるしウザイやつだと思うけど・・・・ってまさか一護・・・朽木が好きなのか!?』
『はぁ!?んな訳ねぇだろぅが!!!』
 まさかそう返ってくると思わなかった。なんでそこで俺が朽木好きとかになるかわかんねぇけど・・・・・俺聞き方悪かったか??
『なんだよ・・・・じゃぁなんで朽木の話なんか持ってきたんだ?』
『ん〜・・・あいつってさ、恋次のこと好きなんじゃねぇかなぁって思って』
『なっ!?んな訳ねぇだろぅが!!朽木は俺のこと嫌いだからあんなことしやがるんだよ。つーかお前はどうなんだ?市丸とか浦原に言い寄られて・・・・一護はどう思ってんだよ?』
『ありえねぇって!!市丸は冬獅郎と付き合ってるの知ってるだろ?』
『あぁ知ってる。でもあいつ一護に絡んでくるじゃねぇか』
『あぁ〜・・・・実は昨日さ、ちゃんとそのことで話つけてきたんだよ』
 俺は正直に全部話す。昨日市丸に会いに行って、どういうことなのか聞いてたことと、ついでに今日冬獅郎と話した内容も。いや・・・全部じゃねーな。俺の気持ちがバレる部分は隠して・・・・。
『利用ねぇ・・・。災難だな。じゃぁ市丸はこれから先手出してこないんだよな?じゃぁ浦原は?』
『浦原って俺のこと本気で好きなのか??あんなよくわかんないやつ嫌だぞ俺。つーか付き合うとかまずないし。全然好きじゃねぇし眼中にもない。ただの変態理科教師だ』
 ここまで言っときゃ大丈夫だろ。恋次も変に勘違いしたりしねぇよな??やっとまともに否定できた!!これで信じてもらえりゃいいけど・・・・・。
つーか恋次は朽木のことなんにも思ってねぇんだ・・・。よかった。つーかでも好きな人とかいないのか??今度はそっちが気になる。でもなんかさすがに一気にそこまで聞くのも・・・・・。
『じゃぁよぉ一護ってどんなやつが好きなんだ・・・?』
 え・・・・・?好きなタイプ?まさしく恋次なんだけど・・・・・どう答えりゃいい?素直に特徴言っちまうか??赤髪で長髪で・・・・・いやいやいや。ひかれたら困るし。じゃぁ全然違うの言うか??髪短くてナイスバディな年上・・・・とか?そんなん自分からチャンス遠ざけてどうする!!!!もし恋次にちょこっとでも俺のこと好きだって気持ちがあったとしたら、こんなこと言ったら自分で壊しちまうだろうが!!!どうすりゃぁいいんだ?!
『あ・・・・ぇ・・・えっと・・・・恋次みたいなのもタイプかもなぁ〜なんて・・・ハハハ・・・』
 ごまかせたか??コレでひかれたら俺マジでもう学校いかねぇ。 つーか俺もはっきり答えすぎたか???コレって・・・・ヤバイ??なんか恋次止まっちまったし・・・・目見開いてるし・・・・・やっぱひいたのか??
『れっ・・・恋次はどぉなんだよ!?好きなタイプどんな子なんだ??!』
 違う話題を振るつもりがなぜか繰り返し。パニクりすぎだって俺。でもマジでヤバイことしたかも・・・・。
『ぉ・・・・俺のタイプかぁ??そぉだな・・・・・ぉ・・・俺も、お前みたいなやつがいいな!気楽だしな!!』
 え?これ冗談か??ってか俺でもOKだってことか?これは俺でも付き合えるぜってことなんか??いや、俺が恋次みたいなって言ったから合わせて言ってくれただけかもだし・・・・それに俺みたいにさっぱりしてる方が付き合っても楽だから俺みたいなやつがいいって言っただけだよな??
でもこれってすっげぇ嬉しい。もしかしたら頑張り次第で俺の気持ち伝えれるかもしれないってことだよな???


 そこからどうしたのか・・・・パニクりすぎてよく覚えていない。あの話題はたぶんすぐに流れていって、別のこと話してた気がするけどよく覚えていない。時間も時間なので恋次もすぐに帰ったし・・・・。ただ恋次が帰った後の俺のテンションはヤバかった。
アレがもし本当だったとしたら・・・・もしかしたら俺は恋次と付き合えるかもしれない。そう思うだけで顔が自然とほころぶ。今までゼロに近かった可能性が今日勇気だして踏み出したことでゼロじゃなくなった。恋次に少しは意識してもらえるようになるかもしれない。めちゃくちゃ頑張れる気がする。


『よぉ。どうした恋次こんな時間に』
『先輩!!ちょっと話聞いてくれ!』
『なんだよ嬉しそうじゃねぇか。中でゆっくりきいてやるよ』
 一護の家から直行で先輩――修兵の家まで走ってきた。早く報告がしたくて。
 一護が音楽消して改まったとき、どうなるかと思った。沈黙がいやで音楽鳴らしてたのに・・・・・。一護がお茶をくんでいる間ずっと悩んでた。どうやって話を切り出そうかって。一護と言い合っている間だって気が気じゃなかった。ただ、あの3曲目は俺の心境にちょっと似てて・・・・・勇気もらえたから話してみようと思ったのにいきなり一護が改まるからタイミング崩れちまったし・・・・・。まぁ結果オーライだったけど。俺も聞きたいこと聞けたし。
『なんか前進出来たみてぇだなぁ恋次』
『あぁ!今まで一護の家に行ってて・・・・好きなタイプ聞いてみたんだ。そしたら俺みたいなのもタイプかもって・・・』
『マジか?!良かったじゃねぇか恋次!!お前のものに出来る日は近いんじゃねぇか??』
『わかんねぇじゃねぇか。だってあれ冗談ってこともあるしな』
『ばーか。気のねぇやつなら冗談でもそんなこと言うわけねぇだろ?ちょっとでも気があるからこそ言ってんじゃねぇか』
『そぉいうもんか?』
『あぁ。お前告っても大丈夫だと思うぞ』
『バッ・・・!!まだそんなん早ぇよ』
 好きなタイプ知っただけなんだ。先輩の言うとおり一護が本気で言ってくれてんなら可能性がある訳だし・・・・・もぅちょっといろいろ聞いてみてもいいかも知れねぇ・・・。
『なぁ先輩!マジでありがとな』
『あぁ?言ったのはお前だろうが』
『でも勇気くれたのは先輩だしな!』
『バーカ。まぁよかったな。前進出来て。これからが本番だぜ?頑張れよ恋次』
 先輩の手が伸びてきて俺の髪をガシガシと撫でる。くくってんのにそんなガシガシしたらぐしゃぐしゃになるじゃねぇか!って思ったけど・・・先輩もすげー喜んでくれてるから今日は大人しくされてやる。
この俺が失恋したんだ・・・くっつかなかったらマジ殺す
『ん?なんか言ったか先輩?』
『いーや別に。今日はたっぷり飲ませてやるよ!!祝おうぜ?』
『おおげさだって先輩』
『ばーか。もしフラれたら祝えねぇだろ?』
『なっ!?くそ・・・・っ』
 部屋の奥から何種類もの酒をもってくる先輩を見て俺はものすごく嬉しくなる。
この人に相談してて良かった。心からそう思えた。こんなに自分のことみたいに喜んでくれる人、いねぇだろ?
まだ付き合えたわけでもないのにここまで喜んでくれる人、俺の知ってる中ではこの人だけだと思う。
ただ酒飲みたいだけって言われりゃなんも言えねぇけどな。でもこの人には・・・・・幸せになって欲しい。そのとき、今度は俺が浴びれるほどの酒買ってきてやるからさ。
先輩にそう言ったらまた“ばーか。百年早ぇよ”って言われたけど・・・・・。俺はマジだからな。
 まぁ人の心配よりまず自分だけど・・・・明日から結構動きやすくなったかもしれねぇなぁ。もっともっと一護の中で俺の存在をでかくしてやる。“友達”としての存在じゃなくて・・・・“付き合ってもいい対象”としての存在で。
『ぉら恋次!もっと飲め!お前の祝いだろ?!』
 先輩にあおられるまま、その日は夜中までずっと先輩につき合わされていた。
次の日の二日酔いの怖さも知らずに。



 放課後の学校の職員室。今日の残業者は3人。といってもちゃんと仕事をしているのは1人ぐらいだが・・・・・。
『朽木センセって・・・・2−Aの授業の時、阿散井くんのことよぅ当てるらしいやないですか』
『そうなんスか?朽木先生って阿散井くん狙いスか?』
『先生方には関係のないことです』
『あららァ。否定せん言うことは朽木センセは阿散井くんを好きなん?』
『・・・好き?』
『違うんスか?』
『好きということがどのような感情なのか私にはわからぬ』
『単純なことっスよ!阿散井くんのことが頭から離れない、気になってしょうがない・・・こんな気持ちなら間違いなく好きでしょ』
『そぉやねぇ。でも・・・・・阿散井くんには好きな子おるで』
『・・・・・黒崎サン・・・・スか?』
『やっぱりみんな知ってはりますなァ。気付いてないのは本人達だけ・・・』
『やっぱりあそこの2人、両思いスか?アタシ黒崎サン狙ってたんスけど・・・・やっぱ無理ですかねぇ?』
『浦原センセ一護ちゃん狙いやったんですか?と言うより・・・本気やったんですか?』
『そりゃぁもぅ・・・・・』
『・・・・(怪しいわぁ一護ちゃんよかったなこんなおっさんに捕まらんで)それより・・・朽木センセ?今日3人で飲みに行きませんか?』
『いいスねぇ!いきましょーよ!失恋した心を癒しに・・・・ッ』
『・・・・・私は失恋と言う訳では・・・・』
『ええやないですか。浦原センセの失恋やけ酒に付きおうてあげても。3人で飲みましょ。僕ええ店知ってますよ』
『じゃぁ店は市丸先生に任せて、ね?朽木先生アタシの失恋やけ酒に付き合ってくださいよ』
『別にかまいませんが・・・・』
『ほんならさっそく行きましょか!』
 私は先生方が言うように阿散井が好きだったのだろうか?よくわからぬが・・・・・黒崎と両思いだと聞いた瞬間に胸の奥が少し痛んだ気がしたが気のせいだったのだろうか?確かに私は阿散井を無意識に当てていたが・・・・・好きだったのだろうか?
今となってはもう遅いが・・・・気付かぬ思いで良かったのかもしれんな。どっちにしろ黒崎が好きだと言うなら叶わぬ思いだったのだろう。これでよかったのだ。
『なにしてんですか朽木先生〜早く行きましょうよぉ』
『あぁ。今行きます』
 この2人と飲んでいたらこのような思いは綺麗さっぱり流せる気がするな。1人で夜風に当たりながら飲む酒も悪くないが・・・・・たまには語らいながら飲むのも悪くない。こんな訳のわからぬ気分のときには丁度いいのかもしれんな・・・。