キライ、キライ・・・スキ?
『好きだ・・・・・・』
そう言われたのは昨日。部活が終わった後の話で・・・。
昨日俺は鍵当番で、部室の鍵を預かってた。そして犬飼は日誌当番。今日の練習メニューとか、部員の様子とかを書いて、クソひげこと野球部監督である羊谷遊人に提出しなければならない。(めんどくせぇ)
なんの偶然か知らねぇが丁度当番が重なっていた俺たちは部員がみんな帰った後の静まり返った部室に2人でいた。
こいつと2人きりなんてあの得体の知れない山での合宿以来か・・・?ケンカ以外であんま(ってか全然?)普通にしゃべったことねぇからなにしゃべっていいかわかんねぇし・・・。俺こんなだんまり空気一番苦手なんだよなぁ。
でもなにしゃべっていいか・・・・。こんなときに限っていいギャグが思いつかねぇ・・・。こいつ笑いに関してはすっげーうるせぇから中途半端に言ってもダメ出しくらってムカつくんだよなぁ・・・。
なぁんてグルグル考えていたら今まで黙って日誌を書いていた犬飼が顔も上げずに声を発する。
『えらくおとなしいな猿・・・。“待て”でも覚えれたのかよ』
『なッ・・・なにが“待て”だアホ犬!“待て”を覚えるのはお前だろこのクソ犬!!』
ムカつくっちゃぁムカつくがあのだんまり空気よりマシか。でかした犬!!今日だけは褒めてやるぜ!!心の中でな!
『ってか早く書きやがれ!!俺は早く帰りてぇんだよ』
俺は犬飼が座る前の席に腰を下ろしながら文句を言う。
『プッ・・・やっぱり“待て”はまだ覚えてないか・・・』
『うるせぇな!!いつまでひっぱんだよそのネタ!!』
だから“待て”は犬のお前だ・・・って言おうとして俺はその言葉を声に出せなかった。なんでってほら
・・・アレだよ・・・。友達とバカ騒ぎしてるときに急に横をこの世の者のは思えない程キレイなお姉さまが通ったときみたいな・・・・(微妙にズレてる気もするが・・・)
まぁ何が言いたいかって・・・悔しいけど・・・犬飼がキレイな顔してるなってこと。
最初に目がいったのは少し長い銀髪から覗く切れ長の目。睫毛長ぇ・・・。その後は筋の通った鼻だとか、薄すぎず厚すぎずこれまた形の整ったキレイな唇。
改めて見るとモテるのわかるよなぁ。
コレで女子が苦手なんてもったいなすぎる!!贅沢なやつだ。でも・・・こんなやつと付き合えたら最高だろぅなぁ。
『猿・・・?急に黙るな』
『ぅあ?あ・・・悪い・・・』
ってなに謝ってんだ俺??・・・・・・・・・!?つーか今俺何考えてた!?!?付き合えたらって・・・はぁ!?ボーっとしすぎだろ俺!!!
『おぃ。お前変だぞ?まぁいつもだがな・・・』
『誰がいつも変だ!!失礼なこと言いやがって!!』
よし・・・。さっきのことは忘れろ。俺は何も考えなかった。
『ってかもぅだから!早く書けって!!あ、もぅ“待て”がどうのこうの言うなよ。面白くねぇから』
『今書いてるだろうがバカ猿』
確かに犬飼はさっきからしゃべりはするが手は止めていない。どの程度書けているのか俺は日誌を覗き見てみる。
『お前キレイな字だな!!』
思わず声に出してしまった。それぐらい意外だった。もっと下手だと思ってた。
『・・・・///とりあえず・・・サンキュ』
うわ・・・・・。俺相手に照れた顔なんて初めて見た。顔真っ赤にして、さっきよりさらに下向いて日誌を書いている犬飼を純粋に可愛いと思ってしまった。
今日の俺は変だ・・・。犬飼に言われたとおり・・・。さっきからなんなんだ。調子が出ねぇ。
1人パニクっていると前でガタッとイスを引く音がする。それにビックリして顔を上げると・・・
『とりあえず・・・書けた』
といつも通り無表情の犬飼が立っている。ここまで一瞬にして変わられると振り回されてる俺がバカみたいに思えてなんかムカつく・・・。
だから俺も平然を装ってガタッと席を立つ。
『おせぇよクソ犬。おら!さっさと出やがれ!!』
犬飼を追い出し電気を消して、ドアを閉め鍵穴に鍵を差し込む。その直後だった。
最初は何を言われたのかわからなかった。すぐ後ろに立っている犬飼の声をうまく聞き取れなかった。いや・・・聞き取れてはいたんだ。だからこうして俺の脳はその言葉の意味を探してる。俺はこの言葉の意味を知ってる。実際俺は今まで何回使ったか覚えてねぇぐらいに・・・。でもさすがに俺でも男相手には言ったことねぇかも・・・。コレは俺の聞き間違いか?今日の俺変だし・・・幻聴まで聞こえるのか!?ヤバくね?マジ病気か?
『猿・・・好きだ』
また!!ほらまた!!!好きって・・・あの好きだよな??俺が女の子にしてきたやつ・・・確か・・・告白?ってやつだよな??
でもそれは悪魔でも女の子にだ。
俺はパニクる自分を必死に抑えとりあえず鍵を閉めて、ゆっくり振り向いた。そして10センチ上を見上げると、真剣な顔の犬飼と目が合って・・・。
『なんだ犬?好きな子でもいんのか??俺を告白の練習台にしやがって!!お前は練習なんかしなくても振りむかねぇやつなんていないだろ・・・』
もっと焦り声が出るかと思いきや結構しっかりしてる自分の声に驚く。そぉだよ。これは練習だ。嫌味なヤツだよなぁ〜俺を練習台にするなんてな。
『だからそれはお前だ、バカ猿。練習なんかじゃねぇ』
『・・・・・・マジ・・・かよ・・・』
『俺が告って振り向かないやつがいないんなら・・・お前も振り向いてくれるってことか?』
『何言って・・・それは女の場合だろ?俺は男だ!!』
『そんなことわかってるバカ猿。とりあえず・・・そぅいうことだ。じゃぁな』
『は!?・・・え??』
言うだけ言ってさっさと歩いていく。部室のドアの前で1人残された俺は、まだ思考が追いつかなくてしばらく動けなかった。
それからどうやって家に帰ったのか全然覚えていない。気付けば布団の中だった。もちろん眠れるはずもなく、頭の中では犬飼の声『好きだ』が永遠リピート。
さっきやっと冷静さを取り戻し、
もぅ一度さっきの出来事を振り返った。冗談じゃないことはわかった。まずそこは受け入れた。犬飼は俺が好きなんだ。それもまぁわかった。理解できないのは・・・・俺自身。今日の俺のありえない思考。付き合いたいとか・・・可愛いとか・・・。そんなことを考えていたとどめの一撃が犬飼の告白。
俺は・・・犬飼が好きなのか・・・??いままでケンカばっかしてきた。顔を合わせたら言い合いで殴り合いもしたし。ムカつく野郎だった。でもキライだった・・・???
キライじゃねぇだろ。確かにムカつく野郎だし人のこと猿扱いだし(まぁ俺も犬扱いだが・・・)でも・・・そのケンカが心地よかったり・・・。
あぁ。これもわかった。キライじゃねぇな。だからって好き??犬飼の言ってんのはライクの好きじゃなくてラブの方だ。つーかこの告白を気持ち悪ぃとか思わない辺りで俺はもぅどうかしてんのか??
嬉しい??俺犬飼に好かれてて嬉しいのか??確かに今まで嫌われてると思ってたから好きとか言われたらちょっとは嬉しいかもしれねぇケド・・・。付き合えるか付き合えないか??俺今日付き合えたら最高とか思ってたぞ??もぉ訳わかんねぇ!!!・・・・・明日どんな顔して会えばいいんだよ・・・。バカ犬ぅ〜!!
第1話・完