好き好き。大好き
好きだ・・・・って言ってしまった。認めてしまった。でも・・・そんなことより悔しいのは、抱きしめられてるこの腕を気持ち良いと思ってしまうこと。
俺の気持ち言った後、抱きしめられた。犬飼も俺が好きだって、もう一回言ってくれた。そのままの体勢から動けない・・・。
いや・・・気持ち良いからとかじゃなくて!!
雰囲気っつーの?犬飼もなにもしゃべらねぇし動かねぇし。じゃぁなんか俺まで動いちゃいけない気になって・・・。結構時間経っちまったから余計に。座ったまま抱き合ってるからそろそろ足痺れてきたんですけど・・・。
表情を見ようと思っても犬飼の顔は俺の頭の上。見ようと思えば動かなきゃならねぇし・・・。確かに腕の中気持ち良いけどさ・・・。妙に安心するって言うか暖かいし。
でもこのままじゃらちがあかねぇし。
『・・・・・・ぁの〜・・・犬飼さん??』
俺は思い切って声を出してみた。そしたら犬飼はビクッとして抱きしめてた腕をパッと放す。
『ゎ・・・悪い・・・///』
俺も少し後ろに下がり犬飼から離れる。向かい合わせで地べたに座り込んで2人して俯いている奇妙な光景。
でもさ、顔なんか合わせなれねぇよ・・・///長い時間抱き合っちゃったってのもあるけど・・・今この瞬間から俺たちは恋人同士になったっていう事実が・・・不思議と言うか・・・いまいち実感もないし。たぶん犬飼も同じように思ってるんだと思う・・・。なんか、“思わず抱きしめてしまった・・・・”みたいな顔してるし。
最近こんな空気多いな。なにしゃべればいいんだろ?みたいな。今回はマジ浮かばねぇ・・・どうすりゃいいんだ??
『ワンッ!!』
急に発せられた泣き声に俺も犬飼もビクッと顔を上げる。
パッと横を見るとトリアエズが不思議そうに俺たちを見上げている。
俺達はしばらく呆然とトリアエズを見たあと顔を見合わせて笑った。
『ハハッ、こいつやっぱ賢いな!お前お利口さんだなぁ〜』
まさかとりあえずに助けられると思ってなかった。一緒に笑ったおかげで恥ずかしさとかどっかいっちまったし。
俺と犬飼はお礼もかねて散々トリアエズと遊んでやった。撫でまくってやったし。それから、2人で並んでソファに座ってもう一度淹れなおした暖かい紅茶で落ち着きを取り戻す。
こんな風に密着して並んで座っても平気。
意識しなさすぎなんんかな?でも自然とそうできた。
『あぁ〜うま。なぁワンコvVへへッ。まさかお試し期間3日で終わるとは思ってなかったぜ』
『俺もあのタイミングで言われると思ってなかった・・・』
犬飼がうれしそうに笑う。その顔につられて俺も自然と笑みがこぼれた。
『猿・・・その顔反則・・・』
『は?なに・・・』
“何が?”と続くはずの言葉が言えなかった。頭では確かに言ったはずなのに声に出していない。
っていうかこれどういう状況だ?犬飼の顔が近くて・・・口になんかが当たってるって言うか塞がれてて・・・。ん・・・??
認識する前に犬飼の顔が離れていく。そして一言。
『目くらい閉じろ・・・』
そう言われてやっと俺は全てを認識することが出来た。言葉の続き言えなかったのも犬飼の顔が近かったのも口になんか当たってたのもちょっと息苦しかったのも・・・・・キスされたから・・・。
『って!!!!なにすんだよバカ犬ッ!!!』
みるみる顔が熱くなって、今きっと俺めちゃくちゃ赤い顔してんだろうなぁとか思ったけどそんなことどうでもいい。なにが“目くらい閉じろ”だ!!俺の初チュー返しやがれ!!!
『とりあえず・・・・あんな顔したお前が悪い・・・』
『あんな顔?どんな顔だこのクソ犬!』
『可愛かった・・・』
『なッ・・・!?か・・・かゎ・・・?!』
可愛いってなんだよ・・・///男に可愛いって・・・///けなしてんのか??!なのに・・・ちょっと嬉しいとか思ってる
俺ってどうなんだよッ!?!?
『ぁ・・・・・・』
ヤバい・・・顔熱い・・・。
『・・・ッ・・・見んな・・・バカ犬!』
俺はそんな赤い顔見られたくなくて犬飼とは逆の方向を向く。痛いぐらいに視線を感じるが無視。まだ振り向けない。
・・・・キスが嫌とかじゃない。付き合うって事はそういうこともするんだってちゃんと考えてた。でも急にされてビックリしたっつーか・・・。だからって“していい?”“うんいいよ”なぁんてやるようなガラでもないけど・・・。あぁ・・・でも俺のファーストキスは男か・・・。なんか虚しくなってきた・・・。
いまさらだけど・・・。でもまさか可愛いって言われてこんなになるぐらい嬉しいとは思わなかった・・・。正直自分に一番ビックリだ。
『猿・・・?悪かったって。機嫌直してくれ・・・』
はぁ?なんか勘違いしてないかこの犬っころ。俺がキスして怒ってそっぽ向いたと思ってるのか?
俺はそーっと後ろを向くとオロオロしつつ俺の様子をうかがっている犬飼と目が合う。
あぁもぅ・・・この犬は・・・。なんでこんな可愛いんだ?俺よりも数百倍可愛いじゃねぇか・・・。ほんとにコイツはへタレなのかそうじゃないのかわかんねぇ。
『別に・・・怒ってる訳じゃねぇよ。恥ずかしかっただけで・・・』
『ほんとか!?じゃぁもう一回・・・』
『なっ・・・調子乗ってんじゃねぇよ!』
なんとか二回目は阻止し、一発殴ってもう一度紅茶をすする。横ではしょぼくれた犬がいるけど今度はマジで放置しといた。
でもまぁ・・・ちょっとかわいそ過ぎるから・・・
『バカ犬・・・。さっきのが俺のファーストキスだったんだからな!初めてくれてやったんだから喜べ!!』
『・・・俺も初めてだ』
『ぅそ!?マジかよ!?』
犬飼も初めてだったんか。ってかまぁ女苦手なんだからそりゃぁキスも経験ないよな・・・。
なんかよかったぁ〜。・・・・・・って俺が喜ばされててどうする・・・。
『猿の初めてもらえてよかった』
『・・・・・・なんか違う意味に聞こえる・・・』
『どうせいづれそうなる』
『んな!?・・・なにサラッとエロい事言ってやがんだアホ犬!!』
さっきまでヘタレてたヤツが言うことじゃねぇだろ・・・。俺・・・貞操守れんのかな?ってか今この瞬間犬飼の家にいることが危ないんじゃ・・・。
俺はゆっくりと犬飼から離れる。こんな近くにいたんじゃ何されるかわかんねぇ・・・。
『なに離れてんだバカ猿?そんなすぐ襲わねぇから安心しろ』
『襲うって・・・』
こいつ・・・さすがAB型二重人格・・・。
『今はまだコレで十分だ・・・』
肩を抱き寄せられ、急なことに俺は反応できずそのまま犬飼にもたれかかってしまう。髪を撫でられると気持ちよくて文句を言うのも忘れてそのまま犬飼に身を任せてしまった。確かに今はコレで十分。
ふと時計をみると8時を回っていた。30分ぐらい犬飼に頭撫でてもらってた気がする。その間も野球とかの話で盛り上がったりして、時間たつのあっという間だった。
『俺そろそろ帰らねぇと・・・』
『そぅか。ちょっと残念だ・・・』
俺は体を起こしてソファから立つ。
『送っていく・・・』
『いいよ。すぐ近くだし女じゃねぇんだし』
『じゃぁもう一回キス・・・』
『・・・・』
ダメか?お願い・・・・っと言うような目で見てくる。そんな目で見られるとなんか俺がいじめてるみたいじゃん・・・・。
『・・・あぁ〜もぅ!しゃぁねぇなぁ・・・・』
俺はしかたなく目を瞑った。ハズすぎる・・・もぅやるんなら早くしてくれ!
頬に手が添えられ、俺はその感触にビクっと体が強張った。それからすぐに唇に軟らかい感触がして離れていった。
目を開けるとそれと同時に抱きしめられる。耳元で『また明日な』と告げられて、俺は返事の変わりに犬飼の背中に手を回した。顔を上げると犬飼と目が合ってまた2人で笑う。
そして体を離し、玄関へ向かう。靴を履く前に振りかえると犬飼が“どうした?”というように不思議そうな顔をした。
『犬飼』
俺は一歩犬飼に近づき、犬飼の服の裾をクンッと引っ張ってほっぺにチュッとキスした。
それからいそいで靴に足を突っ込んでろくに履けてもないのにドアに手をかける。
『今日楽しかったぜ!また明日な!おやすみ』
それだけ言って逃げるようにドアを開き犬飼の家を後にした。
ひ〜!!ハズかし!!我ながら青いな・・・。でもあれが今の俺が精一杯出来ること。今はまだほっぺにしか出来ないけどな・・・。これでもいっぱいいっぱいだ・・・。
顔を真っ赤にしながら自分の家に走る。走りながら思うことは・・・明日朝一、どんな顔してしゃべろうかな・・・?なんてことばっかだ。
後は・・・犬飼とのキスにはまりそうな自分がちょっと怖かったり・・・。
俺キス魔になったらどうしよ・・・・・・?
そのころの犬飼はと言うと・・・・
猿・・・可愛すぎる・・・。最後なんて俺の顔も見れないぐらいになってたもんな・・・。
やべぇな・・・。もっと猿とキスしたい・・・。もっともっと一緒にいたい。
第4話・完