現世デート〜公園編〜
公園なんて行って喜んで遊ぶような歳でもねぇけど・・・・。
たまにはのんびりと過ごしたいってときぐらい、誰にだってあるだろ。
何かが見たいとか、どこに行きたいとか、そんな目的もなにもなく。
ただのんびりと過ごしたいなって。
のんびりするだけなら虚圏でだって出来るけど・・・・・。
なんせあそこは何もないところだから。
どうせなら景色がある現世の方がいい。
『さっきから何を探しているんだ?』
『ん〜・・・・・移動手段。おっ、あった』
『・・・・??』
現世に来た途端にキョロキョロと何かを探し始めたグリムジョー。
なにをそんなに探しているのか・・・・・。
見つけたと言って持って来たのは青い何か。
移動手段と言う事は乗る物なんだろうが・・・・・俺はコレを知らない。
『グリムジョー、コレはなんだ?』
『チャリ。自転車だ。歩くより移動が楽になる。おら、ボサッとしてねぇで後ろ乗れよ』
グリムジョーはそれに跨りながら後ろを指差す。
なにかはわからないが、とりあえず言われたとおり俺もグリムジョーと同じように跨って座った。
『落ちんなよ』
『馬鹿が。余計なお世話だ』
『んじゃ行くぜぇ・・・・』
『?!』
俺は咄嗟にグリムジョーの服の裾を引っ張った。
急に動き出したそれに驚いて後ろへ落ちそうになったから・・・。
落ちたとしてもそんな馬鹿げたこけ方はしないが・・・・・。
『ちゃんと捕まってろよ』
『・・・・・・・・』
ギュッとしがみ付きこそしないが、添える程度にグリムジョーの横っ腹に手を置く。
それも片手だけ。
行く当てもなく、ゆっくりと進む自転車。
どこに行くのか、ハンドルを握っているのはグリムジョーな訳で・・・・・。
『行くあてがあるのか?』
『ぁあ?んなもんねぇよ。お前はどっか行きたいとこあんのか?』
『別に・・・・・』
行きたいところなど聞かれてもわからない。
だが・・・・・そんなに自身に満ちた物言いで行くあてがない≠ニ言うグリムジョーもどうかしてる。
じゃぁグリムジョーは何を思って走っているのか・・・・。
聞いてもまともな返事を得られそうにないと思い、その言葉はグッと押し込めた。
ただ感じるのは頬に当たる優しい風。
見えるものは・・・・・・見慣れたグリムジョーの背中と、見知らぬ現世の街。
グリムジョーは人の群れを器用に抜けていく。
左右に振られて、落ちそうな体を支えるためにどうしても添えた手に力がこもる。
さすがに抱きつくのは恥ずかしい。
だからそっと・・・・服の裾を握り締めていた。
しばらく走ると、さっきまでの街の賑やかな雰囲気を抜け、打って変わって静かな場所へ。
グリムジョーは不意に自転車を止めた。
そこは公園で・・・・・。
言われるまま自転車から降りて、ベンチに腰を下ろす。
グリムジョーはなぜかベンチとは逆の方向へと歩いていく。
少し行ったところで立ち止まって、しばらくした後俺が座るベンチへと戻ってきた。
そして無言で何かを差し出される。
それは紅茶の缶で・・・・・。
俺がその缶を取らずにグリムジョーと缶を交互に見ていると、グリムジョーは焦れたようにその缶を突きつけてきた。
『なにしてんだよ、さっさと飲めよ』
『・・・あぁ・・・・・ありがとう・・・』
『・・・・・ぉう・・・・』
缶を手に取り礼を言うと、グリムジョーは目を逸らしながら俺の隣に腰を下ろし、自分用に買ってきた炭酸ジュースに口をつけた。
特別話す話題もなく、しばらく沈黙が続く。
何か話さなくては・・・・という焦りはなく、なぜか落ち着いていて穏やかな気持ちだ。
横目でちらりとグリムジョーを盗み見るとただじっと、抜けるような青空を見上げていた。
つられるように俺も空を見上げると吸い込まれてその青に溶けていきそうな感覚に陥って・・・・・・。
グリムジョーも今こんな感じなんだろうか・・・・と思って少しくすぐったいような気持ちになる。
っと・・・・不意に膝の上に重みを感じ、目線を下ろすとニヤリと笑ったグリムジョーと目が合う。
『何をしている・・・・・?』
『膝貸せよ。眠くなった』
寝転んでから貸せと言われてももう俺に拒否権はないように思える。
それでも今俺が立ち上がってそのまま落としてやることは出来るが・・・・・・
それをする気は起こらなくて、手をグリムジョーの額へと持っていっていた。
そっと顔にかかる髪を掻き揚げる。
その手を滑らせて頬に持ってくると、その上からグリムジョーが手を重ねてきて・・・・。
手を取られて手のひらにキス。
『寝るんじゃないのか』
『そんなに触られて寝れるわけねぇだろ?』
『じゃぁ何もしない。寝ろ』
『もう寝ねぇ。・・・・もっと触れ』
『馬鹿が・・・・・』
青空をゆっくりと流れる雲と同じようにこの時間もゆっくりと過ぎていく。
重ねた手は離さぬまま・・・・・。
『そろそろ行くかぁ・・・・』
『どこへ?』
『さぁな』
いつのまにかあたりも暗くなってきていて・・・・。
どれだけの時間膝枕していたのだろうか?と考える。
行くか・・・・と言う割りに起き上がろうとしないグリムジョー。
今度は俺が焦れたように落としてやろうかと文句を言おうとした瞬間、グリムジョーが俺の胸倉を掴んで上体を起こした。
俺は引っ張られているせいで前かがみになるわけで・・・・・。
『んっ・・・・・』
重なった唇に驚きつつ、やられたと思った。
触れただけで離れていった唇。
グリムジョーもそのまま完全に体を起こす。
『目閉じろって。ムードねぇな』
『・・・・・胸倉掴んでおいてムードもなにもないだろう』
『まぁそうだな・・・・・』
高く笑いながら立ち上がり1つ伸びをしたグリムジョー。
俺も立ち上がろうとした瞬間、いつのまにやらこちらを向いていたグリムジョーにまたも唇を奪われる。
今度は体勢がしっかりしている分触れるだけのキスでは終わらせる気がないようで・・・・・。
『ん・・・・ふっ・・・』
角度を変えて何度も深く口付けてくるグリムジョーに抵抗出来ず、ただただ緩くグリムジョーの服を握り締めていた。
チュッと濡れた音と共に名残惜しげに離れていく唇。
至近距離で見つめられ、まだボーっとする頭でそれを見つめ返していた。
グリムジョーは俺の濡れた唇を指でぬぐって小さく笑った後、もう一度軽いキスを唇にして、次に頬にも柔らかく口付けた。
徐々にはっきりとする意識。
わかってくるにつれてグリムジョーを睨み上げると、グリムジョーはニヤニヤと笑った後、まだベンチに座ったままの俺に手を差し伸べた。
『行こうぜ』
俺は小さくため息をついた後、素直にその手を取って立ち上がる。
来たときと同じようにまた自転車に跨って、すっかり暗くなった夜道を走り出す。
人通りも少なくなっていて・・・・・。
昼間に比べて風も少しだけ冷たさを増している。
夏にしては心地いい風が体を撫でて・・・・・。
俺はそっとグリムジョーの背中にしがみついた。
『なっ・・・・なんだよ・・・・ウルキオラ』
『・・・・・風が少し冷たいから』
そんな理由にもならないような理由で。
感じるのは体を撫でる風と・・・・・見慣れた背中から伝わるグリムジョーの温もり。
背中に耳を当てるとトクン、トクン・・・・とリズムよく鳴る心臓の音と、響いて聞こえるグリムジョーの低い声。
回した腕。グリムジョーの腹の前で交差する2本の腕。
そこに重なるグリムジョーの片手。
あぁ、こんなにも穏やかな時間。
まだしばらく・・・・・こうしていたい。
グリムジョーも同じことを思っていてくれたなら・・・・・・・。
穏やかな時間が欲しいと思った。
そのためには場所も肝心だろ。
でもやっぱ1番必要なのは・・・・・・
ウルキオラなんだなって。
こいつが傍にいてくれるなら、結局他はどうだっていい。
こいつと一緒にいられるなら・・・・・
どこでだって・・・・・なんだって・・・・・。
end