『隊長――――っ!!!!』
長い廊下を走り、朽木隊長の部屋へと向かう。バタバタというより、ドタドタに近い音を立てながら突っ走りスパーンっと戸を開ける。そこにはビックリしてか目を見開いてこっちを見る隊長がいた。
そこで俺は気付く。・・・・・ヤベェ・・・・入る前に一声掛けるの忘れた・・・・。
隊長はいいことのお坊ちゃんだから、礼儀には厳しい。まぁそんなんに関係なく常識として入るときは承諾を得ないといけないが・・・・・。
でも早く隊長に見てほしかったんだ。コレ。つっても・・・・この人には通じねぇかもだけど・・・・。
勢いよく戸を開けたはいいが、なんとも居たたまれない。とりあえず怒られることを覚悟してギュッと目を瞑って俯く。
『なんだ・・・騒がしい』
俺はハッと顔を上げて隊長を見る。予想をはるかに裏切った落ち着いた声。いや、隊長の声は常に落ち着いてはいるが、なんつーかトゲがない。隊長の下について、最初はなに考えてるかさっぱりだったし、常に怒っているのかとも思っていたが、最近声や微妙な表情の違いがわかるようになってきた。だからこそ、今の声が怒っていないことが解る。表情にも怒りは感じられない。俺はホッとした。でもこれ以上無礼をするわけにもいかないので(さすがに怒るだろうし)気持ちを落ち着け、静かに戸を閉めてから、机に向かう隊長の後ろに少し離れて正座する。
『すみません隊長。阿散井恋次、只今現世より戻ってまいりました』
そう。俺は少し休暇を貰い、現世へと遊びに行っていた。2日間という短い休暇だったがそれなりに楽しめた。都合がいいことに現世では丁度休日の2日間で、俺は一護に現世のいろんなことを教えてもらっていた。ほとんど食い物だけど。それも甘いものを中心に。
『あぁ。それはそうと・・・・なぜそんなにも焦っていたのだ?』
『それは・・・・現世でおもしろいものを見つけたんで、ぜひ隊長に見てもらおうって思って・・・・』
そういいながら俺は赤いパッケージの箱を取り出し隊長に見せる。隊長はなんだそれは?と言う様に
その箱をじーっと見つめる。
『これは・・・・・・』
『おぃ一護、コレなんだ?』
現世。一護の家に来てさっそく一護に“お菓子や”というところに連れて行ってもらった。甘いものが好きだと言ったら、一護はカゴに甘いものを中心に次から次へと放り込んでいく。俺は何がどんな味がして、うまいのかさっぱりだったから全て一護に任せた。これだけたくさん袋にいっぱい詰め込んで手にぶら下げながらも、ちゃっかり大好物のたいやきも買ってもらっている。
家に帰り、袋を漁って、次から次へと腹に収めていく。どれも甘くてうまいものばかり。そして何個目か・・・・何十個目かわからないが手にしたのは赤い箱。それがなんなのか一護に問う。
『ん?あぁ。ポッキーっていう食べ物。細い棒のビスケットにチョコがかかってるから甘いぞ』
その説明を聞きながらもすでに俺は箱を開けて中の袋も破いていた。一護が言うように細い棒が何本も入っている。それを一本取り出し、口に運ぶ。パキッと折れた後、噛むとサクサクとした軽い音がする。こんなに薄くチョコが塗ってあるだけなのにしっかりとチョコの味が口の中に広がる。
『うまい』
『だろ?でも恋次。これには食べ方があってな・・・・・』
『食べ方?んなもんがあるのか?』
一護は軽く頷くと俺が手に持っていた袋の中から一本だけ取り出し、端をくわえた。
そこまでは俺と同じ。いったいどこが違うのだろうか・・・?
『へんじ、ほっちはらふはへお』
『はぁ??何言ってるか全然わかんねぇぞ?』
ポッキーをくわえながらしゃべる一護の言葉は一つも俺に伝わらない。一護はポッキーから一度口を離し、もう一度俺に言う。
『恋次、そっちからくわえろ・・・・・つったんだよ』
『はぁ?!』
『いいからくわえろ』
それだけ言うと、また口にくわえる。俺はなんなんだと思いつつも言うとおりに逆の端をくわえた。
思ったよりも顔が近くてビックリする。つーかこっからどうすんだよ・・・・?と思っていた直後、一護がサクサクとそれを食べ始めた。だんだんと顔が近づいてきて俺は焦る。このままじゃ一護とキスすることになるんじゃねぇのか??!
焦りながら真っ白になる頭を必死に働かせ、口を離せという命令がやっと脳に伝わったのか、パッと口を離すことができた。
『あ〜ぁ。離しちまったか』
『当たり前だ!説明もなしになんなんだよ!?』
『ポッキーの食べ方。お互いが両端から食べていくんだよ』
『それがこれの食べ方なのか?』
『まぁな。複数いるときのゲームでもある。(本当はそっちが本当だけど・・・)』
『ゲーム?』
『お互い目瞑って食べていって、残った長さを競うんだ。口が触れる、つまりキスしちゃったり途中で折れたり離したりしたら負けな』
『そんなんがあるのか・・・』
ちょっとおもしれぇかも・・・。だからって一護とキスすんのは御免だけどな。離してよかったぜ。つーかめんどくせぇ食べ方だな・・・。でも・・・・帰ったら朽木隊長に教えてやろぉ!
『ポッキーっていう現世の菓子なんです!隊長食ってみませんか?』
『頂こう』
その返事を聞いて思わずニヤケそうになるのを我慢する。あの食べ方教えたら隊長も焦ったりするかな??隊長の焦ったとこ見てみてぇ。
わくわくしながら、俺はいそいそと箱を開ける。
『一護に教えてもらったんすけど・・・・これには食べ方があってですね・・・・・』
中の袋を取り出しビリビリと破る。瞬間に甘い匂いが鼻をくすぐった。中から1本取り出し、
隊長の目にかざす。
『隊長はそっちくわえてください。俺こっちから食べるんで』
『そんな食べ方をするのか?』
『はぃ!一護が言ってました。そんで、そのまま食べていって・・・・』
『あやつともそんな食べ方をしたのか?』
ん?今・・・明らかに声が変わった。少し怒った・・・??
『あ・・・いえ、途中で離し』
言葉の途中で隊長が先をくわえ、俺の肩をグッとつかんだ。目で俺にもくわえるように促す。俺は抵抗することもなく、端をくわえた。隊長と至近距離で目があう。真っ直ぐに俺を見る隊長から目が離せない。そこで、ようやく思い出す。・・・・・これの食べ方最後まで説明していない。隊長は知るわけないだろうし・・・・・どうしよう?
そうこうしている間にも、隊長は端から食べだしている。そりゃぁ食いもんだから食べるためにあるんだし、これを食べていくっていうのはさすがに説明しなくてもわかるとして・・・・・そこからが問題だ。絶対少し残すとか知らないはずだ。
隊長は何を考えて食ってるんだ!?
だんだんと近づいてくる綺麗な顔。俺はとっさに離れようと後ろに引こうとした。・・・・・が、それは叶わなかった。離れられないようにがっしりと背中に隊長の手が回っている。片方の手で顔も固定されているため口を離すこともできない。
残り3cm・・・・・隊長の息がかかる。俺はギュッと目を瞑った。その瞬間に想像していたとおり、唇に柔らかい感触が当たる。そしてフワッと漂うチョコ独特の甘いにおい。口にも甘ったるい味が広がる。触れ合った唇は離れることなくぴったりとくっついたまま。唇をこじ開けて入ってきた舌は俺の口内を動き回る。いつまでもいつまでも続く・・・・鼻に残るポッキーのにおいと口に残る甘ったるい味。
『ん・・・っはぁ・・・・』
やっと唇が解放されて、俺は荒い息をついた。そういえば・・・・2日ぶりだな。隊長とのキス。そんなことをぼんやりと考えて隊長を見ると・・・・・久しぶりにキスしたというのに不機嫌な顔。キスする前から
なぜか不機嫌になってたっけ・・・・・。なにが原因??
『たぃ・・・ちょ?』
『あいつとも口付けしたのか?』
そう言われやっと隊長の不機嫌な理由がわかった。キスする前もなんか一護ともそんな食べ方したのか?って聞いてたなそういえば。
確かにしたけど・・・・・キスまでしてない。そもそもこれは隊長が説明聞かなかったのも悪いと思うのだが・・・・・そんなこと言える訳もない。
『確かに食べましたけど・・・・・キスとかしてないですよ。俺途中で口離したし。そもそもこれ、キスしちゃダメなんですよ!!数cm残すもんなんです!』
『それでもあやつとこの距離で見詰め合っていたのだろう?』
『それは・・・・そうですけど・・・・。すみません』
隊長は深くため息をついたあと、袋の中からもう一本取り出し、俺にくわえさせた。
『今度は恋次から食べていけ。それで許してやろう』
それはつまり・・・・・俺から食っていって、隊長にキスしろってことですよね?やっぱりさっきの説明聞いてないなこの人。
いや、聞いてて無視してるのか?まぁ・・・・どっちでもいいか・・・。たまにはヤキモチやかれるのも悪くないな。そう思いながら、俺は隊長の唇目指してポッキーを食べることに専念した。
その一護が面白がって教えた間違ったポッキーの食べ方はいつしか魂尸界に広がり、恋人達はそれで愛を深めあったとか・・・・・・。
end