冬の果実




『さみっ・・・・・・』




 いそいそとコタツに入ってくるグリムジョー。





『情けない声を出すな』

『うるせぇな・・・・・さみぃんだからしょぉがねぇだろ』

『寒いと言うから寒いんだ』





 俺より早くコタツに入っていたウルキオラ。

淹れたてなのかホワホワと湯気が立つ湯飲みが目の前に置いてある。

俺にはウルキオラのほうがよっぽど寒そうに見える。





『俺にも茶淹れろ』

 自分でやれと言われるかと思って構えたが、ウルキオラは俺を一睨みしてから無言で目の前の急須を手に取り、置いてあった湯飲みに中身を注いで俺の前にトンっと置いた。




『・・・・サンキュ・・・・・』

 どうやら自分が作った余りがあったらしい。

しかし湯飲みまで用意してあったと言うことは・・・・・・

俺がくれと言うだろうことがわかっていたのか??



まぁ淹れてくれたのだからどぉだっていい。

少し気分よく、そのお茶を啜る。

熱いものが体内に流れ、中から体を温める。





『ぅめぇ・・・・・・』

『そうか』

 なぜか先程から感じる違和感。



(なーんか・・・・・・やわらけぇ?)



 そう。

なぜかウルキオラがやわらかい。

雰囲気もそうだが・・・・・

いつものウルキオラならきっと茶なんか淹れてくれない。

しかもなんの文句も言わないと言う辺りですでにおかしいのだ。

熱でもあるんじゃないかと様子を伺ってみるが・・・・・・





『なんだ?』

『・・・・んでもねぇ・・・・・』





 変わった様子はない。ではこれはなんだ・・・・・??


う―――と唸るようにウルキオラを見ているグリムジョーを、ウルキオラは不審に思いながらふとなにかを思いついたように目を見開いた。

そしてすぐに自分の横から籠に盛ってあるオレンジ色の丸いものを取り出し、机の上に置いた。




『・・・・・なんだ?コレ・・・・・』

『みかんというものらしい』

『みかん?』




 ウルキオラはそれを一つ取り、なにやらそれをむき出した。

オレンジ色の皮の下からはいくつにも別れたオレンジ少し薄い三日月。

ウルキオラはそれを一粒口に放り込んだ。

無表情を見つめる。

美味いのかマズいのか。





『美味いのか……??』




 表情からは読み取れず思わず問う。

すると・・・・・・




『食うか?』




 差し出された一粒。

口を開けると中にそれを放り込まれた。

噛むと幾つもの小さな粒から甘酸っぱい汁がたくさん溢れて・・・・・・




『うまいか?』

『ん――・・・・うめぇケド・・・・ゴワゴワして気持ちわりぃ・・・・・』



 白い筋のことだろう。

ウルキオラは筋をとらずにグリムジョーの口の中に入れた。




『その筋に栄養があるそうだ』

『ほんとかよ・・・・・・』




 半信半疑で聞き返す。

怪訝な目を向けるとまたも目の前に差し出される粒。

驚きながらウルキオラを見ると・・・・・・





『もう食べないのか?』




 引っ込めようとするウルキオラの手首を取り、そのみかんの粒に・・・・・・いや、ウルキオラの指ごと口に含んだ。




『なっ・・・・・おぃ!!』

『ん・・・・・ぅめ』




 しゃぶるように指を吸って指先のみかんを取る。




(おっ・・・・・・?)




 口の中には甘酸っぱさだけ。

さっきのようなゴワゴワがない。




『・・・・・取ってくれたのか?あのゴワゴワ』

『・・・・・・お前がうるさいからだろう』

『・・・・へっ・・・・・・もう一個食ぃてぇ』

『甘えるな』




 そう言いつつもウルキオラが筋を取って・・・・・。




 甘い・・・・・

なにがあったかはわかんねぇが今日は甘やかしてくれているらしい。



"甘えるな"と言ったくせに、こうして白い筋を取って。

警戒したように俺に綺麗なオレンジを差し出してくる。

それを素直に受け取って。





『お前・・・・・可愛いな』

『・・・・・??』




 ニヤッと笑って、俺はコタツから出て、ウルキオラの背後に回る。

そのまま腰を下ろし、ウルキオラを抱き締めるようにしてコタツに入った。





『なにをしているんだ』

『さみぃなぁって』

『なら向こうに入っていればいぃだろう』

『お前にくっついてるほうがあったけぇ』

『バカなやつ』





 背中にコツンと額を当てる。

柔らかく唇を押し当てて・・・・・

肩に顎を乗せた。

視線を横へ送るだけでウルキオラの白い頬。

綺麗な目。

冷たい頬にも軽く唇を押し当てると、翡翠の目が俺を映す。




『なぁ・・・・・・みかん食いてぇ』




 甘えさせてくれるならとことん甘えてみるか。

どこまでゆるしてくれんのかわかんねぇケド。

それでも、肩越しに見える手がみかんを剥いてくれている。

愛しくてぎゅぅっと腕に力を込め、首筋に顔を埋めた。





『くすぐったいぞグリムジョー。ほら、剥けたからさっさと食え』




 顔を上げて差し出されるみかんにかぶりつく。





『っ・・・・!!指を舐めるなっ』




 サッと朱がさす白い頬に頬を合わせる。

ウルキオラは、早く食べさせたいのか、俺が飲み込むのを見計らって次々と差し出して来る。

何個目かのみかんが放り込まれたとき・・・・・





『ウルキオラ・・・・・・』

『なん・・・・・、ンむっ・・・・・・』





 名を呼んで振り向かせた瞬間にウルキオラの口を塞ぎ、口の中に入ったみかんを二人で味わう。




『んっ・・・・・ふぅ・・・・・っン・・・・・・』




 ゴクッと残った薄皮を飲み込んだ後も、重なった唇を離せずに口付けは続く。


甘さの残る舌を絡め合わせて・・・・・。

力なく俺の服の裾を握るウルキオラが息苦しさに喘いだ。




『ふぁ・・・・・っ・・・・・はぁ・・・・・・』




 長い口付けからやっとのことで解放し、上気する赤い頬に口付けた。

ぐったりともたれてくるウルキオラの腹の前で手を組み、俺は満足げに微笑んだ。




『っ・・・・・バカが・・・・・・・』

『あったかくなったな』

『うるさいっ・・・・・・』





 甘い果実はオレンジのみかんなんかじゃなく





白い・・・・白い・・・・・





                                                                       end