ずっとずっと気になっていたんだ。
この翡翠の瞳。
この目に、この世界はどう映っているのだろうか?
俺はどう映っているのだろうか?
『近い』
ウルキオラが文句を口にする。
それも無理はないだろう。
もぅ少しで鼻がくっつきそうなほど顔を近づけているのだから。
なぜ俺がそれほどまでに顔を近づけているのか・・・・・・。
別にキスするためじゃない。・・・・・・してもいいんだが。
『いつももっと近いだろうが』
少し離れて鼻で笑いながら口の端を吊り上げる。
そんな挑発的な態度をとってもウルキオラは呆れたように深いため息をつきながら手に持っていた本を閉じた。
『その至近距離でなにもしてこないから不思議なんだ』
『へぇ・・・よくわかってんじゃねーか』
少し以外だった。なにも干渉してこないから他人のことはどうでもいいと思っていたが・・・・・・。
『・・・・・なにか言いたいことがあるんじゃないのか?』
『ん〜・・・まぁな』
『早く言え』
やけに先を促すウルキオラ。
それに気分を良くして俺はニヤリと笑う。
『そんなに俺の話が聞きたいのか?』
『殺すぞ』
有無を言わせずこの一言。見事にばっさり切られてしまった。
俺も慣れている分さほどへこみもせずこれ以上からかうと本当に話を聞いてもらえなくなるため、止めておいた。
そしてしばらく間を置いてからゆっくりと口を開く。
『テメーが見てる世界ってどんなだ?』
『質問の意味がわからん』
確かに言葉が足りなさすぎたか・・・・。
少しムッとなりつつもどう言えばうまく伝わるのか考える。
『お前の瞳は翡翠色だろぉが。その目で見る世界は翡翠色なのか?って聞いてんだよ』
そういうと何か伝わったのか、ウルキオラはキョトンとこちらを見る。
そしてすぐにまた呆れたようにため息をついた。
そんな呆れられる意味がわからない俺は苛立つ。
『んだよっ。はっきり言いやがれ』
『お前はバカか』
『ぁあ?』
意味がわからない上にバカなどと言われれば余計に頭に血が上る。
はっきり言えと言ったが詳しく内容を伝えろという意味でなにも思ったことをそのまま口に出せという意味ではない。
キッと睨んでいると、すぐにウルキオラがまた口を開く。
『お前の言い分だと瞳が黒いやつは世界が何も見えていないということになるぞ?』
そう言われて今度は俺がキョトンとする番だった。
確かにそうなる。茶色の瞳なら世界が茶色に見えるだろう。
なぜ俺はそんな当たり前なことを勘違いしていたのだろうか?
『お前の見る世界は水色か?』
『っせぇな!わかったっつってんだろっ』
こいつこんだけしつこかったのか?
そもそも・・・・・
こいつの目があまりにも綺麗な翡翠だから勘違いしちまったんだ。
恥ずかしいやらむしゃくしゃするやらで、俺は腹いせにウルキオラにもう一度顔を寄せる。
また鼻がくっつきそうな距離。
息遣いや心臓の音まで聞こえてきそうな・・・・・。
お互い負けん気が強いからか、目を逸らすことは愚か、揺らぐことすらない。
吸い込まれそうな翡翠。また勘違いしそうだ。
翡翠に映る俺が見える。今ウルキオラの目には俺しか映っていないということ。
俺の目にウルキオラしか映っていないのと同じように。
『また見ているだけか?』
『・・・・・・どうにかして欲しいのかよ?』
また“殺すぞ”とかなんとか言われるかと思ったが出てきたのはそんな言葉ではなく・・・・・。
あれだけビクともしなかったウルキオラの目が一瞬泳ぎ、次の瞬間手を伸ばして俺の首に抱きついてきた。
『そんな近くで見られたら――――――・・・・』
はぁ?今なんつった??
最後の方はほとんど吐息で。それでも確実に俺の耳に届いた。
まさかあのウルキオラがそんなこと言うと思わなくて信じられなかったんだが・・・・。
ほんとにポーカーフェイス上手いやつだな。
“そんなに近くで見られたら・・・・恥ずかしい・・・・・”
口に出してしまったことも恥ずかしいのか俺の腕の中で震える。
俺が引き剥がそうとしてもさらに強い力で抱きついてきて離れない。
仕方なく引き剥がすのを諦めて逆に抱きしめてやる。漆黒の髪を撫でてやると小さく身じろいだ。
照れるウルキオラなんかめったに見れるもんじゃねぇ。
だからこそ顔を見せてはくれないんだが・・・・必死にしがみ付いてくるのが可愛いからまぁいいか・・・。
照れさせ方はわかった。
それさえわかってしまえばいつでも照れさせることは出来る。
ウルキオラに気付かれないように小さく笑って目の前で揺れる髪に口付けた。
『顔見せろ』
意地悪くわざと言ってやると、反抗的に首を横に振る。
その反応は予想の範囲内。
だから無理に引き剥がしたりしない。
俺にしては気長にやってると思う。
『ウール・・・・ウルキオラぁ』
『・・・・・うるさい』
やっとのことで顔を上げるウルキオラ。
不機嫌なのは照れ隠しか?
ニヤリと笑って軽く口付ける。あまり顔を見るとまた隠しちまうから見ないようにして・・・・・。
そもそもウルの方が目合わしてきやがらねぇ。それもムカついて覗き込もうとするが、避けられる。
『・・・・・・なんで避けやがる・・・』
『見るなと言っているだろう』
『うるせぇよ。見せろ』
苛立った俺はその場にウルキオラを押し倒して体を押さえつけた。
驚きを隠せないウルキオラは嫌でもこっちを見る。
それも一瞬で顔を逸らそうとしたところで俺はさせないように唇を奪った。
さっきのように軽くではなく・・・・そんな羞恥心なんざ全部忘れちまうくらい激しく。
息も出来ないほどに・・・。
『もうおまえなんか知らん』
『んなむくれんなよ。照れることねぇだろうが今さら』
近くで顔見るくらいどうってことないだろ。
もっと恥ずかしいとこも全部見てんのに・・・。
そうは思うがさすがにこれは口に出すと本当に無視されそうなので止めておいた。
『とにかく俺の上から退け』
『・・・・・却下』
『・・・・・・しないぞ』
『別にする気ねぇけど・・・・・して欲しいのか?』
『・・・・・・』
じゃぁなんで却下なんだと聞きたいんだろうが口を開くことすら面倒なのかなにも聞いてこない。でも顔にはそう書いてある。それがおかしくて少し笑ってウルキオラの頬に口付けてからウルキオラが聞きたいだろうことに返事をしてやる。
『お前の目、見てたいんだよ』
真っ直ぐにウルキオラを見つめて言う。
ウルキオラも俺の言葉に驚いたのか目を逸らさない。
そのウルキオラの真っ直ぐな目がやっぱり綺麗で。
・・・・・・俺が望んだ翡翠。
『だからよ・・・・もぅ目逸らすんじゃねぇよ』
『・・・・・変なヤツだな』
仕方ないというようにウルキオラも俺を見る。
もぅ逸らすことはない。頑張ってくれているんだろうか?だとしたらすげー嬉しいんだが・・・・・。
吸い込まれそうな翡翠。
またコイツにはまっていく。
お前が見る世界を見たいと思った。
絶対出来ないことだとわかっているが・・・・・その瞳に自分が映るほど近づいたら、同じ世界が見える気がしたんだ。
そんな女々しいことを思ったなんて口が裂けても言えねぇけどな・・・・。
『見てるだけでもの足りねんなら・・・・・してやろうか?』
『調子に乗るなよグリムジョー・・・・』
拳が飛んでくるまであと3秒・・・・・・。
end