『グリムジョーです。失礼します』
ドアの前で一声かけると、中から返事が聞こえてくる。それを聞いてから俺はドアに手をかけた。
少し重みのあるドアをグッと開いて、ツカツカと中へ入る。
『めずらしいねグリムジョー。君からココへくるなんて。なにかあったのかい?』
『それが・・・・・』
どう切り出そうか悩んでいたところでとにかく見せようと抱えていたチビをぐぃっと藍染様の目の前に持っていく。
藍染様は目を丸くして、それをジーッと眺めた。
するとチビが急にじたばたと暴れて、俺の胸にすがり付いてきた。
『お・・・おいチビ、どうした??』
『・・・・・グリムジョー?それはいったい・・・・・』
『あの・・・・・こいつもしかしたらウルキオラかもしれないんすけど・・・・』
『その小さい子がかい?』
『・・・・信じがたいですが・・・・自分でウルキオラだと名乗りましたし』
藍染様はなにかを観察するようにじっとチビを見る。
チビは見られれば見られるほど怯えているように俺の服をギュッと握り締めた。
その震える背中を落ち着かせるようにポンポンと撫でてやる。
『ぅん・・・・。霊圧も大きさには劣るがウルキオラのものだね。見た目も・・・・。でもどうして急に小さくなってしまったのかな?』
『俺も気付いたら・・・・・』
『そうかい。一応調べてみるよ』
『ありがとうございます』
『あぁ。その子の面倒は君に任せるよ。グリムジョー』
『わかりました。あの、コイツの服、用意してほしいんすけど・・・』
『わかった。後で作らせて持っていかせるよ』
『ありがとうございます』
藍染様のもとから帰る間中、ずっと俺に力いっぱいしがみついたまんまのチビウル。
そんなに藍染様が怖かったんだろうか?
小さい子供など扱ったことがないから、どう対処すればいいのかさっぱりわからない。
こいつは今、どう言ってほしいのだろう?
考えてもわからず、ただただ抱きしめて部屋へと繋がる長い廊下を歩いた。
『チビ、部屋ついたぜ?もう大丈夫だからな?』
『・・・・・ぅん・・・』
『怖かったのか?』
『・・・・・・』
それには答えないチビウル。
だが答えない変わりにぎゅっと俺に抱きついて離れない。
とんだ甘えただ。
甘えてんじゃねぇ、と突き放すのは俺にとっちゃ簡単なこと。
慰めることよりどんなに楽か。
だが・・・・・コイツがウルキオラだと思うとどうしてもそれが出来なかった。
ウルキオラの顔でこんなに素直に甘えられると・・・・・・・いくらチビだって解っててもクるもんがある。
欲情・・・・とまではさすがにいかないが・・・・・。
とにかくこの空気をなんとかしようと思う。
ガキの扱いなんてわかんねぇが・・・・・・。
『スープでも作ってやろうか?』
『・・・・・すーぷ?』
『知らねぇか?じゃぁ作ってきてやるから、大人しく待ってろよ』
首に巻きついていた腕を外させ、ソファに座らせて、頭を一撫でしてやった後、俺はキッチンの方へと向かった。
冷蔵庫の中を見て牛乳があることを確認して、棚からコーンの缶詰を取り出す。
このコーンスープはウルキオラが気に入っていたもの。
作ってやると顔に感情は出さないものの、喜んで食べていた。
それを思い出して、もしかしたらチビも喜んでくれるかもしれねぇと思ったんだ。
本当に食べるかはわからねぇけど・・・・・。
食べてくれることを祈って木ベラで鍋をかき回す。
そこで・・・・・急に足に衝撃。
ドンッと足にぶつかって・・・・・いや、抱きついているのはチビウルで・・・・・。
『なにやってんだ?』
『だって・・・・・つまんない』
『待ってろっつっただろ?』
『・・・・・だって・・・・・』
『だぁぁぁぁ〜〜悪かった。解ったからんな顔すんじゃねぇよ。もうすぐ出来んぞ』
『・・・・いい匂い』
足にしがみ付きながら鼻をクンクンとさせているチビウル。
その体を抱き上げてやって鍋を覗かせてやると、大きい目がさらに見開かれた。
グツグツと音を立てだしたそれをスプーンで少しすくい、息を吹きかけて冷ます。
十分に冷めたところでそれをチビウルの口に持っていってやると、恐る恐る口を開けてそのスープを一口。
『どうだ?』
『おいしい!!』
『気に入ったか?』
『うん!!』
『んじゃ皿に盛ってやるから向こう行って座って待ってろ』
火を止めながらチビを下へ下ろしてやると、元気よく返事をしたチビはタタタタッとテーブルの方へと駆けていった。
『おら、冷まして食わねぇと火傷するからな?』
『さます?』
『あちぃからこうやって・・・・・』
はしゃいでスプーンを手に取るチビの手からスプーンを取って、少しすくい、それにふーっと息を吹きかけて冷まし方を教えてやる。
そうするとチビはすぐに俺の手からスプーンを取って、同じようにすくってふーふーと息を吹きかけ始めた。
冷ましたそれを恐々と口に運ぶ。
コクッと喉を鳴らして飲み干すと、途端に笑顔になって、おいしい!≠ニ笑いかけてきた。
元気になったチビウルを見て少しホッとする。
『ゆっくり食えよ』
『うんっ!』
俺が言ったとおりしっかり冷ましてから口に運んでいく。
ちゃんと言いつけを素直に護るのが可愛いと思う反面、どこかくすぐったい。
自然とにやけていた顔に気付き、パッと口元を隠した。
必死に食べているチビは気付きもしなかったが・・・。
ゆっくり時間をかけて綺麗にスープを飲み干したチビウル。
満足気にニコニコと上機嫌に笑っている。
すると不意に部屋のノックが聞こえてきて・・・・・。
めんどくせぇと思いつつもドアを開けると、そこに立っていたのは服を持った女だった。
そういえばさっき藍染様にチビの服を頼んだんだと思い出し、その服を受け取る。
袋の中には2着も入っていた。
広げてみるとサイズも丁度いいぐらいだ。
俺はその服とチビを見比べて・・・・・・。
『お前風呂入ってこい』
『ふろ・・・ってなに?』
その発言にはさすがに目を見開いた。
体を綺麗にするところだと教えてみたが、さっぱり解らないようで・・・・・。
当然洗い方もなにもわからないだろう。
どうしたらいいか・・・・・・と考えたが、やはり一緒に入るしかないんじゃないか?としか考えられなかった。
1人で入れさせてなにかあっても困る。
そう思い、俺は自分の分のタオルとチビの分のタオルを持って風呂場へと連れて行った。
『おら、万歳しろ』
『んむっ・・・』
1人で服を脱げないチビを手伝って頭から服を脱がせてやると、それしか着ていなかったチビはすぐに丸裸になる。
その後自分も脱いで、キャッキャとはしゃいでいるチビウルを脇に抱えて風呂場へ放り込んだ。
中にあるイスに座らせて肩からシャワーをかけてやると、さらに嬉しそうに笑う。
水怖がられるよりはマシか・・・と思って、少しずつ髪を濡らしていく。
ある程度濡らせた所でシャンプーを手に取り、泡立てながら髪を洗っていく。
チビウルはその様子を鏡越しに見ながら目をキラキラと輝かせていた。
その泡を触りたかったのか、そっと手を伸ばして自分の髪についている泡を触って、さらに目を輝かせた。
『コレ、泡つーんだよ』
『あわ?』
『あぁ。ふわふわしてんだろ?』
『ふわふわっ!!』
『そのまま自分で洗ってみろよ。俺がやってたみたいに』
そう促がすと、チビは小さな手を使ってコシコシと頭を洗い始めた。
途中その泡で髪がピンと立つことに気付いたらしく遊んでいたが、それも飽きたようでまたコシコシと擦り始めた。
もう十分洗っただろう・・・・と俺はチビに目を瞑るように言って、シャワーをかけて泡を洗い流した。
今度は体。
スポンジを泡立たせて首から胸を擦ってやり、両腕も擦る。
小さな背中は4,5回擦れば十分で、足も綺麗に洗ってやる。
ただし・・・・・足の裏を洗おうと、スポンジをつけると、チビはビクッとして足を持っている俺の手を外そうとした。
どうもくすぐったいらしく、座っているイスから後ろにひっくり返りそうになりながらも必死に抵抗する。
しかし俺の力に敵うはずも無く、わざとゆっくりと足の裏を擦ってやると、チビは苦しそうにじたばたともがいた。
十分洗ったしこの辺りで止めておこうと、手を離してやると、チビは少し涙目になりながら俺をジッと見る。
もう何もしてこないかと様子を伺っているようだった。
『クッ・・・・・悪かったって。もうなにもしねぇから座ってろ。流すぞ』
『ほんとに?』
『あぁ。しねぇよ』
シャワーを手にとってイスをポンポンと叩くと、チビは警戒しながらもまたイスに大人しく座った。
そんなに可愛い反応をされるともう少し虐めてしまいたくもなったが、そこはグッと我慢して泡を洗い流す。
そしてチビを湯船につけた。
大人しくしているように言い聞かせて、さっさと自分の頭や体を洗いに掛かる。
チビは湯船の中から不思議そうに俺のやることを見ていた。
このチビはさすがウルキオラだと思うところがあって・・・・・・物覚えが早い。
素直なのもたぶん忠誠心をもってたからだと俺は思ってる。
まぁでっかくなったら藍染様にしか従わないが・・・・・・・。
どこで間違えたんだ?
でもな、そんなこと思いつつやっぱでっかいウルキオラが恋しいなんて思っちまうんだよな・・・・・・・。
ふとそんなことを考えてしまった自分に気付き、その考えを振り切るようにゴシゴシと無駄に力を入れて体を擦った。
それをシャワーで流し、チビと一緒に湯船に浸かる。
『あちぃー・・・・・』
『ぐりむじょー、あつい?』
『ぁ?・・・あぁ・・・・まぁな』
『じゃぁふーふーする!!』
『は・・・?』
宣言した通り、チビは湯船のお湯に息を吹きかけ始めた。
胸いっぱいに空気を吸い込んで賢明に冷まそうとしている。
それを見て俺は思わずブッと噴出してしまった。
驚いたチビはなんで俺が笑っているのかわからずに、それでもまだフーフーと息を吹きかけ続ける。
『ちょっ・・・・マジやめろっ・・・・・ククッ・・・・・』
『なんで?もうあつくない??』
『ブッ・・・・・ふっ・・・・あぁ、もう熱くねぇから・・・・サンキュ、チビ』
散々笑った後もどこかまだ笑い足りないような・・・・・。
思い出すたびに噴出してしまう。
熱かったら冷ませって教えたのは俺だが・・・・・・これはさすがに違うだろう。
まぁまだ区別がつかねぇのは仕方ねぇことだけどな。
『んじゃそろそろ出るか。10数えろよ』
『じゅうってなに?』
『あぁ・・・・じゃぁ俺の後に同じこと言え。いーち』
『いーち』
『にー』
『にーい』
なんでも楽しそうにこなすチビウル。
俺の言ったとおり数を繰り返して言っていく。
たぶん今は意味がわかってねぇだろうが、そのうちまた教えてやろう。
きっとコイツならすぐに覚えてしまうだろうけど。
『・・・きゅー』
『きゅーう』
『じゅー』
『じゅーう』
『よし、上がっていいぞ』
『あーぃっ!』
ザバッと立ち上がると、一生懸命に湯船から出ようとするが、どうもまだ1人では跨げないらしく、必死に足を伸ばすが届いていない。
おもしろくてしばらく後ろから見守っていると、チビがクルっとこちらを向いた。
『ぐりむじょー・・・・・』
『・・・・・わかったから、んな泣きそうなツラしてんじゃねぇよ。ぉら』
可愛くて不覚にもきゅんとしながらチビの体をひょいと持ち上げて外に出してやる。
続いて自分も出て、ドアを開けてやって風呂場から出た。
大体予想はしていたが、やはりその濡れたままリビングまで走って行こうとする腕を捕まえてバスタオルで包む。
『濡れたまま走んじゃねぇよ。拭いてからだ』
『あーい・・・』
怒られていることは解るようで、少ししょんぼりしながら大人しくしている。
体の水分を拭き取ってやって、バサッと髪にバスタオルを被せ、ガシガシと髪を拭いてやる。
ある程度拭けたところで自分も適当に水気を取って、チビに服を着せてやった。
もう行っていいぞ、と言ってやると、一気に明るさを取り戻し、ダーッと走っていく。
俺も服を着て、髪を拭きながらチビの後を追いかけた。
『ぉい、こっち来い。髪乾かしてやるよ』
手招きして呼ぶと笑顔で駆け寄ってくる。
その体を抱き上げ、膝の上に座らせて、もう一度バスタオルで髪を拭いた。
それで水気を飛ばした後、ドライヤーを当ててやる。
『熱くないか?』
『ふーふーする?』
『ブッ・・・・これに勝てんのかよ?』
バッ顔面にドライヤーを当ててやると、息を噴出すどころか吸うことすら出来なくて顔を逸らすチビ。
むぅっと唸って俺を見上げてくる。
それに笑って返してやると、チビもつられた様に笑い返してくる。
今度はちゃんと髪にドライヤーを当ててやって、濡れた髪を乾かしてやった。
このチビウルは知らないことが多すぎる。
それを少しずつ教えていってやりたい、そう思うのはやっぱりコイツがウルキオラだからなんだろうか・・・・・?