PEACH




『ん・・・・・ンぅ・・・・っ・・・は・・・・ぁ・・・』


 優しげな口付け。

触れるだけだった唇はいつの間にか舌を絡められて、きつく吸われて・・・・。

唇も痛いぐらいに。

口の端から零れ落ちる唾液さえもどちらのものかわからないほどに深く口付けて。

それすらも気にならないほどに酔いしれる。

濡れた音と口から漏れる甘い声だけが響いて・・・・。

散々口の中を犯したそれは最後に優しく唇を吸って、チュッという軽い音を残し離れていく。

トロンとした目で見つめると、グリムジョーは優しげに目を細めて・・・・もう一度軽い啄ばむようなキス。

大きな手で髪を撫でられると心地良くて・・・・

力の入らない体をグリムジョーにポスッと預けた。

その頭上から・・・・・。



『ウル、唇荒れてんぞ。カサカサだとキスしても気持ちよくねぇからちゃんとリップ塗っとけよ』


 散々キスしといていうことがコレ・・・・・。

俺はそれにひどく腹が立ってグリムジョーを力いっぱい蹴り上げた。

容赦のない蹴りにノーガードだったグリムジョーは吹っ飛び壁に激突する。

俺はそれをキッと睨んでから背を向けて部屋を飛び出した。

後ろから呼び止めるグリムジョーの声が聞こえたような気がしたが完全に無視してやった。



『っーーーー・・・・・いってぇ・・・・なんなんだアイツはいきなり・・・』



 壁にヒビが入るほどに強く激突したグリムジョーはぶつけた腰をさすりながら立ち上がる。

機嫌は悪くなかったはずのウルキオラがなぜ怒ったのか理解出来ずに、グリムジョーはしばらくその場を動けずにジッと考え込んだ。







『なんなんだアイツは・・・・散々やっておいてあの言い草』


 あまり感情を出さないウルキオラが珍しくイライラを表に出したまま自分の部屋へと向かって歩く。

長い廊下。同じ風景。

見慣れたはずのそれにさえ苛立つ。

いつもは軽やかに運ぶ足音さえも今は地面が揺れてしまうのではないかというほどの勢いで踏みしめる。



『クソッ・・・・莫迦がっ』



 やっと自分の部屋についたウルキオラはドアを乱暴に閉めて、ソファにドカッと腰を下ろした。

モヤモヤする頭の中が冴えない。

グリムジョーの顔ばかりが浮かんでイライラする。

頭の中ではさっき言われた言葉が永久にリピート。

それをどこにもぶつけることが出来ずに、グッと唇を噛んだ。

その時、ふと・・・・・思い立って白い指先を唇に当てる。

そっと唇に沿ってなぞると、確かにカサカサとしていて指にひっかかる。



『気持ちよく・・・・ないかも・・・・な』


 最近急に冷え込んできて乾燥した空気が流れている。

どうりで唇が痛いと思った。

グリムジョーを蹴り飛ばしてはきたが・・・・・やはりグリムジョーの言っていることは正しい。

そう思い返すとだんだんと罪悪感が生まれてきて・・・・。

とりあえずグリムジョーが言っていたリップというものを探そうか・・・と思い当たったのがルピだった。




 さっそくルピのところに足を運ぶ。

リップがよくわからない俺は、説明も出来ずにとりあえずリップと口に出してみると、ルピはすぐにそのものがわかったようで・・・・。



『リップ??こないだまとめ買いしちゃったから1つウルキオラにあげるよ!最近乾燥しちゃって痛いもんね』



 引き出しから出したそれを、はいっと俺の手に渡してくる。

ピンク色の・・・・口紅のような形・・・・。



『助かった。どんなものかわからなかったから買うことが出来なくてな』

『どういたしまして。それ塗ってたらだいぶんマシだからこまめに塗りなよ』



 そう教えてくれたルピに礼を言って、俺は部屋を後にする。

その口紅のようなものをジッと眺めながらまた自室へと戻る。

ドアを開けた瞬間・・・・。




『よぉ』

『グッ・・・・リムジョー・・・・??』



 部屋の中にいたのはグリムジョーで。

ソファの上にどっかりと座っていた。

もう腹は立っていないが、さすがにさっき蹴り飛ばした後だ。

どう接していいかわからずに立ち尽くしていると、グリムジョーが手招きする。



『ちょっとこっち来てくんねーか?』



 渋々頷いて、ゆっくりとグリムジョーが座るソファに近づく。

目の前に立つと、ダランと伸ばしていた手を取られて、ぎゅっと握られた。

下から見上げてくるグリムジョーが少し可愛くてキュンとしてしまう自分をぐっと抑えて、グリムジョーが口を開くのを待つ。



『・・・・・・あのよ・・・・さっき言った言葉は、別に気持ちよくなかったとかそういう意味じゃなくて・・・・』




 必死になっているグリムジョー。

それを見るのが少し楽しくて静かに聞く。

何も言わない俺をバツが悪そうにチラチラと見ながら話すグリムジョーに、俺も我慢の限界でふッと笑いを漏らす。

そうすると必死になっていたグリムジョーの声が止まり、ぱちくりと俺を見上げていた。




『もうわかった。俺も蹴り飛ばして悪かったな。大丈夫か?グリムジョー』

『は・・・・・なんだよ・・・・・すっげー焦ったぜ・・・・』



 はぁーーーーっと長いため息をついて俺の胸に顔を埋めるグリムジョー。

その髪に指を絡めて撫でてやる。

腰に回る手がくすぐったいが少し我慢して・・・・。

するとグリムジョーはん?≠チと何かを見つけたように俺のポケットを漁り始めた。

それもくすぐったくて抵抗したが、グリムジョーは中からその物体を取り出すことに成功したらしく、それを見つめている。

俺はポケットに何かを入れたか・・・・?と思考をめぐらせた後、ハッとしてグリムジョーを見た。

グリムジョーが手に持ってニヤついているもの・・・・。

さっきルピにもらったリップクリーム。



『コレ、探しに行ってたんだな』

『ッ・・・・・カサカサでっ気持ちよくないんだろう?!』



 少し恥ずかしくて声を上げるとグリムジョーはまた俺をぎゅっと抱きしめた後、グイッと俺の体を抱き上げて、自分の膝の上に持ち上げてしまった。

俺は一瞬のことで抵抗も出来ないまま、グリムジョーの膝の上に向かい合わせで乗ることになる。




『離せ・・・・』

『せっかくだし塗ってやるよ。ついでに俺も付けさせてもらう』

『はぁ?ちょっ!!おいッ・・・・ンむっ・・・』

『薄く口開いてろ』




 グリムジョーは俺の顎を固定して、そのリップクリームを滑らせた。

かなり多めに塗られたそれはぬるぬるしていて少し気持ちが悪い。

多く塗りすぎだ、と講義してやろうと思った瞬間に、グリムジョーの唇で口をふさがれた。

擦り合わされる唇にさっきのグリムジョーの言葉を理解する。


ついでに俺も付けさせてもらう



 少し悔しいという気持ちを込めて睨むと、グリムジョーはニヤッと笑って・・・・。



『つけるとき俺に言えよ。いつでも塗ってやる。んで、俺も塗る』

『そんなことをしていたら取れてしまって意味がないだろう?』

『また塗ればいいだろーが』

『莫迦が』

『気持ちいいキス、いっぱいしような、ウル』




 真っ直ぐに見つめられて言われると恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、少しだけ目を逸らして、コクンと小さく頷いた。

また重なったグリムジョーの唇からは、俺のと同じ甘い桃の香りがした。





                                                                        end






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そして1年間続けてこられたのも皆様のおかげだと思っております。
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