お試し期間作戦実行




 今日は犬飼と約束した土曜日。
犬飼にお試し期間の話を持ち出したのは2日前。その2日間は野球の練習が忙しかったこともあって特に何もしていない。したといえば帰り一緒に帰って、メールは毎日してたぐらい。
でもそれだけのことがすごく楽しくて自分でもビックリだ。
土曜日どこに行こうか?と言う話を帰り道にして、メールでもして、散々悩んだあげく映画でも見に行こうか・・・ということで落ち着いた。

というわけで、今日は映画デート(?)。朝は練習があったので一度家に帰り、駅前で待ち合わせすることにしていた。サッとシャワーを浴びて汗を流し私服に着替えて家を出る。
結構余裕をもって家を出たはずなんだけど待ち合わせ場所にはもう犬飼がいた。
『悪ぃ待たせたか?』
『いや。俺も今来たとこだ』
『そっか。じゃぁ行こうぜぇ!!』
 ・・・それにしてもこいつやっぱかっこいいな。長身で足長いからジーパンがすっげー似合ってて上の服も結構センスいいかも・・・。
一歩前を歩く犬飼を後ろからマジマジとみる。少し長めの銀髪はやっぱり日に透けてキレイで、それが余計に 犬飼のかっこよさを引き立ててる。
『猿?なんでそんな後ろ歩いてんだ?』
『ん?あぁ〜別に。なになに??横にいてくれないと寂しいの〜??冥ちゃん??』
 ニヤニヤしながら冗談で言ったのに犬飼はマジで『あぁ』と答えやがった。俺的には・・・『んな訳ねぇだろこのバカ猿!!』ってくると思ってたのに・・・。 肯定されるとこっちが恥ずかしいっていうか・・・。ん?犬飼も顔赤いし・・・。
『赤くなるんなら肯定してんじゃねぇよバカ犬!』
『お前が言ったんだろうが』
 まぁそぅだが・・・。なんか負けた気がする・・・・・・。
『・・・・・・とりあえず・・・視界に入るとこにいてくれ・・・』
 え?なにこいつ・・・??マジで可愛いんですけど・・・。 明美母性本能くすぐられちゃったvVみたいなノリなんですけど・・・。また新しい一面発見??
 俺はなんか嬉しくなって犬飼の隣に並んで顔を見上げる。目を合わせて“来てやったぜ”的な感じでニッと笑うと、犬飼が一瞬目を見開いてからパッとそらした。なんかこいつの反応全部が可愛く思えて来たんですけど・・・vV

 そこからもう少し歩いて、やっと目的の映画館に着く。今結構話題のやつ多くて、どれにしようか迷ったけど、男2人で恋愛もの見んのもちょっと気が引けて結局、“戦国の世を勝ち抜いた男たち”というのを見ることにした。ちょっとダサそうなイメージはあるが結構面白いと話題にはなっている。
 さっそくチケットを買って中に入り真ん中の後ろから5列目という結構良い席を取って始まるのを待つ。
『おもしろいんかな?これ』
『辰はおもしろいって言ってた気がするけどな』
『モミーが?好きそうだもんなこういうの。そういやネズッチューも言ってたな』
 そんな話をしていると辺りが暗くなりやっと映画が始まる。俺も犬飼も話すのを止めて画面に集中した。
内容はまぁそのまま。戦国時代に戦とかがすげー多くて、そんな中を生き抜いて勝ち続けてきた武将の話。その中でも泣かされる場面があってみんなが話題にすんの解るなぁって思った。チラッと横を盗み見すると、犬飼は真剣に見ていた。犬飼もおもしろいとおもってんのかな?そんなことを考えながら俺も再び映画に集中した。


『あぁ〜おもしろかったなぁ!特に主人公の親友が主人公かばって死んだとこマジかっこよかったぁ〜』
 映画館から出て俺と犬飼はファミレスに来ていた。
『あぁ。おもしろかったな。猿泣いてただろ?』
『な・・・ッ・・・・見てたのかよ・・・』
 映画に集中しててこっちなんか見てないと思ってたのに・・・。くそ〜・・・。
『案外涙もろいんだな。猿』
『うっせーな。感受性が豊かなんだよ』
 こんな言い合いも前ほどムカつかないのは・・・犬飼のいろんな面を知ったからか?ほんとにそれだけ??今までどっかで避けてた考え方・・・。俺、犬飼が好きなんじゃねぇの・・・?
『そろそろ帰るか?』
『え?あ・・・そうだな!帰るか!』
 あぶね〜・・・ 本人前にして何考えてんだよ・・・。
俺は今考えたことをすばやく頭からどけて、犬飼の後ろについていきファミレスを後にする。

 帰り道はなぜかだんまりで、微妙な空気。でもそれが嫌な訳じゃなくて、むしろ心地良い。だからこそ芽生えるのが“もう少しこのまま2人でいたいな”っていう思い。こう思ったことで俺はやっと自分自身の本当の気持ちに気付いた。本当はもっと前から気付いてた。ただ認めるのが怖かっただけだ。俺は犬飼が好き。
気付いたからには伝えないとって思うのに、どう切り出して良いかわからず、いつもの分かれ道。犬飼が“じゃぁな”とか言ってこないところを見ると、犬飼も俺と同じで離れたくないって思ってくれてんのかな?
 なにも言えず立ち尽くす。そしたら犬飼が
『家・・・来るか?・・・・・とりあえず・・・時間とか平気だったら・・・』
 なんて嬉しいこと言ってくれたから俺は『行く!』と頷いた。


『お邪魔しまぁ〜す』
『そこのソファ座っててくれ。紅茶飲めるよな?』
『あぁ、サンキューvVって誰もいねぇの?』
『あぁ。仕事だ。2人ともあんま家にいないしな』
 カウンターを挟んでキッチンにいる犬飼が見える。 金持ちなんかな??でけぇ家。ってかあんま家にいねぇってことはこんな広い家で1人の方が多いんだよな?寂しくねぇのかな?
『どうしたんだ?アホ面して』
『ん?って誰がアホ面だ!』
 いつのまにか紅茶を入れて持ってきてくれていた犬飼が俺の前のテーブルに紅茶を置いて自分も向かいに座る。まぁ余計なこと言わなきゃもっと良かったんだが・・・。
『なぁ。寂しくねぇの?1人で』
『1人じゃない』
『え?誰かいるのか?ばぁちゃんとか?』
 でもさっき誰もいないって言わなかったか・・・?
『トリアエズ・・・・』
『ん?』
『トリアエズがいる』
『・・・・・・。日本語おかしくね?』
『ゴールデンレトリバーのトリアエズがいるから寂しくねぇんだ』
犬のとりあえず・・・?ん???
『もしかして・・・“トリアエズ”って名前か??』
『あぁ』
 ・・・・マジかよ・・・?こいつのネーミングセンスどうなんだよ。
『で?そのトリアエズはどこにいるんだ??』
『隣の部屋・・・。他人になつかないからな。まだ猿のこと警戒してるんだ』
『なんかお前にそっくりだなぁ』
 こんななんでもない話してるけどほんとは内心焦りまくりだ。どう切り出したらいいのか、どう伝えたらいいのか・・・さっきからタイミングを探してはいるんだけどつかめない。
『トリアエズ呼ぶか?』
『俺のこと警戒してるんだったらこねえだろ?』
『いや。俺の言うことは聞く』
 そういうと犬飼は隣の部屋へと行ってしまう。そしてすぐに戻ってきた。後ろには 少し警戒しながらも犬飼の後についてくるトリアエズ。俺はトリアエズが怖がらないように目線を合わせるために地べたに座る。
『可愛いなコイツvV』
 犬飼が丁寧に世話をしているようで毛並みがすごくいい。つやつやで撫でたいなぁと思ったけど・・・警戒されてちゃ触れないな。
『トリアエズ・・・アイツは大丈夫だからな・・・』
 犬飼がそういいながらトリアエズを撫でる。羨ましそうに見ていると犬飼に手招きされる。行っても大丈夫なのだろうか・・・と思いながらゆっくりと近づく。
『猿・・・もぅ大丈夫だから触ってやってくれていいぞ』
『ほんとか?』
 俺は恐る恐る手を伸ばしトリアエズに触れる。思ったとおりつやつやで気持ち良い手触りだ。
『可愛いvVすっげー可愛いなこいつvV』
『だろ?・・・・猿気に入られてるな』
『なんで??あんだけ警戒されてたのに。犬飼が言ってくれたからじゃねぇの?』
『俺が言ったって聞かないときは聞かない。こんなにすぐなついたの猿が初めてだぞ』
『マジで!?おぉ〜良い子だなぁ!!やっぱ良い人はわかるんだなvV』
 トリアエズに抱きつくとトリアエズも俺の顔をペロペロと舐めてくれる。
『ちょっトリアエズ!くすぐってぇって!!』
『トリアエズ!ストップ!!』
 犬飼がそう言った瞬間俺からトリアエズが離れる。少し寂しい気もするけど、笑いすぎて苦しかったから助かったかも。
『ほんとに良い子だな』
『あぁ。って顔ベタベタだな。タオル濡らしてくるからちょっと待ってろ』
 犬飼はまたキッチンへ行き濡れタオルをもって戻ってきた。
『サンキューvV』
 とタオルを取ろうとした瞬間・・・その俺の手は犬飼に捕まれてしまった。これじゃぁ拭けない。だから俺は何すんだって文句言ってやろうと思ったら・・・犬飼が俺の顔にタオルを当ててきた。
『んなッ!?犬飼??!』
 犬飼は当てただけではなくそのタオルで俺の顔を拭きだした。俺はビックリして犬飼から離れようとしたけれど、捕まれた手を逆に引っ張られてさっきより近くなる。
『暴れるな。拭いてやるから』
『自分で出来るって!!は〜な〜せ〜!!』
 何考えてんだこいつわ!!こんな状態・・・耐えれねぇよ!!近すぎ!!でも離してもらえそうにないし・・・大人しくしてさっさと終わらしてもらった方が賢いな・・・。俺は抵抗をやめる。
『ん?大人しくなったな。初めからそうしとけ』
『・・・・・うるせぇ。拭いてくれんならさっさと拭けよな』
 とか憎まれ口を言いながらも俺は犬飼の手に心地よさを感じていた。
『・・・・好きだ・・・』
 自然と口から出た。さっきまであれほど悩んでいたのに。
『犬飼のことが・・・好き』
『・・・ほんとか・・・?』
 そう言うが早いか犬飼はさっき掴んでいた俺の腕をさっきよりももっと強い力で引き寄せ、俺はそれに抵抗するまもなく犬飼の懐にすっぽりと収まってしまった。
『猿・・・好きだ』
 頭の上から聞こえる告白を今度は素直に受け入れることが出来た。だからこそ俺も素直に言える。

『俺も・・・犬飼が好き』

                                                                第3話・完