優越感
俺のベッドに寝転びながら何かを読んでいるウルキオラ。
その横で壁にもたれて座っている俺は、いい加減ウルキオラを眺めているのにも飽きて、その真っ黒な髪に手を伸ばす。
髪は指の隙間をするりと抜けて、それが妙に心地良くて何度も何度も繰り返す。
それでも反応しないコイツをどうにかこっちに向けたくて、髪が指をすり抜ける前にキュッと引っ張ってみる。
そうすると、やっとウルキオラがこちらに目だけを向けた。蒼白い肌には目立ちすぎる翡翠色。それに見られるだけで体から動きが奪われてしまうような感覚がする。
『なんだグリムジョー』
反応は薄いもののこっちに意識を向けさせることに成功した俺はもう一度ウルキオラの髪を撫でた。
『なに読んでんだ?』
『藍染様が勧めてくださった書物だ』
『・・・・・おもしれぇのかよ。そんなもん』
『なかなかいい本だ』
俺は面白くない。その本のせいでウルキオラは俺のこと完璧に無視だしその本が藍染様のもんだって言うならなおさら腹が立つ。
『それだけか?俺は続きが読みたいのだが・・・』
『・・・・・勝手にしやがれ』
俺はウルキオラから目を離し、そっぽを向いた。
ウルキオラがこっちをじっと見ているのは解っているがそれもすべて無視する。
あー・・・・ムカつく・・・・。
自然と眉間に皺がよる。頭の中は苛立ちで文句ばかり浮かんでくる。
あの本がもし藍染様のじゃなければ少しは苛立ちもマシだっただろうか。
俺の知らないところで藍染様と2人でどんな会話をしたんだろうかとか、その本のことで盛り上がったのかとか・・・・。すげぇ嫌だ。
頬杖をついて目を瞑って・・・・・そんなことばかり考えてイライラしていると、ベッドがキシッときしんだ。
ウルキオラが動いたのだろうか?俺の機嫌が悪くなって居心地が悪くなったから自分の部屋へ戻るのか・・・・・?
気にはなるものの見て確認するのはしゃくで、目は瞑ったまま。
そうすると、胡坐をかいた太ももに何かが置かれ、少し重みを感じた。すぐに手であることがわかり、さすがに目を開けて、置いたであろう本人を見る。
目の前にいるのは紛れもなくウルキオラ。だが・・・・・表情が違う。いつもの無表情はすっかりそこにはなく・・・・苦しそうに顔を歪めて俺をジッと見つめる。
さすがの俺もそんな顔をされると睨んでもいられなくて、なにか言葉を発しようとしてはやめるウルキオラをジッと見返してやる。
『なんだよ・・・?』
いつもと同じ言葉でも、そんなにキツく言うことは出来なくて・・・自然と丸みを帯びた声に自分でも驚いてしまう。
俺自身、ウルキオラのこんな苦しげな表情を見て相当焦っているみたいだ。
それでもどこか言い辛そうに目を泳がせるウルキオラ。その口からは言葉が出る気配がない。
俺もどうしたらいいのかわからなくてただウルキオラを見つめる。だがそれが逆効果なのか・・・・・ウルキオラはパッと目を逸らした。それでも俺の服の裾をギュッと握っているところを見ると、なにか伝えたいことはあるんだろう。
『ウル・・・』
名前を呼んでやるとピクッと反応して、翡翠が揺れる。よく見ると、唇がかすかに動いていて、耳をすませばかすかに“グリムジョー”と俺の名を呟く声が聞こえる。
それを見て、俺は深いため息をついてからそれにビクッとするウルキオラをグイッと引き寄せ、腕の中に納める。
『なんだよウルキオラ。はっきり言いやがれ』
俺の言葉1つ1つに体を震わせ反応を示す。その震える体を強く抱きしめてやると、おずおずと俺の背中に手が回った。
そしてゆっくりとウルキオラが口を開く。俺はしゃべりやすいように少し腕の力を緩めた。
『・・・・なぜ・・・・怒った?』
『なぜって・・・・そりゃぁ・・・テメーが藍染様の本嬉しそうに読むからじゃねぇか』
『別に嬉しそうになどしていないが・・・・・機嫌が悪くなってしまったのなら謝る。だから・・・・怒らないでくれ』
弱々しく呟くウルキオラは明らかにいつもと違う。
それが俺にとってはものすごく嬉しくて・・・・・。もう一度ウルキオラを強く抱きしめた。
『バーカ。もぅ怒ってねぇよ。だから、んな顔すんじゃねぇ』
くしゃくしゃと髪を乱暴に撫でると、やっと少し微笑んでくれる。自分から身を摺り寄せてきて、俺の髪に触れる。優しく絡みつき、離れてはまた絡ませて遊ぶ。それが心地良くてしばらく好きなようにさせていた。
『なぁ・・・・どんな本なんだ?』
『恋愛ものだ』
『恋愛?!んなもん読むのかお前?』
てっきりもっと難しい哲学的なもん読んでんのかと思っていた俺は驚きを隠せない。
『実はな、藍染様が・・・お前とうまく付き合っていけるように恋の勉強もしなくてはいけないとおっしゃったのだ。
それでこの本を貸して下さって・・・・。俺はこういうことがよくわからないからもっと知らなくてはと思って・・・・』
『・・・・・・ッ・・・』
なんなんだコイツは・・・・・ッ。可愛い・・・・。つーか・・・・・そういうことだったのか。怒ってた俺が悪いんじゃねーか。
『グリムジョー?どうした?』
『・・・・・悪ぃ。その・・・サンキュ・・・・・』
『・・・??なにがだ?』
『・・・・なんでもねーよ』
少しごまかし、向かい合って座っているウルキオラの体を反転させて、自分の膝の上に乗せ、背中から抱きしめる。
肩口に鼻先を寄せ、クンっとウルキオラの匂いを吸い込む。
『グリ・・・?』
『それ・・・・・読んでいいぞ』
『それ・・・?』
『本。読んでもいいつってんだよ』
『だが・・・』
『怒らねぇから。そのかわり、このまま引っ付いてろよ』
ウルキオラはしばらくキョトンとした後“わかった”と言って俺にもたれて本を読み始めた。
ときどき、喉を逸らせて俺を見上げて来る。
“なんだよ?”と聞くと首だけを振ってまた本に目線を戻す。何分か置きにその行動を繰り返す。
俺の機嫌でも伺っているのか??さっき怒っちまったからな・・・。もぅ怒ることねぇのに・・・。
悪いことをしたなと思う。謝罪の気持ちを込めて髪を撫でると、ウルキオラはまた見上げてきて・・・・・・少し笑う。これで俺がもぅ怒っていないと伝わっただろうか?
思えば・・・・・ウルキオラの表情を変えられるのは俺だけなんだ。
無表情のウルキオラ。他のやつの前では笑った顔なんか見たことねぇ。実際付き合うまでこんな柔らかく笑うやつだと思ってなかった。
さっきの苦しそうな顔も・・・・・困った顔も。怒った顔ですら見たことなかった。
それほどまでにポーカーフェイス。
そして・・・・・快楽に満ちた顔をさせられるのも俺だけ。
よすぎて涙流す顔も・・・・・・苦痛に歪む顔も・・・・・・・・
全部全部見れるのは俺だけ・・・・・。
これから先、絶対に俺以外の前で表情変えさせねぇ。
俺だけの特権・・・・・・誰が他のやつになんか渡すかよ。ぜってー奪わせねぇ。
エロくキレイなウルキオラ・・・・・・・俺だけのモノ。
『グリムジョー?なにをニヤけている?』
『ぁ?・・・・いや・・・・・別に』
ニヤっと笑って見上げるウルキオラの唇に軽く口付ける。
これは俺だけの秘密。俺の前でだけ表情を見せてるウルキオラ。たぶんこいつ自信も意識しねーでやってることだ。それをわざわざ言って意識させることもない。無意識でやってくれてる方が気持ちいいからな。
意識しすぎて俺の前でまで表情見せなくなっちまったら嫌だしな。
だから・・・・・・俺だけの秘密。
『・・・・・後少しで読み終わる。もぅしばらく待っててくれるか?』
『あぁ。好きなだけ読んでろよ』
俺だけが特別だと言われたわけじゃねぇけど・・・・・
無意識でも態度に示すお前が愛しくて愛しくて・・・・・
今はそれだけで十分だと思うから。
ただ俺の腕の中に居てくれ・・・・
ずっと・・・・・
今も・・・・・
これからも・・・・・。
end