※現世デート〜遊園地偏〜から微妙に続いています。これだけでも読めると思いますが、現世デートから読むほうがより内容がわかって楽しんでいただけると思います。
temperature
いつもと同じ朝のはずだった。
隣にはグリムジョーが寝ていて。俺の体を抱きしめてくれている。
俺が少し身じろぐとすぐに目を覚まして・・・・・寝ぼけながら小さく笑って俺に“おはよう”と言う。
それが・・・・・・・今日もその始まりだと思っていたのに。
俺が目を覚ますとグリムジョーは確かに俺の横にいた。まだ寝ている。
ただ、その姿を見て俺はいそいでグリムジョーの体を揺さぶった。
荒い呼吸。額には汗をびっしょりとかいていて、前髪が濡れて張り付いている。
頬は赤く染まり、力なく俺の体に触れる手からはいつも以上の熱を感じる。
『グリムジョー!おい、グリムジョー!!』
『・・・・っ・・・・るせ・・・・ハァ・・・』
少し反応があったことにホッとして、とにかくこの汗をどうにかしなければとタオルを取ってくる。
額から流れる汗をぬぐってやり、ふと視線を落とすと、服もびっしょりと濡れていることに気付く。
このままでは悪化させてしまう・・・・・・そう思った俺は風呂場へ行き、洗面器にお湯をはってタオルと着替えを持ち、グリムジョーのところへ戻った。
『グリ・・・・脱がすぞ』
一応一声かけてから、辛いだろうが体を起こしクッションにもたれかけさせて、上の服を脱がしていく。
暖めたタオルで汗ばむ体を拭いてやってから新しい服を着せて、下も同様に拭いてやる。
体がスッキリしたのか、グリムジョーの呼吸がさっきより落ち着いて今は大人しく寝ている。
さっきの洗面器に今度は冷たい水をはってきて、濡れたタオルを額に乗せてやり、俺もホッと一息ついた。
まだ熱はあるようだが、寝ているうちに・・・・と俺はそっと部屋を出る。藍染様のもとへ行くために。
グリムジョーの容態を伝えるため、そして・・・・・俺も今日は休むと、許可を頂くため。
あんなグリムジョーをほっとく訳にもいかないからな。
藍染様のもとから帰り、グリムジョーを起こさぬようそっとドアを開ける。
俺の手には体温計と薬。藍染様から渡されたものだ。
それを持って寝室に入ると・・・・・
『・・・・・ウル・・・?』
物音に気付いたのか、グリムジョーがこちらを向く。
声もかすれていてほとんど音になっていない。
『起こしたか?』
近くまで行き、イスと持ってきて座る。
サイドテーブルに体温計と薬を置いて、額からずれているタオルを取って水に濡らし、また額においてやる。
『頭痛ぇ・・・・』
『とにかく・・・・・体温測るぞ。これくわえろ』
さっき置いた体温計をケースから出し、グリムジョーの口にくわえさせる。
グリムジョーも大人しくそれを咥え、測り終わったと知らせる軽快音を待つ。
しばらくの沈黙。それを破るように、俺はずっと思っていたことを口にだした。言わなきゃいけなかったこと・・・・・。
『・・・・・すまんグリムジョー・・・・』
『ん?』
『熱・・・・俺のせい・・・・』
3日前、グリムジョーと遊園地に行ったとき、水のアトラクションに乗って俺がふざけてグリムジョーに水をかぶらせてしまった。
濡れたそのままの格好で1日を過ごしたし・・・・・。
グリムジョーの熱は俺のせいだ・・・・・。
寝転ぶグリムジョーの胸にポスッと倒れこむと、髪にグリムジョーの熱い手が触れる。
『ふぁーか。ひんぱいふんじゃねぇよ』
『・・・・くわえながら言ってもなんと言っているかわからん・・・・』
『うるへぇ』
その時、測り終わったことを知らせる音が鳴り響く。
俺は頭を起こしグリムジョーの口から体温計を抜き取る。
『38.6度・・・・・結構あるな・・・・』
『ウル・・・』
呼ばれて体温計からグリムジョーに視線を移した瞬間、ぐいっと頭を引き寄せられ、またポスっと
グリムジョーの胸へと倒される。
『さっきのことだけどよ・・・・・別にウルのせいとかじゃねぇからな。気にしてんなら・・・・そんな必要ねぇよ。・・・・俺は平気だ』
自分が1番辛いくせに、コイツはこうやって俺を気遣う。
それに甘えた結果がコレだ・・・・・。
『本気で悪いと思ってんなら・・・・・今日1日俺についてろよ』
『・・・・・そのつもりだ』
それでいいんだよ・・・・と俺の頭をポンポンと撫でる。
また・・・・・甘えそうだ。
でも今日は・・・・・・俺が甘えさせてやらなければ。
そう思って、ガバッと頭を上げる。ビックリするグリムジョーは放っておいて・・・・・。
『薬を飲まなくては・・・・・その前になにか腹に入れなければいけないな。粥でいいか?』
『・・・・テメーが作んのか?』
『他に誰が作ると言うんだ?』
『そうだけどよぉ・・・・・』
『黙って寝てろ。すぐ作ってきてやる』
そういって俺は寝室を出た。
粥など作ったことがない。でも、グリムジョーの部屋にはなにかと料理の本があるのだ。
粥ぐらい載っているだろう。
まずはそのレシピ探しから始めた。
本棚を漁り、和食と書いてあった本を引き抜く。案外簡単に見つかったが・・・・・・・お粥より雑炊の方がうまそうだと急遽変更する。
うまく出来るかはわからないが、病人に下手なものを食べさすわけにはいかない。普段のグリムジョーならまだしも。
それに今回は償いも込めている。どうかうまいのが出来ますようにと、一生分願って作った。
『グリムジョー?どうだ具合は?』
『ん?さぁな。あんまかわんねぇよ。それより・・・・ケガとかねぇか?』
『ない。俺の心配はいい』
出来立ての雑炊をサイドテーブルに置く。
背中にクッションを置き、グリムジョーを起こすと、俺は鍋の蓋を開け、小さな器に少し取った。
蓮華で一口すくい、息を吹きかけて十分に冷ましてからグリムジョーの口元へ運ぶ。
『え・・・ちょっ・・・・自分で食える・・・・』
『いいから、口を開けろ。あーんだ』
恥ずかしいのかなかなか口を開けようとしないグリムジョーにしつこく俺も蓮華を差し出していると、観念したようでやっと口を開く。
『・・・・うまいか?』
『ん。うめぇよ。だから自分で食える・・・』
『いいから任せてろ』
俺の手から器を取ろうとするグリムジョーの手を払いのけて、もう一口すくいまたグリムジョーの口元に持っていった。
グリムジョーはしばらくその蓮華と俺を交互に見ていたが、仕方ないと言うように口を開けた。
初めから言うことを聞いておけばいいものを。
『頼むから・・・・・今日は俺に任せてくれ』
呟くように言う。本当に小さな声だったのにグリムジョーは聞き取ったようで・・・・一瞬目を見開き俺を見た。
しばらく沈黙が続いた後、ふいにグリムジョーが口を開ける。
『ぉら。早く食わせろよ。足りねぇ』
『・・・・・ぁあ。わかった』
少し苦笑してまたグリムジョーの口に運ぶ。素直に口を開けて食べてくれるグリムジョー。
少し顔が赤いのは熱だけのせいなのか、それとも・・・・・。
『ん・・・腹いっぱい。うまかったぜウルキオラ』
『あぁ。じゃぁ薬飲まないとな・・・・』
すっかり空になった鍋。それをとりあえず持って、キッチンに持って行きコップに水をくんで戻ってくる。
サイドテーブルにそれを置いて、グリムジョーの額にするっと手を置く。
『少しマシになったか・・・・・。でもまだ熱いな』
『・・・・・テメーの手・・・・・冷たくて気持ちいいな』
ゆっくりと目を閉じるグリムジョー。
そのまま寝られても困るのでそこから手を離す。
離した瞬間なんで離すんだと言うように目を開けて見られたが、それを無視してグリムジョーの手にコップを渡す。
『・・・・・飲ませてくれねぇのか?』
『・・・どうやって?』
『口うつ』
『さっさと飲め。自分でな』
薬をポンと手渡し、グリムジョーに背を向けてベッドサイドに腰掛ける。
後ろから“任せろって言ったの自分じゃねぇか”やらブツブツと聞こえてきたがあえて聞こえないふり。
いくらなんでもそこまで面倒を見るつもりはない。
文句を言いながらも背後でゴクッと薬を飲み干す音が聞こえ、俺もグリムジョーのほうを向いてやる。
丁度薬を飲むのに少し起こした体をまた横たえるところで・・・・・。乱雑にひっぱり布団をかぶろうとするグリムジョー。横からその布団をグリムジョーから奪い、肩からかけてやる。
そしてもう一度額に手を当てる。そこからスルリと頬に滑らせると、今度は逃がさぬようにかその手に自分の手を重ねてくる。
『濡れタオルより・・・・こっちのがいいな』
『ずっと当てておけと言うことか?』
そう言うと少しだけ考えて“もう少しだけ・・・”と言った。
そんな控えめなところが少し可愛いと思ってしまって、気付いたら自分から口付けていた。
『ウル・・・・・風邪うつるぞ・・・?』
『・・・・うつるならもうとっくにうつっているだろう』
『じゃぁもっとし』
全ては言わさず、その口を塞ぐ。
もちろん唇で。聞けるわがままは聞いてやろうと思ったから。
驚いて目を見開くグリムジョーに触れるだけの軽いキスをすると、その驚きに見開かれた目がやがて細められた。
頬にも口付け至近距離で目を合わせる。手から伝わる熱が、また熱さを増したようで・・・・・。俺自身の手の温度もグリムジョーの体温に染まりそう。
『手・・・冷たくなくなってきただろう?』
『いいんだよ。テメーに触れててぇんだ』
『・・・・・・ずっとこうしててやるから眠れ。熱が下がらん』
ゆっくりと撫でてやると、グリムジョーも大人しく目を瞑る。
その直後、薬の効果だろうか、すぐに寝息が聞こえてくる。
それでもしっかりと手は握られたまま。こいつも黙っていれば可愛い。
手を離さぬよう握ったまま、静かな寝顔を見ていると、俺まで眠気に襲われて・・・・・・必死に起きていようと戦ったはずなんだが・・・・・・。
『ん〜・・・・ん?』
妙にすっきりとした気分でグリムジョーが目を覚ます。
そういえば熱出して寝込んでたんだ・・・・・とうっすら思い出し、うっとうしく垂れてくる髪を掻き揚げようとしたところで手が上がらないことに気付く。
反射的に手を見ると、重ねられた白い手。少し苦しい胸の上ではウルキオラが寝ていた。
そういえば触れてたいとか言った気がする・・・と、熱に犯されて何を言ったかもいまいち覚えていない記憶を探る。
その約束を守ってずっと握っていてくれたんだろう。
そういえば・・・・・自分のせいで俺が熱出したってかなり責任感じてたな・・・・・・。そんな責任感じることねぇのに。もう気にしてなきゃいいけど・・・。
雑炊食わしてくれたりしたのはかなり嬉しかったが・・・。キスもしてくれたしな。
でも少し恥ずかしい。あそこまで甘えていた自分が。なんか薬も口移しで飲ませろ・・・とか言った気がするし・・・さすがに断られた・・・・よな?自分で飲んだ気がする。
しかし・・・・あの雑炊の味だけはちゃんと覚えてんだよなぁ・・・。うまかったし。また食いてぇ・・・・・熱出しゃ作ってくれんのかな?つっても心配させたくねぇし・・・・。
『ん・・・・グリムジョ・・・?』
『ぉお。起きたか?』
そうこうしているうちにウルキオラが目を覚ます。どこか気恥ずかしくて、ガラにもなく照れたりしてしまう。
ウルキオラはしばらくボーっと俺を眺めていたが、何かを急に思い出したようにバッと起き上がる。そして、ビクッと固まる俺の額に手を当てた。
『熱・・・・は?』
『もう大丈夫だと思うぜ?寝たらスッキリしたしよ。どうだ?熱いか?』
『・・・いや・・・・いつもと同じぐらい・・・』
ウルキオラはホッとしたように、表情から緊張がとれる。
“良かった”とかそういうことは絶対口に出さないが・・・・なんつーか表情でわかるようになってきた。なんとなくだけどな。
『看病サンキュ、ウルキオラ。心配させて悪かったな』
『・・・・・心配などしていない』
ほら、照れてる。
俺はベッドを半分空けるために隅によってウルキオラを引き寄せ、ベッドにあげる。
少し冷えたからだを温めるように抱きしめてやると、ウルキオラも素直に擦り寄ってきて・・・・。
『あんなとこで寝かせて悪かったな。風邪ひいちまう・・・・』
『そんなやわじゃない。それより・・・もう1回熱測ったほうがいいんじゃないのか?』
『いらねぇよ。これで十分』
ウルキオラの手を取って自らの頬に導く。
“熱くないんだろ?”と聞くと“さっきよりはな”と返ってくる。
それで十分だと思う。実際、体のふわふわも取れたし頭痛もなくなった。
微熱程度はあるかわからないが・・・・・・そんなんは“ない”と思えば“ない”。
もう平気だ・・・・と安心させるようにきつくウルキオラを抱きしめると、ウルキオラは少しだけ苦笑して、俺の背中に手を回した。
『つーかよ、俺いつのまに服着替えたんだ?』
自分の着ている服がいつもと違うことに気付き、問う。
するとウルキオラは平然と
『俺が着替えさせてやった。酷く汗をかいていたからちゃんと拭いてから着せてやったんだ』
『なっ・・・・・俺、テメーに着替えさせてもらったのか??』
『あの時のお前はたぶん1番熱が上がっていたのだろう。覚えていないのも無理はない』
『・・・・・全部か?』
『なにがだ?』
『上も下も全部か?』
そう問うと“そうだが”とまた平然と答える。
俺・・・・この歳で人に着替えさせてもらったのかよ・・・・。
やべぇ・・・・・果てしなくやべぇ。ハズい・・・・・・・。
『ウルキオラのスケb』
『貴様・・・・二度と起き上がれないようにしてやる・・・・・』
ウルキオラの拳が飛んできて1発でノックアウト。
それでも腕の中から離れないでいてくれているということは、そんなに怒っていないんだろうと、俺はゆっくりとウルキオラに口付ける。
いろんな思い・・・・・感謝も謝罪も、愛しさも全て込めて。
怒っていないという証拠に、ウルキオラはその口付けを素直に受けてくれた。
次の日、今度はウルキオラが熱を出したのは言うまでもない。
end