約束




『ぉ・・・・おはよ・・・』
『ああ。行くか』

 昨日全速力で家に帰った後、すぐに犬飼からメールが来た。内容は明日一緒に部活行かないかってことだったんだけど・・・。正直迷った。ほっぺにちゅーして逃げるように帰ってきてしまったのに朝から2人で一緒になんて・・・・・・と思ったが、よく考えたらいきなり学校で会ってみんなの前でぎこちなくなる方が気まずい。練習なんて集中できないだろうし・・・。だから最初から2人で会って話でもしてれば恥ずかしさもマシになる気がしたから結局一緒に行くことを選んだ。  んでいつもの分かれ道のとこで待ち合わせってことで、即行にメールを終わらせ寝た。

 そして今日の朝ドキドキしすぎて早めに起きちゃって用意も早く終わってたケド待ち合わせ場所に行って待ってんのはなんか嫌だったからわざと少しだけ遅刻していった。
ってことであいさつも一瞬目合わしただけで済ませて、2人並んで歩きだす。案の定無言・・・・・・。またこの展開。
俺はなんとかしようとドキドキを押さえ、とりあえず声をかけようとしたそのとき、後ろから何か走ってくるような音がしてなんだろうと振り返ろうとした瞬間、ガバッとその何かが抱きついてきた。
そいつは走ってきた勢いのまま飛びついてきたもんだから危うく体勢を崩して倒れかけた。なんとか踏ん張ったのと、・・・・・・・犬飼が腕掴んでくれたのとで倒れずにはすんだけど・・・・・・。とりあえずこんなことするやつは知ってるやつに1人しかいねぇ・・・・。
『何すんだこのスバガキッ!!!』
『えへへ〜バレちゃったかぁ』
 実際年齢より5歳は下に見える幼い顔で舌を出して笑う。
『つーか1人か?司馬は?』
『えッ?あっ!!』
 兎丸は自分が走ってきた方向を振り向く。それに合わせてその方向を見ると、司馬がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
『兄ちゃん達見えたから思わず走ったら司馬君忘れてきちゃった。ごめんね司馬君!!』
 やっと追いついた司馬は謝る兎丸に笑いかけた後、俺達にも笑いかけた。司馬なりの挨拶なんだろう。
司馬も追いついたことだし、俺達はまた学校へと足を進めた。正直兎丸達が来てくれて助かったかも・・・。
『って言うか兄ちゃんと犬飼くんが一緒なんてめずらしいね?いつからそんなに仲良くなったの??』
 俺も犬飼も固まる。これはどう答えたら良いんだ??
2人して顔を見合わせる。でもいまさらごまかせる空気でもなく・・・・・俺達は諦めて兎丸達に付き合っていることを打ち明けた。
『そぉなの!?もぉ〜なんで早く言ってくれないの〜?今度ダブルデートしようね!』
 ・・・・・・はい??なんでこんな軽いんだ??もぅちょっと深刻になってもいいんじゃなえのか??こんなもんなのか???
俺も犬飼も兎丸の反応に拍子抜けしてしまう。つーか最後なんか引っかかったような・・・・・・。はぁッ!??
『今ダブルデートっつったか??』
『うん!あれ?知らなかった?僕と司馬くんも恋人同士だよ!』
 マジで??そんなの知らねぇよ・・・・・。確かに仲良いと思ってたけど・・・・。まさかそんな関係だったとは・・・。
『じゃぁこれでまたカップルが増えたね!』
『どういう意味だ?』
『兄ちゃんなんにも知らないの?虎鉄先輩と猪里先輩のとこと、辰羅川くんと子津くんのとこ!ほかにも怪しいとこあるけどね〜』
 そんなん全然知らねぇ・・・。野球部って・・・・・・・みんなホモだったのか??ってか子津もか!?アイツもなのか!?
『犬飼!!たっつんの知ってたのかよ?』
『あぁ。猿も子津から聞いてると思ってた・・・』
 なんか複雑なんですけど・・・・仲間がいてよかったような・・・・・その中に入っちゃって悲しいような・・・・。
『でもあんなに仲悪かった兄ちゃんと犬飼くんがくっつくと思わなかった。ね?司馬くん?』
 その問いに司馬がコクコクと頷く。つーかスバガキと司馬はどんな付き合いしてんだろう?司馬ってスバガキにはしゃべんのかな?ってキザトラ・・・・女にしょっちゅう手出してるくせに猪里先輩とそんな関係だったのかよ・・・・。なんか俺もぅ周り信用できねぇかも・・・・。
『どうした猿?顔色悪いぞ』
『え?あ・・・なんでもねぇよ・・・・・ビックリしただけだし』
 なんだ・・・普通にしゃべれるじゃん。良かった。
そんなこんなで兎丸はダブルデートする気満々なのか、行き先はどこがいいとか楽しそうに話していた。そんな話をしてたらあっという間に学校に着き、部室へと向かう。
兎丸がまだ楽しそうに司馬に話している隙をみて俺はさっきからずっと言おうとしていることを言うために犬飼の袖を軽く引っ張り歩くペースを落としてもらった。
『どうかしたのか?』
『いや・・・。さっきさ・・・兎丸が俺にぶつかってきた時、支えてくれて・・・・サンキュ・・・///』
 ずっと言いたかったんだけど、あの時タイミング逃して言えなかったし・・・・。
犬飼はまさかそんな話だと思ってなかったみたいで、目をパチパチとさせていた。しばらくそのままじーッと見られて、俺は恥ずかしくなって目を逸らす。なにか反応してくれないと恥ずかしくて堪らない。
そうするとやっと犬飼がプッと笑い
『ケガしなくてよかったな』
と頭をわしゃわしゃと撫でられた。
『わッ・・・てめっこんなとこで・・・///』
 焦る声を上げる俺にフッと笑ってスタスタと先に歩き出す。俺はその後を急いで追いかけ、また並んで部室へと向かった。

『あぁ〜疲れたぁ〜〜〜!!』
 みっちり5時間という厳しい練習を無事に終え、犬飼と2人での帰り道。朝のドキドキなんてもぅとっくにどっかに行っちまって練習中もいつもみたく1回言い合いしたし・・・。これだけはどうにも条件反射というか・・・・。でもまぁそのへんがギクシャクしたらみんなに即行怪しまれるから今までのまま出来てよかったと思うけど。
『なぁ〜犬。今日兎丸の話聞いたじゃん?だからさ、なんか俺意識しちまって今までそんな風に見えなかったのが見えちゃってさ・・・・・・すっげー複雑だったんだけど・・・・。やっぱそうなのかぁ〜みたいな。実際見るまで信じられなかったけど、信じるしかなくなったっていうか・・・。俺達もそんな風に見えんのかな?』
『兎丸や辰達には見えてるかもな・・・』
『たっつん??なんでたっつん??・・・・ってお前たっつんに言ったのか?!』
『一応相談してたし・・・・』
『・・・・・じゃぁ子津っちゅーも知ってんのかな・・・?』
『・・・・・・かもしれん』
 やっぱ見られてんのかなぁ〜・・・そんなふうに・・・・・・。恥ずかしいだけで嫌な訳じゃないんだけど・・・。まぁあんだけカップルがいるんならみんなももう驚かねぇだろうけど・・・。
っと気付けばいつもの分かれ道が見えてきている。もぅ離れなきゃいけないんだって思うといつも苦しくなって足が重くなる。犬飼今日予定あんのかな?誘ってみようかな?なんて考えていると犬飼が急に俺を呼ぶ。ビックリして少しどもりながらなんだよ?っと返すと犬飼が訳のわからないことを聞いてきた。
『料理できるか??』
『・・・・・・はぁ?・・・・それなりに・・・出来るつもりだけど。それがどうした?』
『家に来て飯作ってくれねぇか?』
 飯??俺こう見えて結構家の手伝いとかしてるからたまに飯作ったりするんだ。だからある程度のものは作れるんだけど・・・・・・。これってもしかして誘ってくれてる??犬飼も俺と離れんの寂しがってくれたんかな??
とにかく犬飼と一緒に居れる事に違いはないのでもちろんOKして、あの分かれ道を犬飼と同じ方向に曲がった。

 昨日も来た家。犬飼が鍵を開けるとトリアエズが玄関まで走ってきた。ご主人様のお帰りがものすごく嬉しいようで飛び掛ってくる勢いだ。
犬飼はそんなトリアエズを嬉しそうに撫でてやり“ただいま”とあいさつしていた。
俺も続いて“お邪魔します”と玄関を上がると、 トリアエズが俺の足にも擦り寄ってきた。それが嬉しくて俺もしゃがみこみ、とりあえずを抱きしめてやった。いい子いい子と撫でてやって一緒にリビングに行く。
『犬飼〜飯作る前にさ、風呂借りていい?ドロドロだし・・・・』
『あぁ。服貸してやるから待ってろ』
 と犬飼は奥の部屋へ行って服を取ってきてくれた。
その服を借り、風呂場の場所を教えてもらって、俺はさっさと風呂へ入った。

 シャワーで汗を流せてさっぱりした俺は急いで飯を作るためにザッと拭いて犬飼から借りた服に手を通す。上も下も一番小さいサイズを持ってきたと言っていたが、やっぱりデカイ。裾は引きずるから折ったし。袖も手が出る程度に折った。それでもブカブカで・・・・鏡に映る自分を見て少し笑えた。
 犬飼の服か・・・・・・。そう思ったら自然と服のにおいを嗅いでいた。 ・・・・・・犬飼のにおいがする。当たり前だけど・・・今の俺は犬飼の着ていたものを身につけて、犬飼が使っているのと同じ石鹸とシャンプーを使って・・・・・俺の体からは昨日抱きしめられたときに嗅いだにおいと同じにおいがする。なんか・・・犬飼に抱きしめられてるみたいだ・・・・・・。
って何考えてんだ俺!?さっさと飯作りに行かなきゃ!!
俺は今考えたことを忘れ、急いでリビングへ行った。

『ごめん犬飼!遅くなって!』
『いや・・・トリアエズに飯やってたとこだし・・・・。ってお前・・・』
『ん?なに??』
『・・・・・・////とりあえず・・・やっぱデカイな・・・・』
『うるせぇな〜・・・ってなに赤くなってんだよ?』
『別に・・・って髪ボトボトじゃねぇか。ちゃんと拭いて来いよ・・・バカ猿』
『あ・・・悪ぃ・・・床濡れちまうな・・・』
『そうじゃねぇ』
 犬飼はトリアエズをひと撫ですると、引き出しからタオルを取り出し、俺のところに歩いてくる。そしてバサっと俺に被せると、そのままガシガシと拭き出した。
『風邪引いちまうだろぉが。バカ猿』
『なっわゎっ!犬!?自分で出来るって!!』
『自分で出来るなら最初から拭いて来い』
 犬飼は拭く手を止めてくれない。拭く手は優しいんだけど多少揺れてぐわんぐわんなってきたから足がふら付きそうで犬飼の胸あたりの服をきゅっと握った。ふいにさっき考えたことが頭をよぎりカッと顔が熱くなったが、忘れようと必死に他のことを考えた。そうこうしている間に拭き終わったようで犬飼はやっと手を止める。
『こんなもんか・・・・・』
『う・・・・サンキュ・・・』
 ってすげー・・・・・。なにがすげーって・・・・髪・・・。ちょっと風に当たっただけで乾いてしまいそうなほど ちゃんと拭いてくれてる。髪一本一本拭いたんじゃねぇかってぐらいに水滴が残っていない。
すっげーっと髪を触っていると犬飼が急に俺の首のとこに顔を埋めてくる。
『猿・・・・いいにおいだな・・・』
 今の俺に“におい”は禁句。俺はさっきのことをまた思い出し真っ赤になる。すると犬飼が耳元に口を寄せていつにも増して低い声で・・・・・・
『ブカブカの服ってなんかやらしいな・・・・・俺がさっき猿見て赤くなった理由・・・・』
そう囁いてきた。その低音ボイスと言葉に体がビクッと震えた。
そして犬飼はそのまま俺の唇に軽く吸い付くようなキスをしてから、フッと笑って髪をわしゃわしゃと撫でて来た。
『俺も風呂行ってくる。何でもいいから飯作っててくれ・・・』
それだけ言うと俺の横をすり抜けて風呂場へと行ってしまった。犬飼が去った後俺はストンとその場にへたり込んでしまった。
なんなんだよアイツ・・・急に・・・・。しかも昨日とはちょっと違うキス。昨日は触れただけだったのに・・・。
へたり込んでいる俺を心配したのか、トリアエズが来て俺を覗き込む。俺は大丈夫だというようにトリアエズを撫でてやった。
『お前のご主人様・・・エロい・・・』
 トリアエズに愚痴をこぼす。当然わかるはずもなく不思議そうに首をかしげていたけど、俺はもう一度撫でてやってとりあえずキッチンへ行った。

『さて・・・なに作ろうか?つーかなにがあるんだ?』
 何作るかじゃなくて材料の問題だよな。ってことで冷蔵庫を開けてみる。中にはコーヒー牛乳のパック。・・・・・ほんとに好きだな・・・。あっ鶏肉ある・・・。
次に野菜室を覗くとたまねぎとにんじんとピーマンがあった。ってことは・・・・・オムライスだよな!俺オムライスすっげー好き。
と言う訳で、まず野菜をみじん切りにしていく。 にんじんから順番に切っていって、たまねぎを切り、最後にピーマンを切ろうとしたとき、後ろからキュッと抱きしめられる。
『ぅわっ!って犬飼!!なにすんだよ危ねぇなぁ!!』
『悪い』
 急に出てくんじゃねぇよ・・・平然保てねぇじゃねぇか・・・・。なんか今日コイツエロいし・・・・。
『すぐできるから大人しく待ってろよ・・・』
 犬飼の方をみないようにして俺は残っていたピーマンに取り掛かる。
『へぇ・・・うまいな・・・。猿がこんなに器用だと思わなかった』
『・・・・家の手伝いしてたんだよ』
 ピーマンもさっさと切り終わり、鶏肉も切って、さっそく炒めだす。その間も犬飼はじーっと俺を見てたけど俺は気にしないふりで作業を進めた。

『よし!出来た!』
 皿に盛り付け、リビングへ運ぶ。今日の・・・今までで一番うまく出来たかもしれねぇ。犬飼がおいしいって言ってくれるかはわかんないけど・・・。
『食っていいぜ?まずくはないと思うけど・・・』
 犬飼がスプーンですくって一口食べるのを見守る。
『・・・・うめぇ』
『マジ?よかった〜』
『すげーな猿!マジ旨い』
 なんかすっげー喜んでくれてる。好きな人に弁当作ってくる女の子の気持ちがわかった気がする。おいしいって食べてもらえんのってすっげーうれしいな!なんか幸せだ・・・。
目の前でほんとにおいしそうに食べてくれる犬飼を見てると、嬉しくてしょうがない。いつも食パンかじってるときあんま旨そうじゃなかったし・・・。こんな顔も出来るんだなぁって・・・。
『猿・・・また今度作ってくれるか?』
『いつでも作ってやるよ』
 そう言ってやると犬飼はこれ以上ないって程嬉しそうな顔をしてオムライスを全部食べてくれた。

 腹も膨れて俺は皿を洗ってから犬飼が座るソファへと行く。犬飼はお疲れさんと一言言ってポンポンと隣の開いているところを叩く。
隣に座れってことか??俺は言われたとおり隣に腰を下ろす。
『ちゃんと口で言えよな』
『でも伝わっただろ?』
 少しむくれる俺の髪を優しく撫でて笑う。そのまま引き込まれるようにして俺は犬飼の胸に倒れこんだ。っていうか無理やり・・・・。
なんなんだよ今日のワンコ・・・。こんなん多い。こういうのってどう反応したらいいんだ??
『猿・・・』
『・・・・な・・・んだよ?』
『・・・・・高校卒業したら・・・・・・俺と結婚してくれ・・・』
 け・・・結婚!?何言い出すんだコイツは!?思わず犬飼の腕の中から飛び起きちゃったし・・・。つーか・・・・なんて顔してんだよコイツ・・・。泣きそう・・・まではいかないけど・・・なんか必死に堪えてるみたいな苦しそうな顔・・・。さっきまであんなに笑ってたのに・・・。
 俺は自分でも気付かないうちに犬飼に唇を寄せていってた。2,3度口づけた後、目の下と頬っぺたに 唇を落として真っ直ぐに犬飼を見る。
『そんな顔すんなよ。・・・・・俺を、犬飼の嫁にしてください。結婚つっても一緒に暮らすぐらいしか出来ないけどな!卒業したら、2人で一緒に住もうぜ?』
 言い終わるか終わらないかぐらいのところで俺はすでに犬飼に抱きしめられていた。俺も犬飼の背中に手を回しそれに答える。急に抱きしめる腕の力が緩んだと思ったらチュッと唇を奪われる。
『猿・・・・・ありがとう・・・』
『バーカ。こっちのセリフだって』
 付き合って5日目。相手のことも知らないことの方が多い。キス以上もしていない。そんな状態でもぅ将来を決めてしまいました。でもその約束が・・・・・・一番の俺達の幸せ。後二年後には・・・・・コイツと一緒に暮らせていますように。

                                                                      end