こたつとみかん
『はァ〜・・・今日も疲れたなァ』
『なにが疲れただ。どうせ吉良にまかせっきりで何もしてないんだろうが』
1日の仕事を終えた後、いつも2人はどちらかの部屋へと行く。
今日はギンが冬獅郎の部屋へと泊まりに来ていた。
よく冷える夜で、コタツなしではいられない。
2人してコタツの中に足を入れて冷えた体を暖める。
『酷いなぁ・・・・僕かてちゃぁんと仕事してるよ?今日は書類に判子も押したし』
『吉良が“押さなくていいところに押して仕事増やした”って嘆いてたぞ・・・』
『あらァ・・・バレとったか』
悪びれもせずにこやかに言うギンを呆れた顔で見ながら目の前の湯のみに手を伸ばす。
それを見ていたギンもつられる様に湯のみに手を伸ばした。
『・・・・・書類、わざとだろ?・・・あんまり吉良を虐めてやんなよ』
『それもバレてるんか。さすが冬獅郎。せやけど・・・・あんまりイヅルの肩持ってばっかりやと、僕妬いてまうなァ・・・』
『嫌ならちゃんと仕事しろ』
『十番隊に持っていく書類やったら喜んで仕事すんのになァ・・・仕事中に会えるやなんて幸せやろぉ?』
『テメーは関係なしによく来てるじゃねぇか』
わざわざ仕事だと理由付けなくても来たいときに来るくせに。
さも会えていないかのような言い方にムッとする。
そのとき不意に、コタツの中で足が触れ合った。
ビクッと身をすくめると、そんなことおかまいなしに足の裏を合わせてくる。
恨めし気に睨むと、相変わらずのニヤケ顔で・・・・・。
顔色ひとつ変えずに足をすり寄せてくる。
『小さい足やなァ・・・ぬくいけど』
『引っ付けてくんな、気持ちわりぃ』
ゲシゲシと合わせられた足を蹴ると、逃げるように奥へ引っ込む。
俺ももう探られないように足を引っ込めて胡坐をかいた。
目の前では“残念やなァ”と良いながらも全然顔には出ていない憎たらしいやつが、ニヤニヤしながら場所を移動し、俺の正面から斜め前に座る。
なぜわざわざ移動してくるのかさっぱりわからないが、気にせずまた湯飲みに手を伸ばしたところで、その湯のみの奥にあるカゴに入ったみかんに目がいってしまう。
どうしてか急に食べたくなってそのみかんに手を伸ばし、1つ取る。
皮をむいて1つ口に入れると、酸味よりも甘さが勝ったみかんの味が口の中に広がった。
うまいみかんだ。確か浮竹隊長が持ってきてくれた・・・・・。
『あーん』
『・・・・・なにしてんだ?』
『何って・・・・・食べたいなァ思て』
口を開けて俺がみかんを口に入れるのを待っているギン。
まぁいいか・・・と、仕方なく口の中に放り込んでやる。
『ん。美味しいみかんやねぇ。せやけど・・・白い筋取ってくれな嫌や』
『文句言うなら自分でむいて食えばいいだろ。それに、その白い筋に栄養があるんだ』
『え〜。口の中ごわごわして嫌やねんもん』
『なら食うな』
『そないなこと言わんといてぇ〜』
またもしつこく口を開けてくるギン。
ゆっくり食べれやしない・・・・と、ため息をつきつつもギンの口の中に入れてやる。
そのあと、またギンがなにか言ってくる前に自分も口に放り込んだ。
『うまいなァ。・・・・・・なんだかんだ言うてもちゃんと白い筋取ってくれたんやね。おおきに』
『ぅ・・・・うるせぇから・・・仕方なくだ』
うるさい口を塞ぐのに、もう1つみかんを放り込んでやる。
もちろん筋も取って。
1つのみかんを半分ずつ。
少し物足りなくてもう1つ食べようと手を伸ばす。
『まだ欲しいか?』
『んー・・・冬獅郎が食べさせてくれんのやったら・・・・』
『ちったぁ自分でむいたらどうだ』
その問には笑ってごまかし、俺に擦り寄ってくる。
その口にみかんを持っていくと、その薄い唇でみかんを取っていく。
ついでとばかりに俺の指にも舌を這わす。
『指まで食うんじゃねぇ』
『だって甘いんやもん。どこもかしこも甘い。・・・・ココも』
伸びてきた唇が俺の唇をさらっていく。
唇というより・・・・舌で舐められたと言った方があっているかもしれない。
俺の顔はみるみるうちに朱に染まり、無意識に自分の唇に手を当てていた。
それをニヤニヤと見るギンはさらに俺に近づき、口元を押さえる手を取って今度は本当に口付けた。
珍しく開眼したギン。目を見開く俺と至近距離で視線がぶつかる。
その目があまりにも優しくて・・・・・捕らわれたように動けない。
『・・・ん・・・っ・・・』
『・・・・目ぇくらい閉じるもんやろ』
『・・・ッハァ・・・・・テメーも・・・だろうが』
『僕は冬獅郎が閉じてくれへんからそれなら目合わせようかなァ思て開けただけや』
『訳わかんねぇ・・・』
口元をぐいっと拭うと、“ひどいなァ”と聞こえたけれど、無視で残りのみかんを食べる。
1個目よりもさらに甘いみかん。最後の1個はギンの口の中へ。
“おおきに”と笑う、それだけで全て許せそうな・・・・・。
『なんか・・・・ずりぃ・・・・』
『なにがや?』
『・・・・・・何でもねーよ』
頬杖をついて市丸と反対方向を向く。
見せれるような顔じゃねぇし・・・・・・。
きっとギンも気付いているから、あえてそうする俺になにも言わない。
何も言わずただじっと俺を見ている。その視線だけは伝わってくる。
俺の顔と言ったら・・・・・・熱でもあるかのように真っ赤だった。
そんな顔を見られて何か言われるのも嫌で。
ギンもそれをわかっているからこそ黙っているんだろうけど。
それが妙にくすぐったくて・・・・・・勢いよくギンのほうを向き、そのままギンにポスッと体を預けた。
『このまま食べてしもうてええっちゅぅことか?』
『・・・ッカヤロー・・・』
冗談だったのか本気だったのか、ギンは手を出してくることはなく、ずっと俺を抱きしめていてくれた。
end