刹那




 あの白に・・・・・恋をした。








 俺とヤツは同じ十刃だ。

だからこそ顔を合わせることもあるし、話すこともある。

話す・・・・と言ってもヤツは俺に心など開いて話してくれたことはねぇがな。

俺だけじゃねぇ。

ヤツが誰かに心を開くなんてこと、絶対にないと思っていた。

あの藍染様にさえも、どこかで壁を作っていると。








『よぉ、どこ行くんだよ・・・・お姫様』


 カツカツと、靴を鳴らして歩くウルキオラを捕まえてからかうように声を掛ける。

ウルキオラはデカイ目だけをジロッとこちらに向けて俺を見上げた。

冷静なようでいて・・・・強烈な霊圧をこちらへ飛ばしてきている。

それが俺にとってはおもしろくてしょうがない。

怒りでもなんでもいい。

“俺”に向いている感情。


『ノイトラ・・・・・・自分の宮へ戻れ』

『へぇ・・・・・お前こそココでなにしてんだぁ?・・・・・“グリムジョーの宮”で・・・』


 そんなこと聞かなくてもわかっている。

コイツはグリムジョーに会いに来た。

それがわかっていたから俺もココで待っていたんだ。


『お前には関係がないことだろう。俺はグリムジョーに用がある』

『へぇ・・・・・たまには俺のとこにも来いよ』

『なんのためにだ?お前に用はない』


 ウルキオラははっきりと言い切り、俺の横を通り抜けて行く。

それを止めることなくただその小さな背中を見ていた。








 最初はただ顔を合わせるぐらいだった。

白い肌にやけに翡翠の目が目立つ・・・・・・それだけの印象だった。

それから何度か任務の話をするようになって・・・・俺が一方的に話しかける回数が増えた。

からかっても大して反応しないウルキオラを相手にしてもおもしろくないと思っていたはずなのに・・・・・。

どうしてだか見かけるとなにか言ってやりたくなる。

ウルキオラは俺がからかうたびにウザそうな反応をするが相手にしないと決めているみたいにすんなりと俺の横を通り抜けて行く。

その態度がおもしろくないと気付き始めて・・・・・それでもいつかは反応してくれるのではないかと繰り返した。

ウルキオラは誰にでもそんな反応をしているのだと思っていた。

誰とも必要以上に話をしたりはしない・・・・・そんなふうに思っていたのに・・・・。

 以前たまたまグリムジョーの宮へ行く時があった。

そのときにたまたま見てしまった。




『・・・・っ・・・・・グリ・・・・誰かに、見られたらっ・・・・』

『だれもこねぇよ・・・・』


 壁とグリムジョーに挟まれているウルキオラ。

会話だけ聞いているとウルキオラが一方的に攻められているようにしか聞こえないものの・・・・・実際のウルキオラの表情は嫌がっているようには見えない。

こんなウルキオラを見るのは初めてだった。

こんな顔も出来たのか・・・・と冷静に考えている俺がいた。

そこで初めて気がついた。

俺はコイツが好きだったのだと。

グリムジョーだけに見せる特別な顔。

グリムジョーにだけ開く心。

思えばウルキオラはグリムジョーにだけはしっかりと言葉を返していた。

俺達に対する返事とは違う。心のこもった返事。

こんなにも違っていたのに・・・・・。

今更気付いたって遅い・・・・ってわけか。

いや・・・・早くても結果は同じか・・・・・。

初めからウルキオラはグリムジョーしか見ていなかったのだから。

きっとこれから先もずっとあんな顔はグリムジョーのもので、俺の知らないウルキオラは他にもいっぱいあって。

むしろ知らないことのほうが多すぎて。

俺の入る隙なんかないってこと。





 だからせめて・・・・・・



『ウールキオラぁ、今日は俺のとこ来るかぁ?』

『なぜ俺がお前のところになど行かなければ・・・・』

『ぁあ!!テメー!!ノイトラ!!!ウルキオラに触んな!!』



 ウルキオラの手を取ろうとした俺の前にウルキオラを護るようにすかさず入り込んできたグリムジョー。

俺の手を払おうとしていたウルキオラの手は無意味に宙を舞い、グリムジョーはウルキオラの体を簡単に抱き寄せた。

グリムジョーが霊圧も抑えることなく俺を睨みつける。

ウルキオラは初めこそキョトンとしていたものの、すぐにグリムジョーに落ち着けと霊圧を抑えるように促がした。

俺はそれを見て喉の奥で低く笑い、そんな2人の横を通り抜けた。

あぁ本当に・・・・・・・・隙がない。








 だからせめて・・・・

このちょっかいだけは終わらせない。

この恋が・・・・終わりを告げても・・・・・。



                                                                   end