救いの手




 ある朝。気持ちよく寝ているところを腹に衝撃を受けて目覚めたその目前に突きつけられたのは・・・・一匹の猫だった。

いきなり起こされて、(しかもかなりの力で腹を殴られ)イラつきはしているものの、俺は別に寝起きが悪いわけじゃない。

ウルキオラならきっといまだに意識がはっきりしないといった状況だろうが、俺は朝は強い方だ。

しかしコレはさすがに理解できない。

なぜ腹を殴られてまで起こされて、しかも目の前に猫なんか突きつけられなくちゃいけないのか。

それに・・・・・・その猫を俺に突きつけているのはウルキオラで。

必然的に俺の腹を殴ったのもコイツなんだろうが・・・・・なぜか今更怒る気にもなれない。

とりあえずふーっと息を吐いて、猫を押しのけその奥にいるウルキオラの目を見据える。


『なんなんだテメーは。朝からなにしてんだ?しかも起こすのにわざわざ腹殴ってんじゃねぇよ』

『そんなことよりだ、グリムジョー。猫だ』

『見りゃわかんだよ。つーか聞けよ人の話』

『どこから迷い込んだかわからないが・・・・とりあえずつれてきた』


 とにかく猫の話がしたいらしいウルキオラは俺の話なんざ聞く耳もってねぇ。俺もそれがわかったからあえてもうそっちの話に乗ることにしてやった。

ウルキオラの腕に抱かれた灰色の猫。少し青みが掛かった目の色が映えて綺麗だった。

そいつはみゃー≠ニ小さく鳴いて。俺はその喉を2本の指でさする。

気持ちよさそうな顔をした猫はスリスリと俺の手に顔を擦り付けてきた。


『気の入られたな、グリムジョー』

『・・・・・なんでコイツ拾ってきたんだ?お前いつもなら放っとくだろ?』


 そう俺が聞くと、ウルキオラは黙って俯いた。

話そうとしないウルキオラに特に苛立つわけではない。今日はたまたま気分が良くて拾ってみたんだろう。と、俺は勝手に解釈して、ウルキオラの髪を撫でてやった。




 俺が顔を洗っている間にウルキオラは皿に牛乳を注いで猫に出してやっていた。

うまそうに喉を鳴らしながら飲む猫を見て、嬉しそうに笑っているウルキオラを見ていると、なぜか微笑ましくて・・・・そっと近づいて、猫をジッと見ているウルキオラの隣に並んだ。

俺が近づいた瞬間バツが悪そうに緩んでいた口元を引き締めたのを見て、俺はククッと喉の奥で笑い、可愛いウルキオラをガシガシと撫でる。

やめろ≠ニ抵抗する腕を受け流しながら、スキを見てチュッと頬に口付ける。

ウルキオラは呆れたように、俺の唇が触れた場所をサッと押さえて莫迦が≠ニ睨み上げてきた。




 それからウルキオラは一日中猫にべったりで離れようとしない。

もちろん俺の事も放ったらかしで。

つまらない俺はムスッとしながら、でもなぜかどこかでウルキオラが楽しんでいるのを嬉しく思っている自分もいた。



 ふと大人しくなったウルキオラと猫。

そっと近づくと、ウルキオラが人差し指を唇に当てて・・・・・あぁ・・・静かにしろってか。

つーかその仕草可愛いんだよ。そんなん他のやつにやりやがったらマジお仕置だな。こんなん誘ってるとしか思えねぇ。

と思いつつ猫を見るとスースーと小さな寝息が。

俺とウルキオラはそっとその場を離れ、ソファの方へと移動する。

やっと近く感じるウルキオラに触れようとした瞬間、ウルキオラが口を開いた。



『あの猫を拾ってきたのは・・・・・少しお前に似ている気がしたからだ』

『俺にか??・・・・・目の色ぐらいしか似てねぇだろ?』

『そこもそうだが・・・雰囲気・・・・というか・・・。昔のお前にそっくりだったから放っておけなくてな』


 尖っていて、孤独な・・・・・

そして、ウルキオラが拾ってきた後のあの甘えようは今の俺にそっくりだ、と笑って言われた。

俺はムッとしつつ、向こうでスヤスヤと眠る猫を見る。

自分を重ねて・・・・確かにそうかもしれない、と納得している自分がいた。



『でもよぉ・・・・・そんな似てるやつよりも、本人に構えよ』

『っ!!急に引っ付いてくるな!!』


 さっき放置されていた分、しっかりと体を摺り寄せる。

チュッチュッと顔中にキスをおとしながら、ウルキオラを見ると、少し困った顔で俺を睨んでいた。

そんな顔をされても俺としては関係ない。

むしろそっちの方がそそられて・・・・・。

文句を言おうとしている口をキスで塞いだ。

軽いキスを繰り返して、首筋にも唇を這わせる。

少しだけ歯を立てて甘く噛み付くと、ウルキオラがくすぐったそうに首をすくめた。



『・・・・大きな猫に好かれるのも大変なものだな・・・・・』

『覚悟してろよ。お前がいらねぇって言うまで愛してやるから』

『それなら覚悟するのはお前のほうだなグリムジョー。それにあの猫も。・・・・俺に一生尽くすことになるのだから』

『・・・・・おまっ・・・・・・・上等じゃねぇか』



 あの猫を闇から救ったのはウルキオラで。

あの猫はきっともう闇に帰れない。

光を知った瞬間、今まで確かに自分がいた場所が、こんなにも怖くなる。

決して自分からは戻れなくなる。

だからこそ・・・・・お前の口からいらない≠ニ言われない限り、離れられないんだ。



 きっとお前はその言葉を言わない。

その恐怖すらも取り除いた。

変われたのはきっとウルキオラのおかげ。

これから変わっていくのもきっと全部全部・・・・・・・





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