素直な気持ち
誰かが入ってきた。物音もなく。でも確かに後ろに立っている。松本じゃない。この霊圧は隊長クラス・・・。
『・・・・・。市丸・・・・何しに来た』
『・・・・・・。さすがやね。気付かれたか・・・』
『霊圧も消さずに入ってきたくせに何言ってやがる。何の用だ』
『和菓子買ってきたんや。一緒に食べよ思て』
コイツはこうやってなにかと理由をつけては毎日俺のところに来る。初めは追い返す言葉ももっと言っていたけど、何を言っても気が済むまでは絶対帰らないからもう言うのは止めた。無駄な努力だ。コイツには何も通用しない。
仕方なく俺はため息を付きながらお茶を淹れに行く。仕事もキリの良いところで終わっているし丁度休憩しようかと思っていたところだからついでだ。
そう自分に言い聞かせ市丸の前にお茶を置く。
『おおきに。・・・今日はえらい素直に聞いてくれるんやね』
『俺も休憩しようとしていたところだからついでだ』
俺も市丸の前の席に腰を下ろす。市丸はごそごそと持ってきた和菓子の袋を開けている。
『ココの和菓子めっちゃおいしいんや。食べてみ』
俺の目の前に和菓子が置かれる。薄いピンクの花。二口ほどで食べてしまえるような大きさのものを、楊枝で切り一口食べてみる。
『どや?うまいやろ』
『・・・・あぁ・・・』
『やろ?ココのが一番うまい。僕のお気に入りや』
俺が食べるのを見てから自分も食べだす。お気に入りと言うだけあって食べた瞬間ものすごく嬉しそうな顔をする。俺ももう一口、口に運ぶ。上品な甘みが口に広がって溶けていく。こんなうまい和菓子を食べたのは初めてかもしれない。
『今度一緒に店に食べに行こか。もっといっぱい種類あんねん。どれもキレくてかわえぇよ』
それにはビックリした。まさか一緒になんて言われると思わなかったから。
俺は・・・正直な話、市丸が好きだ。言えやしないけど。だから毎日来てくれて本当はすごく嬉しい。なんで毎日来るのか・・・何考えてるのか・・・なんで俺を誘ってくれるのか、ほんとにわからねぇけど俺にとったらどれも嬉しい。ただ・・・それではしゃいだりしたら子供っぽいとか思われそうで・・・だから必死に気持ちを隠す。ほんとは今日だって霊圧で市丸だってわかった瞬間飛びあがる程嬉しかった。
なのに素直に出せないのはやっぱり子供に見られたくないから。そんなに子供が嫌なのか・・・ってそうじゃなくて、市丸に近づきたいんだ。市丸に認めてもらいたいんだ。でもどうしたって年齢差は埋められないから・・・・せめて精神年齢だけでも市丸に近づきたいんだ。
だからって・・・こんな冷たくしてたんじゃ何にも伝わらねぇけど・・・。伝える方法なんて知らない。子供の俺は相手になんかしてもらえない。どうしたら市丸に近づけるんだろう?
『どないしたん?ボーっとして。そんなに僕と一緒に行くの嫌か?』
『いや・・・。違う・・・。今度、連れてってくれ』
今はこれだけで精一杯。これでもだいぶマシになったほうだ。
『決まりやな。いつ休み取れるか解らんけど・・・今度休めたとき行こな』
特定の日を決めれないのがもどかしい。こんな口約束、ほんとに実現するかもわからない・・・。
気持ち言えたらいいのに・・・。
僕が気付いてないとでも思ってるん?初めに好きになったんは僕や。毎日毎日、煙たがられても通い続けた。・・・僕の存在を植えつけた。毎日欠かさず会いに行ったらそのうち、1日に僕のこと考える時間増えるやろ?
ほら・・・君は見事に僕の術中にはまってくれた。
僕が十番隊に通いつめて一ヶ月。僕が堕ちたなって確信持ったんは2週間前。結構早くに堕ちてくれたな。
僕に合わせようとして必死に大人ぶってんのもわかる。ほんま見ててあきひんわ。
せやからもうちょいこのまま遊んだる。
気持ち伝えんのはもうちょい遊んでからや。それまでたくさん悩んだらええ。そんな君を見んのも楽しみの1つや。たぶん僕から伝えな言ってこんやろしな。まぁ近いうちに・・・君は僕のもんになる。
『さて、ぼちぼち帰ろかな。イヅルが怒るし。お茶ごちそうさん』
市丸が席を立つ。もぅ戻るのか・・・と寂しくなったし引きとめたかったがそんな訳にもいかないから俺も席を立つ。
『いや。ご馳走になったのはこっちだしな。・・・・サンキュうまかった』
自然に言えたよな?不自然じゃなかったよな?
『ええよ。ほんならまた』
言葉と共に手が伸びてきて俺の髪をくしゃくしゃと撫でていった。
俺が言葉を発する余裕もなく、市丸は部屋から出て行ってしまう。・・・・・それでよかったかも知れない。こんな顔見られなくて良かった。
赤く火照って熱を持っている顔なんて見られたら一瞬でバレてしまう。
また子供扱いされた・・・。悔しいと思う反面嬉しさもある複雑な俺の心。
明日も来てくれたらいいのに・・・。願うのはそれだけ。
頭撫でたんはわざと。わざと子供扱いしたった。これでもめっちゃ我慢してるんやで?もっといろんなことしたいのに。
でも今手出して警戒されたらせっかくの努力が水の泡や。せやからもうちょっと我慢。
また明日・・・楽しみの続きはまた明日や。もっともっと・・・・
僕のこと好きになって・・・・・。
end