『セナぁ、練習後で悪いんだけど、ちょっと手伝ってくれない?』

 そうまもりに言われ、快く了解したセナは、ユニフォームのまま、まもりの後についていく。
ついでに・・・と、練習で使ったラダーやコーンを倉庫に直しに行き、職員室の横にある会議室へと連れて行かれる。

『これ、中にコップが入ってるのよ。練習中水とか飲めるようにヒル魔君が勝ったらしいんだけど・・・。それと、こっちがスパイクで・・・・』
『・・・・また校長先生脅したのかな・・・??』
『・・・・・・たぶん・・・・・。あっ!あのね、コレを部室に運んで欲しいのよ。今からちょっと用事があって急いで帰らなきゃならないんだけど・・・・』
『いいよ!運んでおくから』
『1人で大丈夫??』
『大丈夫だよ。まもり姉ちゃんも、もう暗いんだから気をつけてね』

 ごめんね、と急いで帰っていくまもりを見送った後、さてと・・・っとダンボールと向き合う。
コップの方のダンボールを上へ重ねて、せーのっと自分で掛け声をかけ持ち上げる。
いくら鍛えて力をつけたと言ってもまだまだ細いセナにはかなりの重労働で・・・・。
それでも前の自分ならきっと持ち上げられなかっただろうなと苦笑する。
持って歩くなんて絶対出来なかったことだ。
自分の成長を確かに感じ、少し嬉しさをかみ締める。
ココから部室まで、結構な距離はあるが・・・・・セナはふらふらしながらも一歩ずつ暗い廊下を歩いて部室へ向かった。




『あぁ〜〜さすがにきつかった・・・。腕パンパンだ。もうみんな帰っちゃったかな?』

 とりあえず荷物を下に置いて部室のドアを開ける。
そしてすぐにもう1度気合を入れて荷物を持ち上げ中に入った。
やはり人の気配はない。・・・そう思った矢先・・・・・。

『遅かったじゃねぇか・・・・糞チビ』
『ひッ・・・ヒル魔さん??』


 ダンボールで前が見えないため、ヒル魔がどこにいるのかわからない。
たぶんいつものヒル魔の特等席なんだろうが・・・・・。
とにかく荷物を下ろそうと、相変わらずフラフラしながら奥のテーブルへと運ぶ。


『そんぐらいでフラフラしてんじゃねぇ』
『ハハハ〜・・・・・・・っうぁッ?!』
『セナ・・・・ッッ?!』


 気を抜いたのがいけなかったのか、体力的に限界だったのか・・・・・。
それもそうだろう。
ヒル魔のスパルタな練習の後、こんなに重い荷物を1人で運んで来たのだから限界もくるはずだ。
足が上がりきらず、特になにもなかったのにつまづいてしまった。
なんとか荷物はテーブルに置いたものの、セナ自身は荷物をかばったせいか、酷く転んでしまった。
机の角で頭を打たなかったのが不幸中の幸いだろう。


『いっ・・・・たたた・・・・』
『おぃ・・・・平気か?』
『ア・・・・ハハハ・・・・すみません・・・荷物無事ですか?』
『・・・・・』
『ヒル魔さん?』


 寝転がるセナの横にしゃがみこむヒル魔。
セナは訳がわからずただオロオロとする。
大きなどんぐり目が少し潤んでいるのはお尻でも打ったからだろうか。
心配そうにヒル魔を見上げるセナとようやく目を合わせたヒル魔はセナの腕を引き、自分の腕の中へと引き入れる。
反応出来ずにされるがままになるセナの耳に飛び込んできた言葉は・・・・・


『ッの糞チビッッ!!!!!何が荷物無事ですか、だッ!!テメーの心配しやがれッ!!!』
『ひぃぃっ・・・・!!ヒ・・・ヒル魔さん??』
『ッカヤロー・・・・・心配させんじゃねぇ』
『・・・・ぁ・・・・・ごめん、なさい・・・・・』


 いつになく余裕のないヒル魔に拍子抜けする。
ヒル魔に髪をガシガシと少し乱暴に撫でられて・・・・・セナの中で痛いのにすごく嬉しい気持ちが溢れ出していた。
そのまま抱き起こされ、イスに運ばれて座らされる。


『ココ。すりむいてやがる』
『え・・・?いっ・・・・』


 右目の少し下のところを床ですってしまったのか、紅く傷になっているところをヒル魔の舌がさらう。
セナ自身も気付いていなかったその傷は、意識したのと濡れて風に触れたのとでピリリと痛みだす。
“痛い”と訴えるセナは無視で、ヒル魔はその舌を傷に沿って這わせる。


『他にはケガしてねぇか?』
『え・・・あ・・・・なんとも、ないです』
『そうかよ。・・・・・・お前・・・・』
『・・・??なんですか?』
『人前でんな顔すんなよ・・・・』
『・・・?僕、変な顔してますか?』


 不安になるセナの前で顔に手を当てて呆れるヒル魔は“もういい”と自分の特等席に座る。
なんのことだかさっぱりわからないセナは自分がしているつもりの顔を考えてみるものの、意識などしていないためさっぱりわからない。
 その顔というのが属に言う上目遣い≠ナ・・・・・。
セナはヒル魔よりだいぶん小さいため、意識していなくても自然とそうなっているのだろうが、ヒル魔にしてみればたまらない。
くりくりとした落ちそうな大きい瞳は、魅惑の瞳なのである。
その上目遣いを何度もやられると・・・・・さすがにヒル魔もキツイ訳で。
人の目を見て話すセナはヒル魔と会話するたびに上目遣いでヒル魔を見つめていた。

(あの糞チビ・・・・・。他のやつにもあんな顔してたらただじゃおかねぇ・・・・・。)

(そういえばヒル魔さん、僕がこける寸前セナ≠チて叫んでくれたな。・・・嬉しい。)


『ケガねぇんなら帰んぞ』
『あっはぃ!あの・・・・ヒル魔さん、待たせちゃってすみません』
『・・・・その顔だ糞チビ』
『え?えぇ??』


                                                                     end