何度でも惚れさせられて・・・・




『あっ・・・・ちーーーーー・・・・・・』

『猿、うるさい』

『あちぃあちぃあちぃあちぃ』

『ぶっころ・・・・』



 こんな会話は日常茶飯事で。

真夏、練習後の部室。

俺達は今日の鍵当番で、他の部員はもうみんな帰っちまって、二人っきり。

それより・・・・熱くて堪らない。

窓を全開にして窓辺で涼んでも、なんの効果もない。

セミの鳴く声にイライラして、直接肌を焼く日光がじりじり。

思わず声に出したら犬飼がいちいち突っ込んでくるし。

でも・・・・どれだけ熱くても、それだけはイライラしないんだけどな。

逆に構ってもらえて嬉しい。

なんて口に出したら犬飼が発情するから絶対言わないけどな。ったくこの発情犬め。

 制服の下だけを履いて、上半身は汗がひくまで裸のまま。

いくら裸でいても一向にひくことがないけど・・・・制服を着る気にもなれない。

犬飼は自分のロッカーの前で黙々と着替えている。

銀の髪が日に透けてすごく綺麗で。

小麦色の肌にとても映えた。



『なに見てんだ?バカ猿』

『ぅ・・・・っ・・・・みっ・・・・・・見てねーよ!!自意識過剰バカコゲ犬!!』



 図星を指され、恥ずかしさに怒鳴ってみるものの、それすらも見透かされているようで。

犬飼は目を細めて微笑んだ。

蜂蜜色の目が光で輝いて、俺は目が離せない。

ゆっくりとこっちに近づいてくる犬飼から。



『ぉ・・・・ちょっ・・・・なんでこっち来んだよ?!』

『行っちゃ悪いか?』

『悪い!熱い!来んな!!っておいっ』



 人の話も聞かずに歩み寄ってくる犬飼。

窓の傍から離れようと思ったが一歩遅く、犬飼に捕まって抱きしめられていた。

ジタバタともがいてみるものの、余計に熱くて・・・・・。



『熱いつってんだろ・・・・・』

『熱いな』

『んじゃひっつくんじゃねぇよ!!離れろ!』

『それは却下だ』

『い〜ぬ〜か〜い〜〜〜』

『聞こえねぇな。猿語はわかんねぇからな』

『ちゃんと人間語しゃべってるっつの!!お前が犬語しかわかんねぇんだろーが!!』

『うるさいな猿。余計に熱い。ちょっと黙れ・・・・』

『熱いなら離れっ・・・・・ンぅッ・・・・?!』



 一瞬体が離れたかと思いきや黙れと唇を塞がれた。

急なことに抵抗も出来ないまま、簡単に口付けられる。

俺は咄嗟のことに目を瞑れず開けたまま。

犬飼もなぜか目を開けたままだからすげぇ至近距離で見られてて。

恥ずかしさにギュッと目を閉じた。

そのうち長いキスにだんだんと息が苦しくなって・・・・・・犬飼の背中をバンバンと叩いた。



『ンむっ!!んン〜〜〜ッ!!!っはァ・・・・・っ・・・・』

『・・・・ぃてぇな・・・・・』

『いてぇじゃねぇよ!!苦しいっつの!!つかこんなとこでキスなんかしてんじゃねぇよっ』

『誰もいないからいいだろ』

『そういう問題じゃねぇ!』



 ぐいっと犬飼の胸を押して体を離す。

意外とすんなり離れていって、今まで密着していたところの熱が風にさらわれていく。

抱きしめられているとき、素肌に触れた犬飼の手がくすぐったかった。

直に熱を感じて・・・・・・。

犬飼がまた触れてこないうちにさっさとカッターシャツを羽織る。

いそいそとボタンを留めて、ロッカーへ行ってカバンをとった。



『さっさと帰るぞ!!あちぃし・・・・・お前んち寄ってクーラーで涼む』

『勝手なやつ。でもめずらしいな。猿から俺んち来るって言うなんて』

『き・・・・っ気まぐれに決まってんだろ!!』

『はいはい。じゃぁ行くか。帰りにアイス買って帰ろーぜ?俺のおごり』

『ほんとか?!んじゃぁ俺は〜・・・・・』



 おごりって言葉にすっかりほだされて気分を良くし、俺は犬飼と真夏の炎天下の中へと出て行った。







『ふぃ〜〜涼しぃ〜〜』

『ほら、アイス』

『おっ、サンキュー犬飼』



 慣れ親しんだ犬飼の家。

いつも通りソファに座り、手渡されたアイスを受け取る。

犬飼も俺の横に腰をおろして、2人して別に意識して見てもいないテレビに向かってアイスを頬張った。

クーラーとアイスのおかげで体内にこもっていた熱がだんだんと冷めていく。

犬飼におごってもらったソーダのアイスもあと半分ぐらいで・・・・・。

ふと横を見たら犬飼がバニラのアイスを食べていて・・・・・。



『犬飼、一口ちょーだい?』

『ん?あぁ』



 犬飼が俺の口元にそのアイスを持ってくる。

パクッとそれに食らいつくと、口の中の熱でスーッとアイスが溶けていく。



『ぅま、サンキュ。犬飼も食う?』



 犬飼の口元に自分のソーダアイスを持っていくと、犬飼もそれにパクッと食いついた。

キシッと氷のきしむ音がして。

犬飼はサンキュ≠ニ笑った。

食べるというたったそれだけの動作なのに、なんだかかっこよく見えてドキドキする。

ポーっと見とれていると、犬飼がどうした?≠ニ不思議そうに俺の顔を覗き込んできて・・・・。

なんでもない≠ニ俺は犬飼から視線を逸らした。

女が騒ぐのもわかる。それだけ犬飼はかっこいい。

こんなにかっこいくてモテるくせに本人は女苦手だし。

もったいないよなぁほんと。

しかも俺みたいなやつと付き合ってるし・・・・・。



『猿、アイス垂れてる』

『えっ?うわぁ』



 見ると、棒を伝って俺の手に垂れてきていて・・・・。

少しパニクっていると犬飼がグッと身を乗り出してきて・・・・・

ペロッと俺の腕に垂れるアイスを舐め取っていく。

急なことに反応できずに固まっていると、犬飼は全部舐め取ってしまって・・・・・。



『さっさと食えよ。また垂れるぞ』

『え・・・・ぁ・・・・・・』



 急いで残りのアイスを口の中に放り込んだ。

犬飼もさっさと自分のアイスを食べてしまって・・・・・。

俺が食べた後の棒をひょいと俺の手の中から取ってゴミ箱に捨ててくれた。

ヘタレのくせに・・・・・・なんか余裕で。

なんでこんなときだけ・・・・・。



『エロ犬・・・・』

『ん?じゃぁもっとエロいことしてやろうか?』

『バッ・・・・・バカヤロウ!!寄るなアホ犬!!』

『ほんとにうるさい。しねぇよ。でも・・・・キスだけな』

『へ・・・ぁ・・・・・ン・・・・・っ・・・』



 口が開いていたのをいいことに犬飼が舌をスルリと中へ進入させてくる。

すぐに絡め取られた舌は、さっき一口もらったのと同じバニラの味がして、甘ったるい。

アイスを食べて少し冷えた体に、密着する犬飼の体温が心地良かった。

だから・・・・・自分の中でそれのせいだと勝手に決め込んで。

キスを拒まなかった。




 犬飼は好き勝手に散々俺の唇をむさぼって、今はなぜか俺の膝の上に寝転がっている。

俺も無意識のうちに犬飼の髪を撫でてしまっているし・・・。

眠いのか、目を閉じている犬飼。まだ寝てはいないようだけど。

鼻高いとか、まつ毛長いとか・・・・・。

見れば見るほどドキドキして・・・・・。

ほんとにこの犬っころは・・・・・。

自然と唇が犬飼の額に降りていた。

ちゅ・・・・っと小さく音を立てて離れると、犬飼が額を押さえながらビックリした顔で俺を見上げる。

そんな犬飼に俺は少し照れ臭いながらも微笑み返してやった。




                                                                       end