勝てるはずない




『ひっ・・・・・・ひる・・・・・・・ま??』

『なに後退ってやがる??』



 後退りたくもなる。

なんだかわかんねぇけどこの張り付いた笑みの下の妖気。


その塊がジリジリと寄って来て俺を壁へ追いやる。

これはそこらへんのヤクザよりも怖すぎる。

ヤクザの方が可愛いかもしれないというほど。




 原因がわかればいいが・・・・・・・

それがわからないから余計に怖い。

必死に思考回路を巡らせてみるものの、思い当たる節はない。



だんだんと近寄って来る悪魔。





 とうとう壁とその悪魔に挟まれ、左右もヒル魔の腕によって塞がれた。


恐る恐る顔を上げると・・・・・・口の端を吊り上げて笑う悪魔そのもののヒル魔と目が合い、俺は即座に顔を下げた。


そしたら・・・・・・・・・・








『・・・・・・・ケケケケッ!!なぁに怖がってやがんだ糞長男!!』



『・・・・・・・・・・・・は??』






 頭の上から聞こえて来る馬鹿にしたような笑い声に顔を上げると・・・・・・・

さっきまでの嫌な笑みではない、思いっきりの笑顔で。



 訳がわからない俺は笑えない。

ただヒル魔が笑っているのを呆然と見上げているだけ。







 ヒル魔の笑いが収まったところで、訳を聞くと・・・・・。




『テメーがどんな反応するか見たかっただけだ。いい反応だったじゃねぇか、十文字』

『テメェッ!!人で遊んでんじゃねぇ!!!』





 マジで怖かったんだからな・・・・・・と

ホッとしたのか目に溢れてくるもの。

それを隠したくて俯くと・・・・・・・




唇に触れるなにか。




驚きに目を開けると、目に入るのは金髪。




 唇がゆっくりと離れた瞬間に見たのは、

悪魔の勝ち誇ったような顔。



悔しくて、

俺はその悪魔を一睨みした後、



ポスっと体を委ねた。





                                                                     end