素直になれない彼氏




『ウルキオラ・・・・・』

 名を呼ばれ振り返ると、その直後抱きしめられていた。
コイツの行動はいつも急で・・・俺の想像を超える。
またいつものことだろうと押し返すこともせずやりたいようにさせていた。
ただ腕だけは背中に回してやって。
グリムジョーはしばらく俺を抱きしめた後、目も合わせないままソファへ歩いていってしまった。
少し様子がおかしくて・・・・断じて心配とかではないが・・・、グリムジョーの後を追ってソファの方に行く。
寝転ぶグリムジョーの顔をジッと覗き込んでも顔を腕で覆ってしまう。明らかにおかしい。

『グリムジョー・・・・?』

 呼びかけても反応がない。
いや、反応してくれない。
どうしたものか・・・とソファに腰を下ろして顔を覆った腕に手を添える。
そうすると、ピクッと少し反応を示してくれた。
手を振り払われるかと思ったがグリムジョーはそうはしなかった。
何か怒らせるようなことをしたのかと思っていたがどうやら違うらしい。
ではなぜグリムジョーは俺と目を合わそうともしないのだろう?
抱きしめはするくせに。
触れさせることもするくせに。
いくら触れても触れられても、目を合わせてくれなくては寂しい。
俺の存在を見てもらえていないようで・・・・・寂しい。
なんとも言えない思いで目が合わないグリムジョーをじっと見ていると、ふいに重ねた手を取られそのまま引き寄せられた。
何の抵抗も出来ずグリムジョーの上に倒れこむとグリムジョーはまた俺をぎゅっと抱きしめる。
鍛えられた胸板に頭を押さえつけられ少し苦しかったが、グリムジョーの考えていることを知りたくて大人しくしていた。

 本当にどうしたのだろう?
そっと霊圧を探ってみる。
その霊圧は穏やかで・・・・・・怒っているものとは程遠い。
でもなにか引っかかるものがある。
いつもの強気なグリムジョーの霊圧の中になにかが混ざっている。
その正体がわからない。
でもきっとそれがグリムジョーをこうさせている原因なのだろう。

 散々考えてはみたものの答えが出ず、俺もイライラしてきた。
ウジウジする前に聞いてしまおう・・・・・と口を開こうとした瞬間、グリムジョーが俺より先に口を開いた。


『・・・・・怒ってるとかじゃねぇからな・・・・・』
『・・・・・』
『ただ・・・・・』
『ただ・・・なんだ?』
『・・・・・・』


 ガバッと顔を上げてグリムジョーを見ると、一瞬目があったがすぐにまた逸らされた。
それに少しムッとしたものの、俺は見てしまった。
グリムジョーの頬が朱に染まっていたのを。
それを見たのと、グリムジョーが“ただ・・・”の続きを言いにくそうにしているのとで、さっきからのグリムジョーの行動がなんとなく解った気がした。

 グリムジョーが俺に甘えている。

 そう考えるとこの妙な霊圧も納得がいく。
しかし甘え方を知らないのだろう。
だからこそこうして無言で俺を抱きしめ、恥ずかしくて・・・・その顔を見せたくなくて隠す。
なんと言葉をかけていいかもわからずこんなに唐突な行動をとっているのだろう。
 そんなグリムジョーが可愛くてしょうがない。
おもわず噴出すと、まだどう説明しようか悩んでいたグリムジョーがキッと俺を睨んだ。


『んで笑いやがんだッ!!』
『・・・・やっと目を合わしたな』
『な・・・・っ』
『甘えたいなら甘えればいいだろう』
『なっ・・・テメっ・・・・』


 グリムジョーはなんでそれがわかったのか・・・・という顔をして驚いている。
その顔もまたおかしくて笑いながら体を起こす。
するとグリムジョーは怒る気力も失せた様でバツが悪そうな顔をしながら体を起こし、しばらく目を宙にさまよわせた後、俺の胸にポスッと体を倒してきた。
どうやら素直に甘える気になったらしい。
ココでまた俺がからかうと意地を張るので黙ってその頭を抱き抱える。
グリムジョーでも甘えたいときがあるのだな・・・・と少し意外だったが、甘えられるのが嬉しいとも思った。
俺が甘えたときもグリムジョーはこんな気持ちになるのか?
それなら嬉しい。
もっと甘えたいし、もっと甘えられたい。


 グリムジョーは照れくさそうに笑いながら、しかし今度は目を逸らしたりせずに俺に唇を寄せてくる。
初めは軽いもの。だんだんと深く。
唇が解放され、少し物足りなさを感じていたが次は耳。
耳たぶや耳の下の柔らかいところを吸われたり舐められたり。
くすぐったくて首をすくめると、反対側も。
その後はまた俺の胸に顔を埋める。
顔を盗み見るとさっきまでの照れた顔はなくどこか安心してるような顔。
その表情を見て少し微笑み。そっと背中を撫でる。


『もっと甘えていいぞ』
『バーカ。んなしょっちゅう甘えっかよ』
『どうだかな』


 グリムジョーは一日中、俺にべったりで、少しの時間も離す事はなかった。



                                                                      end