Sweet or Not sweet?




 男の俺がバレンタインのことを考えるなんて。

いや・・・毎年考えてはいるけどよぉ・・・・・。

立場がちがうっつーか・・・。

なんで男の俺があげる方考えねぇといけねぇんだ?

しかも相手もヤロー。

めんどくせぇことに・・・・甘いものが大っ・・・嫌いなヤツ。

・・・・・ならバレンタインなんか無縁じゃねぇか・・・・・?

とか思うんだがよぉ・・・・・・なんか無視も出来ないっつーか・・・。

だからってなにやればいいのかわかんねぇし・・・・・。

作るとかマジでありえねぇだろ。

自分気持ち悪ぃ。







 とか思いつつ・・・・・・町を歩きながら探してんなよ俺・・・・。



 町を飾るピンク。

店頭に並ぶチョコの山を見ながらはしゃぐ女子高生。

その中に入る勇気なんてねぇけど・・・・

横目でチラチラとどんなものがあるのかを見て歩く。



『・・・・・・やっぱどれも甘そうだよな・・・・』



 どこを見たって参考にはならなくて、俺は諦めて家に帰る。

もう無糖ガムでもやったほうが喜ぶんじゃねぇか?

色気はねぇけど・・・・。

色気なんて必要ねぇだろ。

どうもしっくりこなくて・・・・・・・それでも日は過ぎていく。




 バレンタイン当日。

一応無糖ガムは買った。

それ以外に思いつかなかったから。

でもなんか今更・・・・やっぱコレじゃまずいんじゃないかとか・・・・・。


 いつものように部活が終わって、みんなが帰った後の部室。

バレンタインなんか気にもしてないようにいつもと変わらずパソコンと睨めっこのヒル魔。

その傍らには・・・・マネージャーからのチョコレート。

俺ももらったけど・・・・・たぶんマネージャーのことだろうから、ヒル魔の分は特別に甘さが控えてあるはずだ。

そういうのを見ると、やっぱイヤでも・・・・形だけでもチョコを買っておけばよかったかな・・・・なんて。

ポケットの中にある無糖ガムを握り締めながら渡すか渡さまいか・・・・。

気持ちを落ち着かせようと、逆のポケットの中にある、朝無糖ガムと一緒に買った飴を口に放り込む。

桃の味がして、口の中で転がすと歯に当たってカラカラと音がする。

その時、目の前でパソコンを弄っていたヒル魔がガタンと立ち上がった。

急なことに驚いた俺はビクッと顔を上げた。

そこへ・・・・・・・・






目の前・・・・・近すぎる距離。

ありえない距離で絡み合う視線に俺の思考は一瞬停止した。

唇にはやわらかい感触。

入り込んでくる濡れたそれは、俺の中を暴れまわって・・・・・・

また・・・・カランと乾いた音がした。

離れていくニヤけたやつを目が自然と追う。

呆けたままの俺はそれをただみていることしか出来なくて・・・。

徐々に覚醒する意識。

みるみるうちに頬が熱くなって・・・・紅く染まっていくのが自分でも十分にわかる。

目の前のやつは俺とは対照的に、余裕で濡れた唇を舐めて・・・・・。



『甘臭ぇ・・・・・』

『おまっ・・・・・なにして・・・・・』

『今日はバレンタインだからなぁ〜。コレ、てめぇからもらって何が悪ぃんだ?』



 ベロッと舌を出してこっちに見せてくるのは俺がさっき舐めていた桃の飴。

自分の口の中に残るのは桃の味・・・・・・のみ。

物体は・・・・・ヤツの口の中。

予想外の出来事。

予想外の言葉。

もう何がなんだかわかんねぇ。

俺は口をパクパクとしながら悪魔を見上げて・・・・・。





『糞甘ぇ・・・・・やっぱ返す』

『は・・・?・・・・っん・・・・』




 またしても唇に感じるやわらかい感触。

ヒル魔の舌と一緒に俺の口の中に戻ってくる桃の味。

普段なら絶対にありえない、ヒル魔からの甘いキス=B

コーヒーの苦いキス、無糖ガムの少し辛いキスしか知らない俺には新鮮で・・・・。

また、カランという乾いた音。

歯に当たった飴が少し痛い。

最初に口に入れたときよりも少し小さくなった。




『あーーーー口ン中おかしくなりそうだ。甘ぇーーーー。口直しにコーヒーでも飲むか・・・・』

『ヒル魔!!』

『あぁ?なんだ糞長男』

『コレ・・・・・・』





 渡すはずだった本物のバレンタイン・・・・ガム?

ポケットから取り出して・・・・それを口の中の甘さに顔を歪めているヒル魔に差し出した。

なのに・・・・・受け取ってくれなくて。

手を引っ込めることも出来なくて・・・・・。

どうしていいかわからない俺はゆっくりとヒル魔を見る。




『開けて・・・・1枚だせ』

『はぁ?』

『んで食わせろ』

『はぁっ??』

『お前からのバレンタイン受け取ってやるっつってんだ』




 バレバレなことに少し恥ずかしくて目を逸らしながら、仕方なくそのガムの封を開ける。

言われたとおり1枚取り出して、包んでいる紙を外した。

それを、ヒル魔の口元に。




『指、噛むんじゃねぇぞ』

『噛んでほしいのか?』

『んなこと言ってねぇだろ!!』

『噛んでほしいみたいに聞こえたけどなぁ』




 噛まれる前に指を引っ込めて、残りのガムもヒル魔の手に渡してしまう。

しかしその手を逆に取られて・・・・・・グンっとヒル魔のほうに引かれた。

本日3回目の・・・・・・・。


普段と同じ、無糖ガムのちょっと辛い、ヒル魔の味のキスだった。




                                                              end