『恋次・・・?どいてくれよ』
 自由なのは口だけ。手も足もガッチリと恋次に押さえつけられている。
それでも言葉だけでは恋次を止められない。
『一護・・・・誰が好きなんだ?』
『だからそれは・・・・・』

 こんな状況で言いたくなかった。一瞬ためらったが、俺は決意を固め、続きの言葉を言うため少し息を吸った。
言葉を発しようとした瞬間恋次が口を開きそれに遮られる。

『俺はテメーが好きなんだよ!!他のヤツになんか渡してたまるかよ!!』


 荒い呼吸を繰り返しながら俺の上のやつは真剣な目で俺を見つめる。
俺も訳がわからず恋次を見つめ返しているだけ。
 だってそうだろ?俺が言おうとしている言葉を先に言われたんだから。
でも・・・・・嬉しいよな。俺は恋次と両思いだって知ってたから言うのも楽だった。でも恋次はなんにも知らないんだぜ?それに、俺が他の誰かを好きだって勘違いしてるくせに告るんだもんな。コイツやっぱすげー。

 恋次は俺が何も言わないのに焦れたのか、そのまま俺に覆いかぶさるように倒れこんできた。
それが妙に情けなく見えて、可愛くて。そっと背中に手を回した。
ビクッと反応する恋次の体。
なぜそういうことをするのか?と問うように顔をあげる恋次に、俺は笑って

『俺が言おうとしてたこと、先に言うんじゃねぇよ』

と言ってやった。
 言葉の意味が理解出来ないのか、しばらくキョトンと俺を見つめる恋次。
その後は急に焦り顔になってパニクっている。
『な?!はぁ?!?!一護??何言って・・・・・ちょっと待て!!つまりなんだ??』
『焦りすぎだっての。つまり、俺も恋次が好きだって言ってんだよ』
『ぅ・・・・な・・・』
 言葉にならない驚きの後、ほとんど声に出さず口パクで“ほんとか?”と訪ねてくる恋次にうなずいてやると、まだ信じられねぇみたいにゴロゴロと転げまわっている。


『・・・・・落ち着いたか?』
『落ち着いた』
 あれから5分ほど、恋次は信じられず1人で散々暴れまくっていた。やっとのことで整理できたのか、いきなり俺の隣に静かに座りだしたのだった。
『ほんとに一護は俺のこと・・・・その・・・・』
『好きだっつってんだろ』
 なにを照れているのか。コイツってこんなうぶかったのか??
『恋次と俺は今から恋人同士。わかったか?』
『・・・・・・一護は今日俺に告るつもりだったのかよ?』
『ん〜まぁな。ちょっとズルいけど恋次の気持ちわかったから言っても大丈夫なんだなって』
『ちょっと待て。俺の気持ちわかったってどういうことだ??』
 やっぱり恋次も知らなかったんだな。気付いてなかったのは俺達だけでみんな知ってたなんて話。
 俺は最初から全部恋次に説明してやった。
俺が悩んでたことも、冬獅郎に相談してたことも、市丸に助けてもらったことも 浦原の言葉の意味も、今日聞いたクラスのやつのことも。
 そしたらやっぱり恋次も俺と同じように悩んでたんだと教えてくれた。修兵さんに相談とかしてそのせいで2日酔いだったことも全部話してくれた。さすがにみんなに気付かれてたなんてのは知らなかったみたいで、驚いてたけど。

 そういう話をしたらやっと現実味が沸いてきて、やっと気持ちが通じたんだなって実感できた。
それが妙にくすぐったくもあって照れくさかった。



 付き合いだしても今までと変わりなく・・・。
付き合う前から一緒に登校してたし・・・ただ顔を合わせるのが少し照れくさい。
『ぁ・・・ぉ・・・はよ・・・』
『ぉ・・・おう』
 付き合い始めて1日目の朝。どうも意識してすんなり言葉が出ない。慣れてしまえば全然平気なのだが・・・・・・。
『あっ。なぁ恋次、帰り本屋寄っていいか?欲しい雑誌が出てんだよ』
『あぁ。俺も寄りたかったんだ』
 そんな脈のない会話。そもそも恋人同士ってなんだ??
そりゃぁ付き合わなかったらキスとかもしないだろうケド・・・・・。ってかまだなんもしてないぞ。昨日もあのままいつも通り会話して恋次家帰ったし。昨日まで親友だったのに付き合ったからって即行キスとか出来るほど器用じゃねぇからな。でもするときがくるんだろうなぁ・・・・・・って何考えてんだ俺っっ!!!!
『一護?なに1人で百面相してんだ?』
『あ・・・いや別に・・・・。ん?アレって・・・ウルキオラとグリムジョー?』
 前方で2人が家から出てくるのが見える。
『あの2人って・・・一緒に住んでんのか?』
『さぁな・・・・って・・・ッ?!』
『ッ?!』
 驚いたのにはわけがある。
ココは普通の道路。もちろん朝なんだからみんな急いで会社やら学校やらへ向かってて人通りも多い。その中で俺達が目にしたのは・・・・・・・キスシーン。
そりゃぁ普通なら朝からうぜぇなって思うだろうケド・・・・・・・やってたのが ウルキオラとグリムジョーなんだから驚いて当たり前だろう。
 ウルキオラが振りほどき、すぐに唇は離れていったが、バッチリと見てしまった。そして、見ていたところもばれてしまった。
『朝から人のラブシーンのぞくなんざいい度胸じゃねぇか』
『んなとこでやってるテメーらが悪ぃんだろ』
 突っかかってきたグリムジョーに恋次が突っかかる。確かに恋次の言い分が正しいと思うのだが・・・・・・。
 そのときウルキオラがにらみ合うグリムジョーと恋次の間に入った。そして俺達のほうを向く。
『見苦しいものを見せてすまなかった』
『あ・・・・いや・・・・・』
 急なことに反応出来ずにいると、ウルキオラはこっちを向いたままグリムジョーの腹に1撃入れると“うっ”と呻くグリムジョーの腕を引いてスタスタと歩いて行ってしまった。
『ウルキオラ怒ってるんだな・・・・』
『ありゃぁ相当怒ってるだろ』
 2人で顔を見合わせてからまた歩き出す。


 今日の門検査は浦原。
それでも通るしかないので、意を決して門内に入る。
『おはよーございます〜・・・・おんやぁ〜?・・・・・・おめでとうございます』
『なにが?』
『阿散井サン、よかったスねぇ〜』
『なッ?!』
 浦原は俺達を交互に見て、言葉をかける。
なんで??なんでこいつは俺達が付き合ってるって知ってんだ??
昨日の夕方から付き合いだしてそれから誰にも言ってないし会ってもいない。なのになぜコイツは今会ったばかりの俺達が付き合ってるとわかったんだ???
 2人して“はてな”を飛ばす俺達の耳元で浦原がこっそり呟く。
『オーラッスよ。お2人ともわかりやすすぎますよ〜。ご注意を。ささっ。遅刻しますよぉ〜』
 背中を押され、仕方なく教室に向かう。
『俺達ってそんなにわかりやすいのか??』
『いつも通りにしてるはずなんだが・・・・・』
 どこがどうわかりやすいのかさっぱりわからない。
でも、教室に入っても鋭いやつにはすぐバレる。他のやつも、3時間目、4時間目辺りになるとだんだん気付いてくる。
なんでそんなにもわかるんだ??
『なぁ、俺達ってそんなにわかりやすいのか?』
『ん〜・・・・なんつーか・・・なんとなくだけど』
『そうなのか・・・?』
 みんななんとなくという。なぜだろうか・・・・・。冬獅郎ならわかるかもしれない。報告ついでに行ってみるか。


 昼休み。冬獅郎の教室に行くと、市丸と一緒に国語準備室にいるといわれたので行ってみる。んな堂々としてていいのかよ;;
 邪魔かな・・・とも思ったが、2人には世話になったから丁度いっぺんにお礼出来ていいかと思う。
準備室のドアをノックすると・・・・・・中から冬獅郎の叫び声。
『誰でもいいから早く助けてくれ!!』
 それを聞いて俺はドアを開けようとしたが、鍵がかかっていて開かない。
蹴り破ろうとした瞬間・・・・・鍵が開き、中から疲れた顔をしている市丸が出てくる。
『なぁんや・・・・・一護ちゃんか』
『な・・・・なんだよ??冬獅郎は??』
 中を覗くと肩で息をしている冬獅郎が見える。
『大丈夫か?冬獅郎?』
『一護・・・・助かった』
 なにか嫌な予感がして市丸を見ると・・・・・笑っているくせにどこか冷たい。これは・・・・・・ほんとに邪魔したんだな・・・・。
『まぁええわ。どないしたん?入り?』
『え??あぁ・・・・悪い』
 中に入りイスに座る。市丸がお茶を淹れてくれて前においてくれる。
『ん〜?一護ちゃんもしかして・・・・・阿散井君とうまいこといったん?』
『え?なんでわかんだ?』
『目だ』
 今度は市丸に変わって冬獅郎が答える。
冬獅郎も俺達が付き合ったっていうのわかったのか。
『目?ってどういうことだ??』
『お前ら2人とも付き合う前はどこか不安げな目してたんだよ。親友同士だっつーのになにかを隠してるみたいな』
『せやで〜。なんか違和感ありまくりやってん。でも今は自身持ってる目しとる。それに、明るいしな』
 そこまで的確に言われたのは初めてだった。みんななんとなくしかわからなかったこと、こいつらは的確に指してくる。
『やっとわかった。サンキュ2人とも。あんたらいいカップルだよな!』
『一護!!』
『せやろぉ〜。ほらな?やっぱ僕ら相性ばっちりなんや!』
『調子に乗るんじゃねぇよッ』
 抱きつく市丸を必死に剥がしながらそれでもどこか嬉しそうな冬獅郎。少し羨ましいと思ってしまった。俺もこんな風になりたいと思ってんのかな?
『なぁ・・・冬獅郎。付き合いだしたころってキスとかすんなり出来た?』
『??どういう意味だ?』
『ん〜・・・なんか照れくさいっていうか・・・・自分がそんなことするなんて想像も出来ないっていうか・・・』
『お前らの場合は親友同士だったからな。距離も近かっただろうし、恋人になってもいまいち距離はかわらんだろうな。自覚しにくいかもしれんな。俺達の場合・・・・・・コイツがこんなんだから・・・・付き合ってすぐキスだったし・・・・』
『嬉しくてとまらへんかってんもん』
『・・・・・そうだよなぁ。市丸だもんな・・・』
 どういう意味やねんとかなんとか聞こえてきた気がするけど無視で、う〜んと考える。恋次の性格じゃそんな市丸みたいに恥じらいもなく強引にしてくるやつじゃないだろうし・・・・。
『まぁいいんじゃねぇの。焦んなくても自然にやりたいと思うときがくるはずだぜ?』
『そういうもんか?』
『あぁ。俺だって自分からキスしたいと思い出したのは最近だ』
『な?!そうやったん冬獅郎?!じゃぁ今までしゃぁなししとったってことか?』
『そうなるな』
 2人の会話聞いてたら市丸可哀想だな・・・・。でも冬獅郎笑ってるし・・・・・やっぱ恋人同士ってどっか違うんだな。
『サンキュな2人とも!またなんかあったら相談のってくれ!!じゃぁな』
 お茶を飲み干してドアまで歩く。そしてパッと振り返って市丸を見る。
『ほどほどにしてやれよな?』
 それだけ言ってドアを閉めた。
俺達なりにでいいんだよな。そんな焦んなくてもそれらしくなっていくよな。バレる原因もわかったしなんかすっきりした。恋次にも教えてやろぉ!!
 俺は恋次が待つ教室へと急いだ。


 教室へ戻ると、赤い髪を中心に何人かの男子が騒いでいた。その中心の赤い髪というのはもちろん恋次のこと。
それを見た瞬間俺はなぜか胸が痛くなった。自分のものをとられたような・・・・・嫉妬してんのか??
他のやつと楽しそうに笑う恋次を見るのがいやだ。
そんな気持ちを振りほどくように首を振り、何事もなかったかのような顔で教室の中に入った。
『恋次!なにしてんだ?みんなで』
『おっ!一護帰ってきたじゃん!よかったなぁ〜恋次!!』
 恋次の周りにいた一人がそう言いながら恋次の肩をポンと叩く。
『バッ・・・うるせぇよ』
『なんなんだ??』
 俺は一人訳がわからず首をひねる。
恋次の顔は妙に赤くて、他のやつはニヤニヤと笑っている。
そして別のやつが俺の耳元でこっそりと教えてくれた。
『恋次さ、寂しかったんだよ。一護に放っとかれてすねてたんだぜ?』
『ほんとかよ?恋次〜悪かったって!』
『んなッ!!てめっ言いやがったな!!』
 恋次はバッと飛び上がって俺に耳打ちしてくれたやつを捕まえると、首をギリギリと絞め始めた。
『いってーーーーーーーっっっ!!恋次っっ!!ギブギブ!!!』
 それを表面的には笑って見ていても心の中では“触るな”とか“離れろ”って叫んでいる。俺ってこんな嫉妬深かったのかな・・・。
『一護も帰ってきたし、もぅ恋次寂しくないだろうから2人にさしてやろうぜぇ〜』
 そんなことを誰かが言った途端、全員賛成で一気にどこかへ行ってしまった。なんなんだよ・・・と思いつつ、嫉妬しなくていいことにホッとする。
 パッと恋次と目が合って、ニヤッと笑う。
『寂しかったのか〜?』
『・・・・・・うるせぇよ。・・・・どこ行ってたんだ?』
『冬獅郎と市丸んとこ』
 そういった瞬間恋次の目が見開く。 その後すぐ俺を見据えてから
『なんで?』
と聞いた。明らかに機嫌が悪くなった。
俺は焦って弁解するように口を開く。
『いやほら、冬獅郎には相談乗ってもらってたし、俺達くっつけたのって市丸のおかげでもあるしさ・・・お礼と報告しに・・・』
『へ〜・・・』
『あっ!!それにさ、俺達が付き合い始めたってみんなに気付かれる理由やっとわかったんだよ!!市丸と冬獅郎にも当てられたし』
 そういうとさっきまで冷たかった恋次が少しこっちに食いついてくれる。
やっぱりすぐわかる理由は気になるんだろう。
『なんなんだよ理由って』
『目らしい。今まで俺も恋次もどこか自信ない目をしてたらしいんだ。それが今は自信持ってて明るい目してるって言われたぜ』
『だからみんなに気付かれたのか・・・・』
『みんななんとなくって感じだったけど、市丸と冬獅郎は2人して目だって言ったからな。理由わかってすっきりしただろ?』
『そうだな』
『・・・・・・なんかさっきから怒ってんのか?』
『別に』
『嘘付けこのヤロー』
 その時丁度チャイムが鳴り、授業が始まる。
なにに怒っているのかわからないが・・・・・・訳がわかないまま5時間目を迎えた。


『なぁ恋次〜なに怒ってんだって』
『怒ってねぇっつってんだろ』
 とりあえず一緒に帰ってきたものの、さっきからこの調子。恋次はああいってるが、明らかにいつもと違う。このままではすっきりしないので、強引にひっぱって俺の部屋にあげた。
『んじゃぁなんでそんなにも機嫌悪ぃんだよ?はっきり言えよアホ!!』
『誰がアホだ!!あぁ〜〜クソっ!テメーが悪ぃんだからな』
『俺か?!』
 まさか俺のせいといわれると思っていなくてビックリする。
『テメーが楽しそうにあいつらの話しするからいけねぇんだろうが・・・・』
 あいつらって・・・・市丸と冬獅郎だよな?別に楽しそうになんかしてねぇケド・・・・・・ 俺が恋次に対して思ったのと同じだな。
『ヤキモチ?』
『・・・・・うるせぇ』
 ヤキモチ焼かれるのって気持ちいいな。それだけ好かれてるってことだろ?
嬉しくなってついつい恋次にギューッとしがみ付いた。
『ななっっなんだよ?!』
『別に〜好きだぜ恋次』
 どうしよう・・・・すっげーキスしたいんだけど・・・・・・。
これが冬獅郎が言ってたことなのかもな。
でも自分からやるのもなんか恥ずかしいし・・・・・拒否られたら怖いし・・・。
『一護・・・・・』
『なん・・・・・・』
 言葉が切れたのは俺が切ったからじゃない。遮られたから。
全部全部恋次に奪われていった。
 思っていたより優しい感触。触れているところはほんの少しなのにちゃんと熱は伝わるんだと冷静に驚いた。初めてのくせにそんな冷静でいられる俺もすごいと思うが・・・・・・ビックリしすぎて逆に冷静なのかもしれない。
 その熱はすぐに離れていってしまったが、代わりに恋次の赤い顔。
口元を手で覆い、顔まで逸らしてしまった。それでもしっかり片方の手は俺の腰を抱いている。
『照れんならすんなよアホ恋次』
『仕方ねぇだろ・・・・・・ずっと我慢してたんだからな』
『ずっとっていつから?』
『昨日告った瞬間から。・・・・・いや・・・・・好きだと気付いたときからか』
『・・・・・それってヤバイんじゃねぇの?』
『この部屋で何回押し倒しちまおうかと思ったか・・・・・』
 嘘だろ・・・この恋次が・・・・・。
そりゃぁ恋次も健全な男子な訳だし押し倒したいとか思うのが当たり前かもしれねぇが・・・・・・。
『よく我慢した』
『だろ?だから・・・・・・もぅいいだろ?』
『は?ちょ・・・・まさかテメッ・・・・』
『いい加減我慢限界なんだよ』
『恋次!!こらッッ!!!』
 あっさりと組み敷かれた俺は抵抗も出来ないままどんどんと恋次のペースにはまっていった。

 結局俺何も心配する必要なかったんじゃねーか・・・・・。
恋次も市丸とかわらねぇじゃん。


 これからこの学園でなにが起こるかわかんねぇけど、恋次と一緒ならなんでも楽しめそうな気がするな。

これからもずっと2人で・・・・・・。


                                                                      end