いつも通りの朝。朝から親父を蹴散らして恋次と一緒に登校。門検査も今日はまともな先生で疲れはいつもよりまし。1時間目も2時間目も普通に授業をこなし、今日はついてる日だと喜んでいたところで3時間目・・・・・・理科。
今日の授業は教室で良いと連絡が来たので、恋次としゃべって時間を潰しつつ、いつもの絡みに備えていた。
10分休憩終了のチャイムとほぼ同時に浦原が教室に入ってくる。そのまま中に入ってきて教卓についたところで俺はパッと俯いた。
次に来るはずのいつもの言葉に構えて。
しかしいつまでたってもその言葉は来ない。“黒崎サン今日も可愛いッスねぇ”という言葉。
その代わりに浦原が発した言葉は
『さぁ授業始めましょうかぁ。教科書の39ページを開いちゃってくださぁ〜い』
だった。それには教室みんなが驚きを隠せずにいた。ザワザワと教室がザワつき、何人かは俺を見てくる。見られても俺にもさっぱりわからない。
『はぁ〜いはい。みなさぁ〜ん授業開始してますよ〜集中してくれなきゃ困りますよ〜』
集中出来なくしているのはお前だ。
誰もが心の中で呟いただろう。そんな俺達の心情を解っているのかいないのか・・・・・・すっかり無視で授業を進めていく。
みんなも仕方なく授業に集中しようと教科書を開く。俺もどこかモヤモヤしつつも、セクハラがなくなってラッキーだと思い授業に集中した。
『それじゃ今日の授業はこのへんで終わっときましょーか』
あと少しでチャイムが鳴るだろうというところで浦原が教科書を閉じる。他のヤツも集中を解き、教科書をしまった。
俺も他のヤツと同様に教科書をしまって何事もなく授業が無事終わろうとしているところで・・・・・・浦原に呼ばれる。
俺も周りもみんなが無事に終わったとホッとした瞬間だった。狙ったとしか思えないタイミング。
いや・・・・・まだいつものノリと決まった訳ではない。授業のことでなにか話しなのかもしれない・・・・・・そうであることを祈りながら俺はゆっくりと浦原に視線を合わせる。周りも俺達に釘付けだ。
『黒崎サン、アタシあなたのこと諦めることにしたんスよ。どうもその思い人には勝てそうにないんで・・・・・幸せになれることを祈ってアタシは身を引かせていただきます。それではみなさんチャイム鳴るまで教室で静かにしてて下さいね〜』
ピシャリとドアが閉まる。誰も反応出来ず、ただ唖然と俺を見ている。俺自身も何がなんだかさっぱりわからなくて立ち尽くしている。
そんな中真っ先に立ち直った俺の前の席のヤツが俺にどういうことなんだ?と詰め寄ってきた。それが合図であるかのように他のヤツも次々に俺に問い詰めてくる。
問われても俺にはさっぱりわからない。浦原は俺の好きなヤツを知っているのか??パッと恋次のほうを見ると、すでにそこには恋次が居なかった。どこにいってしまったのだろうか・・・・・・。
と思っていると問い詰めていた1人が俺にこう言った。
『一護の思い人って恋次だろ?浦原は恋次に勝てないと思ったから身をひいたってことだよな?』
『・・・・ちょっと待て。なんでお前らが俺が恋次を好きだとか知ってんだ??浦原も・・・・』
その問にクラスのやつは全員顔を見合わせた。そしてさっきと同じヤツがまた口を開く。
『どうしてもこうしても・・・・・顔に書いてあんじゃん。俺は恋次が好きだって』
嘘だろ??そんなに出てるのか俺・・・・。クラス全員がわかるほど出てるのか??
『恋次も解りやすいよなぁ〜』
『は?何がだ??』
『はぁ〜?・・・一護もしかして気付いてねぇのか??』
『だからなにが?!』
『・・・・・・恋次も明らかにおまえ好きだろ』
そういわれて俺は反応が出来なかった。まず言葉の意味が解らなかった。
―――――レンジガオレノコトスキ??
『もしかして一護マジで気付いてなかったのか??』
『俺とっくに付き合ってると思ってたぜ』
『俺も〜』
そんな言葉がなんとなく耳から入ってくるものの、頭には1つもインプットされない。
それでもどこかでたくさんのことを考えている。一瞬頭をよぎったのは昨日の市丸の言葉。
――――――『邪魔なおっさんらは僕が昨日諦めさせたったから』
このことだったのか・・・・。そしてクラスの連中が俺達両方の気持ちがわかるほどだったということは市丸も浦原も俺達の気持ちに気付いていたということ・・・・・・だから市丸は心配しなくてもいいとか言ってたんだな。やっと話が繋がった。
そこでやっと俺達が両思いだということを認識できた。悩んでいた帰還がバカらしく思えるほど。でも恋次はこのことをしらない。やっぱり俺から伝えなくちゃいけない。両思いだとわかっている以上告白なんか怖くない。恐れることなんかなにもないんだから当たり前なんだが・・・・・・やっぱり緊張はするんだなと思う。
言うなら今日だろう。俺の家で落ち着いてから伝えよう。
『待てよ浦原』
『おんや〜?阿散井サンじゃないですかぁどうしました?』
浦原が教室から出た後すぐ、恋次はその後を追いかけ教室を出た。以外に歩くのが早い浦原をやっとのことで捕まえる。
『さっきのどういうことなんだよ?』
『なにがッスかぁ?』
『一護から身を引くっていう話だよ』
『そのままじゃないスか。黒崎サンに思い人がいる。そしてその相手も黒崎サンを思っている。アタシに入る隙なんかありますか?だから身を引くんですよ』
『なんであんたが一護の好きなヤツ知ってんだ?』
『それはッスねぇ〜・・・見てればわかるッスよ。阿散井サンは近すぎてわかんないのかも知れないスねぇ〜』
『どういうことだよ?』
『んじゃアタシは次の授業があるんで〜』
『っておぃ!!待てよ浦原っ』
呼び止めようとしたがあまりに逃げ足が速かったため、追うことも出来なかった。
空を切った手をグッと握り締め、恋次は小さく舌打ちをした後、来た道を静かに戻っていった。
4時間目が始まる少し前、恋次が教室に戻ってきた。どう話しかけていいものかわからなくて言葉を探す。でも恋次の顔を見た瞬間、言葉はすべて引っ込んだ。
なにか機嫌が悪い。なぜかわからないが機嫌がとてつもなく悪い。これで今日話なんか出来るだろうか??そう思うほどに。
俺は今声を掛けるのを諦めて次の授業の用意をした。今度は・・・・・数学。
チャイムより少し早く朽木が入ってきた。教卓についたところでチャイムが鳴る。
そしていつも通り落ち着いた声で授業を開始した。黒板にスラスラと問題を書いていき、
黒板いっぱいいっぱいに問題を書いたところでこちらを向く。当然回答者を当てるため。
そして誰もがいつも通り一番最初は恋次だと思っているため気を抜いていた。だからこそ全員がビックリした。
呼ばれたのは恋次ではなく、1番前の席のヤツだったからだ。
『どうした?わからないのか?』
『あ・・・・いえ・・・・・56です』
『あぁ。あっている。それでは次を・・・・』
次々と朽木は問題を解かせていく。しかし授業ももぅ終わりに近づくというのに、まったく恋次を呼ぶ気配がない。あれだけ毎時間、1人目は恋次を必ず呼んでいたというのに。
そしてそのまま恋次を呼ぶことなく授業が終わり、朽木は何事もないようにさっさと教室を出て行ってしまった。
当然今度は恋次が注目を浴びる。
『恋次お前なんかしたのか?』
『朽木先生怒らせたんじゃねぇの〜?』
そんな質問がそこらじゅうから飛びまわる。
『うるせぇな!!俺にもわかんねぇよ。たまたまだろ、たまたま』
その答えにみんなもらちがあかないと思ったのか、それぞれ昼食をとりに散らばっていく。そういえば昼休みだなぁと思い出し、俺もカバンの中から弁当を取り出した。
『恋次、昼飯食おうぜ?』
『あ?・・・・あぁそうだな』
さっきは怒っているように見えたが・・・・・・・不安に思いながらも誘ってよかった。
つーか両思いなんだよなぁ〜。考えたら急に恥ずかしくなってきた。
どう接していいのかわからなくなってくる。でもせっかくなんだし、みんなが言うようにほんとに態度に出てんのか調べてみたくなってきた・・・・・。
気になりだしたら止まらない。俺はそういう瞬間を見つけたくて、出来るだけ多く話しかけようとやってみた。
『なぁ恋次、今日さ、家来る?』
『あぁ〜・・・・いいぜ』
『なんだよ今の間』
『用事なかったか考えてただけだろーが』
他愛もない会話。やっぱりそれだけじゃ俺が好きなんていう感情見えてこねぇ。みんなはどこを見て恋次は俺が好きなんだってわかったんだ??全然わかんねんだけど・・・・・。俺ってそんなに鈍感なのか??
結局わからないまま昼休みが終わり、午後の授業を受けるため教室へと戻った。
午後の授業は何事もなく終わり、すんなりと帰宅する。
そして現在俺の部屋。今から告ろうと思うのだが・・・・・いざ告るとなるとなかなか切り出せない。
恋次もなぜかだんまりだ。今はしてはいけないような空気。とりあえず他の話しで盛り上がってからにしよう。さりげなく言えるように・・・・・。
『なんかさ・・・・朽木変だったよなぁ〜。いつもなら恋次当てんのにな』
『そうだな。まぁ俺は解放されてよかったけどな』
それを聞いた瞬間俺はまた市丸の言葉を思い出した。
“邪魔なおっさんらは僕が・・・・”
おっさんら・・・・“ら”ってことは・・・・・浦原だけじゃねぇ。
俺が知る限り俺に好意を持ってちょっかいかけていたのは浦原だけ。ということは恋次のほう。恋次にちょっかいかけていたのは朽木だ。これで本当に全てが繋がった。初めから周りはみんな知ってやがったんだ。知らないで悩んでたのは俺達だけか。
『なに笑ってんだよ?』
妙に嬉しくて自然と笑みがこぼれていたのか、恋次に指摘され恥ずかしさに顔を紅潮させる。グッと下唇を噛んで笑みを抑える。
『なぁ一護』
『な・・・なんだ??』
なぜか神妙な面持ちで話しかけてくる恋次に俺まで体が強張る。
恋次は一呼吸置いてから、バッと顔を上げ俺をジッと見つめた。
『浦原が言ってた思い人って・・・・・誰だ?お前この前そういう話したとき何も言わなかったじゃねぇか。俺に言えないようなヤツなのか?』
一気に口を開く恋次。とてつもない誤解をしてしまっている。早く俺は恋次が好きだと伝えなくちゃ。
そう思って口を開こうとした瞬間、俺の視界がぐるっと回った。思わず声を上げてしまう。
とっさに瞑った目を恐る恐る開けると、上から俺を見下ろす恋次が見える。
体を起こそうと手に力を込めるが、恋次に押さえつけられていてそれも出来ない。なんだこの状況・・・・・??
もしかして・・・・・押し倒されてる??
『恋次??なんだよコレ・・・・?』
どう反応すればいいのかわからず、俺はただ、どこか焦った表情で俺を見下ろす恋次を見上げていた。