12月21日




 雪でも降りそうなほど冷え込んでいる今日は12月20日。それもあと10分ほどで終わってしまうけど。
そういえば明日って・・・・・なんかなかったっけ??アメフトの用事? ゲームの発売日??ん〜・・・・違う気がする・・・・・・。なんだろ?
寒さが少しはまぎれるように布団を被って考えてみるもののどれもピンとこない。すると頭元で携帯のバイブなり、慌てて携帯を手に取る。こんな夜中に誰だろうと思いながら画面を見ると、“ヒル魔さん”という文字。 余計に焦って慌てて通話ボタンを押す。
『もしも・・・』
『おせーぞ!!ワンコールで出やがれ!!』
『す・・・すみません』
 ワンコールってそんな無茶な・・・と思いつつも口には出せず、長年言い続けて癖になっている謝罪の言葉が出る。 こんなのでも一応ヒル魔とは恋人同士なのだが・・・・。怖いものは怖い。しかしこんな時間にどうしたのだろうか?明日の朝練の変更でもあるのだろうか??ヒル魔は用もなく電話してくるような人ではない。
『あの・・・どうかしましたか?』
『ちょっと窓から下覗け。今すぐ。5秒以内な。ご〜、よーん、さー』
 僕の返事なんか待たずカウントが始まる。とにかく5秒以内に覗かなければ何されるかわからない。家一個ぐらいなくなるかも・・・。っと嫌な考えが頭をよぎりつつベッドから飛び降りカーテンを開け、鍵を開け、窓を全開に開き下を除く。
耳元から聞こえるヒル魔のカウントは丁度1の“ち”を言った所。ギリギリ間に合った。そして下を見てなにがあったのかと言うと・・・・それはヒル魔自身。こんな寒い中この人はいったい何をしていたのか?
『ヒル魔さん!?何やってるんですか?!』
『さすがアイシールド21。間に合ったな』
 ニッと尖った歯をむき出しにして笑う。そしてそのまま塀を登って壁のあらゆるところに長い足をかけ、器用に僕のいる二階の部屋まで上がってくる。見ているこっちがヒヤヒヤする。 まぁヒル魔さんに限って堕ちるようなへまはしないだろうが。案の定すいすいと登ってきたヒル魔さんは窓に手をかけ僕の部屋へと上がりこむ。
『なにしてたんですか?いつからいたんですか?鼻の頭真っ赤だし・・・・寒かったでしょ?もっと早く言ってくれれば良かったのに!』
『セナ』
 質問攻めしていた僕の名前を呼び、人差し指を僕の唇に当て、目で黙っていろと訴えられる。そしてヒル魔さんは僕が黙ったのを確認すると腕時計に視線を落としじーっと見て黙ってしまった。
聞きたいことはたくさんあるのに言葉を発しちゃいけない気がして僕もヒル魔さんをじーっと見守る。するとヒル魔さんはニッと笑い、急にパッと僕の方を向く。一瞬ビクッとして、なんですか?と口を開こうとしたがヒル魔のほうが早かった。
『ハッピーバースディ・セナ』
『え・・・・ぇえッ!?』
 そうだった!今日は僕の誕生日だったんだ。すっかり忘れてたけど・・・・・。っていうかヒル魔さんコレ言うためにあんな寒い中外にいたの?僕自身も忘れてた誕生日なのに??
嬉しさがこみ上げてきて大きい目から涙が溢れてくる。
『なに泣いてやがる。泣くとこじゃねぇだろ?』
『だって・・・・ヒル魔さん・・・っ・・・・いつからあんなっ・・・・ヒクッ・・・寒いとこ・・・いたんです・・・か?』
 涙と鼻水でうまくしゃべれず、途切れ途切れになるがヒル魔はそれを聞き取ってくれる。
『さっき』
『うそつかないで・・・・ください・・・っ・・・・こんなに冷たいのに・・・・ズズッ
『泣いてるやつには教えねぇ』
『泣いて・・・なぃもん・・・・っ』
『お前の方が嘘つきじゃねぇか・・・・こんなでっけぇ目からボロボロ流しといて・・・・オラ、泣き止め』
 ペロッと頬っぺたの涙の跡を舐められ、ビックリして見開く目じりに溜まる涙もチュッと吸い取ってくれる。反対の目も同じように吸い取られ、ビックリしすぎて涙が引っ込んだ。
『しょっぺぇ・・・』
『・・・・・・・・もぅ・・・////・・・・・ヒル魔さん・・・ありがとうございます』
『ケッ・・・・プレゼントは物じゃねぇんだけど・・・今日はなんでも言うこと聞いてやる。したいこと全部言え。遊園地貸切でもなんでも・・・・』
『ぅわわ・・・ほんとにしそう・・・・でもいいです。そんな豪華なのいらないですよ。ただ・・・・』
『ん?』
『明日、部活が終わってから、日付が変わるまでのヒル魔さんの時間を僕にください』
 ほかに何もいらないから・・・・ただおなたに傍にいて欲しい。
『・・・・・糞バカ。そんなんいちいち願わなくたって最初からそのつもりだ。つーかそんだけでいいのかよ?』
『そんだけ・・・?でいいですよ?』
『明日だけでいいのかよ?』
 そこまで言われてやっと言われている意味が解った。僕は首を振り、改めて言いなおす。
『明日も明後日も、これから先もずーーーっと一緒にいてください』
『当たり前だ糞チビ。俺のほうが離すかよ。ってこれじゃプレゼントになんねぇんだけど』
『・・・・・・・もうないですよ?』
『・・・・・・ほんっとにお前安上がりだな』
 そう言ってヒル魔は苦笑する。でもそうかな?ヒル魔さんと居れること自体すごいことだと思うんだけど・・・・。あっ!!一個見つけた!!
『ヒル魔さん・・・・もう一個いいですか?』
『なんだ?』
『今日は、2人のときだけでいいんで、名前で呼んでください』
『どのみち安上がりだな・・・・・・セナ』
 ヒル魔の声がくすぐったくて嬉しくて・・・・・ぎゅぅっと抱きついた。耳元で“ヒル魔さん大好き”とつぶやくと“俺も”っとすぐに返してくれる。
いままで何度も誕生日を迎えたけれど、こんなに幸せな誕生日を迎えれたのは始めてかもしれない。大好きな人と過ごす誕生日がこんなに幸せなものだとは知らなかった。
『来年も一緒に過ごしてくださいね?』
『当たり前なことばっか言ってんじゃねぇよ』
 だってそんな“当たり前”のことが僕にとって一番幸せなんだもん。そういったら “欲のねぇやつ”って言われたけど・・・・・・“ヒル魔さんと一緒に居たい”って十分な欲だよね?
僕はそう思うから、それを当たり前のように叶えてくれるあなたがとても好き。そんな気持ちを込めて、もう一度強く抱きしめた。

『ところでヒル魔さん・・・・・結局いつから外にいたんですか?』
『結構しつけぇな・・・・。泣きべそかくやつには教えてやんねぇよ』
『じゃぁ・・・・・・・・ヒル魔さんの誕生日っていつですか?』
『・・・・・・・・それはお前だけにこっそり教えてやるよ・・・・・・』
 “知ってんの俺と俺の親ぐらいだぜ?お前だけ特別な。ただし他言無用”
もしかしたら一番のプレゼントはコレなのかも知れないなぁと思った瞬間でした。


12/21 HAPPY BIRTHDAY!SENA