いつも思いは1つだから




 朝の門前風紀検査を終える。最近僕に咬み殺されたいバカが減ってきたみたいでほとんどのヤツが制服ちゃんと着てきてる。中にはまだバカなヤツがいるけど・・・。そう、あの赤ん坊と一緒にいる・・・強いのか弱いのかわかんないヤツの傍にいる・・・誰だっけ? なんかジャラジャラつけててシャツとかだらしなく出してる・・・獄・・・?まぁいいや。あいつらはなんかおもしろいしね。しばらく泳がせてやっててもいい。あいつらの周りには結構強いやつが群れてるからね。まぁ僕が最強だけど。いつか咬み殺してあげるよ。
 それにしても・・・なんか疲れた。いつも通り、教室には行かず、応接室に直行しお気に入りのソファに腰を下ろす。窓の外を見ると快晴で雲1つない。冬らしい薄い水色の空がどこまでも続いている。そんな空を見ても特に何も思うことはなく、ソファに横になった。しばらく天井を見つめボーっとする。
 暇・・・・・・・・・。
風紀問題の書類は昨日まとめ終わった。今は中途半端な季節だから特にすることはない。だからと言って授業なんてつまらない。あんな群れたとこでつまんない教師の話なんか聞いたって咬み殺したくなるだけだし。自分で勉強した方がはかどるし。
頭を回転させ仕事を探してみて特に何も思い当たらない。その時・・・。
『恭〜弥vVなぁに寝てんだ?お前授業ぐらい出ろよ』
 僕はバッと起き上がり声のしたほうを向く。
『ディーノ・・・・・』
 ディーノが居るのは窓の前。ココは3階だ。僕が気付かないほど静かに3階まで上がってくるなんて・・・・・。でもコイツも急に弱くなったりするし訳わかんない。だからこそ興味があったりするんだけどね。
『何しに来たの?ココは部外者立ち入り禁止なんだけど・・・』
『部外者って・・・相変わらずひでぇなぁ恭弥わ。一応恋人だろ?』
『ふ〜ん。一ヶ月も前の出来事なんて忘れたよ。久々に現れたと思ったら・・・訳の解らないこと言わないでくれる?』
 一ヶ月前、確かに恋人になった気がする。不本意だけど・・・。でもその後すぐ姿を消して、連絡もないし居る場所さえも解らない音信不通状態でなに恋人とか言っちゃってるの?
『忘れたって・・・・おまえなぁ・・・・・。確かに一ヶ月なんも連絡してねーし恭弥にも連絡先教えてなかったけど・・・。教えてたって連絡取れなかったと思うぜ?俺だって一応マフィアのボスだし、 ちょっとデカイ事件に巻き込まれててそれどころじゃなかったんだよ』
『別にそんなことどうでもいいけど・・・。それに恋人でもなんでもないから』
 去り際に“好きだ”と言われただけ。だから僕も“僕もまぁ好きかもね”と言っただけ。ただそれだけ。恋人のつもりなんてなかったし。
『なんだよそれ・・・俺お前に好きだって言ったよな?お前も言ってくれただろ?』
『言ったよ。でも恋人なんて知らない』
『・・・・・・すっげーすれ違ってんな・・・。あぁ〜・・・もぅ。最初っからやり直しだ』
 そう言って少し間を置いてからディーノが僕が座るソファに歩み寄ってくる。僕はそれを目だけで追う。僕の目の前に来たと思ったら、僕と目線を合わせるように片膝をついてしゃがんだ。
『もう一度言うぜ?・・・恭弥が好きだ。俺の恋人になってくれ』
 窓から差し込む光に透ける金髪の隙間から真っ直ぐに僕を見て言う。
『またそう言って放っていくんでしょ?』
『ぅ・・・・・まぁ・・・仕事あるししょっちゅうは会えねぇ。何ヶ月・・・何年会えるかわからねぇことだってあるけど・・・。それでも俺は恭弥が好きだ。 会えないからこそ恋人として繋がってたい』
『・・・・・・。仕方ないな・・・。いいよ、恋人になってあげる』
 言っとくけど僕は興味のあるヤツにしかこんなにしゃべんないよ。恋人なんてもってのほか。それぐらい僕もディーノのこと気に入ってるって事だけど・・・悔しいからまだディーノには教えてやらない。
『やっと通じたなvV今度は忘れたとか言うなよ?』
『さぁ。どうだろうね』
 絶対忘れないけどね。
『じゃぁ・・・コレやる。俺がいつも付けてる一番のお気に入り。傍に居てやれねぇからコレ俺だと思って持っててくれよ』
 言いながら首の後ろに手を回して取り外し、僕の目の前にぶら下げたのはネックレス。ディーノらしいちょっと大き目のシルバーアクセサリー。それを今度は僕の首に回し、勝手に取り付ける。
『外すなよ?』
 あ〜ぁ。風紀委員長の僕がこんな風紀違反したら示しつかない。特にあの獄・・・なんとかに。それでも外す気にならないのは・・・ディーノが大事だと思うから?
『結構キレイだね。僕も気に入ったからつけててあげるよ』
『サンキュ。なぁ恭弥。俺今休暇中で3日は日本に居れるからさ、学校終わってからまた迎えにくるからどっか遊びに行かないか?』
『別にいいよ。でも・・・・』
『ん?』
『今からでいいんじゃない?』
『おまえ一応中学生で風紀委員長なんだろ?そんなんでいいのか?』
『どうせ授業出ないし。丁度退屈だったんだ。3日しかないんでしょ?時間は有効に使わなくちゃ』
『・・・・まぁ1日ぐらいいいか。大人としてはあんまり許したくねぇけど・・・俺も早く恭弥とどっか行きたいしな』
 そうと決まれば即行動。学校を抜け出し近くに停めてあったディーノの赤いスポーツカーに乗り込む。
『あのさ・・・派手なんだけど・・・』
 並盛町には不似合いな真っ赤な車は通る全ての人の目を引く。 ディーノはさほど気にする訳でもなく、
『なんかやたらと目が合うなぁ〜。そんだけ恭弥が美人なんだな』
などと軽く口にする。
『咬み殺すよ?』
 自分だって十分な美形だ。外人だし目を引くが・・・・違うだろう。車運転してる人をチラッと見たからって誰も振りかえらないよ。なんかズレててやりにくい・・・。
『あっと・・・恭弥制服じゃまずいよな。服屋寄って服買うか』
『そんなお金もってないんだけど・・・』
『服ぐらい買ってやるよ。いつも行く店どこだ??』
『・・・・・・隣り町の“Jewel”ってとこ・・・』
『道案内頼むな〜』
 なんかやっぱりペースが掴みにくい。でも 不思議と嫌じゃない・・・。

『ぅん!やっぱ似合うなvVよし!服も揃えたし、どっか行きたいとこあるか〜??』
 数分前、僕の道案内のもと、服屋について中に入るとディーノはあれこれと選び始めた。僕に似合いそうな色、デザインとか店にあるものを片っ端から見てカゴに入れていく。僕は今から遊ぶ用に一着だけだと思ってたのにあまりのディーノの勢いにしばらく黙って見てしまっていた。
ようやく自分を取り戻し、店内で仕込みトンファーを振り回すわけにもいかないので、少し強めにディーノに蹴りを入れる。その蹴りは見事にディーノにヒットしたんだけど・・・・マフィアのボスだったら避けてよ・・・。
で、ありえない量の服をもとの位置に戻させて、それでもディーノはこの3着は譲れない・・・と 上下ディーノが組み合わせた3着を買ってもらった。枚数的には下3枚、上6枚。ここの店って結構高いからかなりの額なんだけどディーノは軽く払ってしまった。そして今から着る分・・・とその中から1着渡された。
3着とも結構僕の好みのもの。ディーノと趣味があうのか・・・ディーノが僕の好みを解ってくれているのかはわからないけど・・・・・・。
 という感じで結構ドタバタしていて行きたい場所なんて決めてなかった。でも群れてるとこ嫌だし・・・・・。
『・・・海行きたい』
『海か?泳げねぇけど冬の海もいいかもな!んじゃ行くか!』
 ディーノはまた赤いスポーツカーを走らせた。

 海に近づくにつれ、だんだんと人気(ひとけ)がなくなってくる。夏はあんなに群れてるのに。
近くに車を停め、砂浜まで下りてきてみる。 波が打ち寄せてくるギリギリまで行き、手を水につけると、やはり凍るように冷たい。
『冬の海もいいもんだな〜俺初めて見た』
『僕も初めてだよ。というか・・・海を見たのが初めてだ』
『そうなのか?もったいねぇな。夏泳いだら気持ちいいぜ?』
『嫌だよ。あんな人の群れるとこ』
『んじゃぁ今度俺のプライベートビーチ連れてってやるよvV』
 プライベートビーチって・・・どこまでお坊ちゃまなんだか・・・。全然そんな風に見えないけど・・・。でも・・・
『そんな長い休暇が取れたら・・・でしょ?』
『・・・そうだな。そんとき一緒に行ってくれるか?まぁそんときにはもぅ恭弥は海で泳いじゃってるかもだけどな』
 笑ってはいるけどどこか悲しそうなディーノの顔。そんな顔するぐらいなら言わなきゃいいのに。ほんとにバカだな・・・。
『・・・・行かないよ。群れてるとこなんて行かない。だから、しょうがないからディーノが連れてってくれるまで待っててあげる』
 その瞬間のディーノの顔はものすごく嬉しそうでこっちが照れちゃうぐらいに。
『サンキュ、恭弥。愛してんぜ』
 そうして後ろから抱きしめられほっぺたをすり寄せられる。少し冷えていた体にディーノな体温が心地よかった。
『僕もディーノが好きだよ』
 今度は好きかもなんて曖昧なことは言わない。僕も忘れられたくないからね。あと2日後にはいなくなってしまうディーノに少しでも多く僕の気持ち知ってもらわなきゃね。
『明日も明後日もまた学校に迎えに行くからさ・・・俺とどっか出かけてくれるか?今日買った服を着て・・・』
 あぁ。あの服はそう言う事だったのか。だからあんなに必死に選んでたんだ。
『いいよ。・・・ディーノが発つギリギリまで一緒に居てあげる』

 冷たい体をすり寄せてもぅしばらく海を眺めていた。
明日も明後日も・・・ディーノの傍にいるよ。またいつ会えるか解らないから・・・。
 今度ディーノが来るまでに僕の変わりに持っててもらうもの探すから・・・・・いつだって同じ気持ちでいられるように・・・。

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