膝枕




 気持ちいい・・・・。


 目を開けられない訳じゃないけど・・・・・気持ちよすぎて体が拒むんだ。指1本動かす力を入れることも拒否する。
全てが奪われてしまったかの様な感覚。


 それでも不思議と頬の傷をなぞる手の温もりを感じると、自然に目が開いた。
ゆっくりとその手の主を見上げる。
視界には広がる金髪。つりあがる口元。


『寝ねぇのか?』


 その口をうっすらと開いて発せられる声は低く俺の耳に響く。
アメフトの試合中のような怒鳴り声からは想像も出来ないような優しさを帯びた声。
それがさらに心地良い。


『気持ちよすぎて眠れねぇよ・・・』


 その声も・・・・・さっきからずっと十字型に滑らせている指も、髪を撫でる手も・・・・・。
全部全部・・・・・・・甘く響く。


 甘いもの嫌いなはずなのにどうしてこうも・・・・・・
あんたから与えられるものは全て甘いのだろうか?


 言葉も温もりも・・・・・・


 キスも・・・・・・。


 甘いと言ってもそこまで強烈に甘いんじゃなくて・・・・・・
俺好みの・・・・・。
砂糖菓子のような甘ったるさとは違う・・・・ハチミツみたいな。


『なにボーっと見てやがる』
『ん〜・・・・・なんでもねぇよ・・・』


 体を横に向け、膝に顔を摺り寄せる。
フワッと香る・・・・・・甘い香り。
ほんとになんでこんなに甘い匂いすんだよ??


『えらい甘えただな』
『・・・・・ヒル魔・・・・甘いもん食った?』
『俺が甘ぇもん嫌いなん知ってんだろうが』
『じゃぁなんであんたそんな甘い匂いすんだ?』


 そう聞くとヒル魔はさらに口の端を吊り上げて笑う。
そしてなぜか返事の変わりにキス。
 バッと起き上がって文句を言おうとしたところでもう一度唇が合わせられる。


『なんなんだよ?!』
『寝ないんなら変われ。足痺れた』


 俺の言うことは無視で、起き上がった俺の変わりに自分が俺の膝に頭を乗っけて寝転がる。
急なことについて行けず、何も言えぬままヒル魔に流される。
 さっきとは逆にヒル魔を見下ろす。
しかしヒル魔はこっちを見ず、横を向いてしまっている。
 さっき笑った意味も聞けないまま・・・・・。
アレは“そんなん知るわけねぇだろ”って言う意味の笑いだったのだろうか?
 そう思っていた矢先、下から声が聞こえた。


『ちょっとでもテメーが俺の近くにいるように俺の体から出てんだよ』
『ハ?』


 一切こっちを見ることなくそんならしくないことを言う。
それがすでに甘いんだって。あんた気付いてるか?
 もしかして照れてる?これ言うためにわざわざ膝枕変わったんかな?


『あんたそんなこと出来たら完璧化けもんじゃねぇか』


 それに対しての返事は返ってこなかった。寝たふりでもしてるんだろう。
それが解っていたからあえて口に出して言う。


『心配しなくてもあんたから離れたりなんかしねーよ』




 心なしかヒル魔が笑っているように感じたのは・・・・
きっと気のせいじゃないんだろうな・・・・・。



                                                                      end