※この話は『現世デート〜遊園地偏〜(グリウル)』と少し繋がってます。これだけでも読めると思いますが、そちらを読んでもらった方がなお楽しめると思います。
遊園地で遊ぼう
『イールッ!!おっはよ!』
『うるさいカス。離れろ』
『あぁ〜〜〜またカスって言う!!それよりさ!!聞いてよイール!』
ノックもなしに勝手に部屋に飛び込んで来て早々俺の腰にまとわりついてくるこのガキ。
朝から訪ねてきたロイは、まだ朝も早いと言うのにとてつもなく元気だ。うるさくてしょうがない。
でも・・・・このテンションの高さはきっとなにかある。そう嫌な予感がしていた。
とりあえず落ち着かせなければかなりウザいため、腰から引き剥がしイスに座らせる。
俺も向かいに座って、早く言いたくてうずうずしているロイに先を促すように目線を送った。
それに気付いたのか、嬉しそうに話始めるロイの話を聞いて、俺は深いため息をついた。
嫌な予感は見事的中。
『朝さ、ウルキオラとグリムジョーに遊園地の感想聞いて来たんだぁ〜。すっごい楽しかったんだって!でもさ、楽しかったしか教えてくんなくて・・・・・・イール、一緒に行こ?』
『却下』
『なんでぇ?!そんな即答しなくてもいいじゃん!!行こうよ!!』
『なんで俺がカスに付き合わなきゃならないんだ』
別に嫌と言う訳じゃない。
ただ、あまりにも必死なロイが可愛いからもう少し見ていたいと思っただけだ。コイツをいじめるのは本当におもしろいからな。
いつも必死で俺に反論してくる姿が可愛くてしょうがない。俺も重症だな。
『イール・・・・・』
ほら・・・・・・こんなにも可愛い。
“しかたない”と俺が言うのを待つ期待半分、“絶対行かない”と断固拒否られる不安半分という表情で見つめてくるロイ。
ここで俺がまだ引き伸ばして“嫌だ”と言ってしまえば、聞き分けのいいロイは“わかった・・・・・”としょんぼりして諦めてしまう。だから遊びもココまで。
『行ってやるからそんな顔するな』
この瞬間も好きだ。
もう諦めようかと考えている暗い顔から一気に花が咲いたように明るくなる顔。
『ほんと?!ありがとイール!!大好き』
ガバッとイスから立ち上がったロイはそのまま俺のところまで来て後ろから抱き着いてくる。
柔らかな頬を俺の頬にすり寄せてくるから、頭を撫でてやると、なお強く抱きついてくる。
『髪撫でられたら眠くなる・・・・・』
『バカが。はしゃぎすぎだ。俺は今から藍染様に外出許可を頂いてくる。それまで寝てろ。行くの明日でいいだろ?』
『明日でいいけど・・・・・・俺も行く!』
離れたくないもん・・・・・と、行こうと立ち上がった俺の隣に並ぶ。
少しなんだから待ってろと言っても嫌だと言うのでしかたなく一緒に藍染様のもとへ向かった。
藍染様から許可を貰い、俺達は遊園地に来ている。
グリムジョーとウルキオラから聞いていた通りあまり人がいなくて安心する。
『うわぁ〜すげぇ!!なぁイール、何から乗る?』
『なんでもいい』
『え〜またそういうこと言う』
『別に適当に言ってる訳じゃない。お前は何乗りたいんだって聞いてるんだ』
そう言ってやると、キョトンと俺を見返した後、ヘヘッとだらしなく笑って辺りを見回し始めた。
『ん〜と・・・・あれ!!あの馬!!!』
『馬ぁ〜?』
そんなのどこにあるんだ?とロイの視線の先を見ると、馬やら馬車やらがグルグルと回っているものがある。明らかに俺達のような年齢のヤツが乗るものではない。
『イールは絶対馬に乗ったら似合うよな!白馬に乗った王子様みたいだもんなぁ〜。なぁ、俺を迎えに来てくれる?』
『・・・・・・何言ってんだカス』
とか言いつつ結構ヤバイ。
いくらでも迎えに行ってやるぜお前なら。・・・・・じゃなくて、
『本気でアレ乗るのか?』
『うん!乗る!!』
それだけはっきり言い切られると・・・・・。
なんか急に親になった気分なのは気のせいだろうか?
そんな純粋な目で見られると断れず、しかたなくそのメリーゴーランドに乗りに行く。
人も少ないし・・・・・大丈夫だろう。恥ずかしいが・・・・・・。
『イール!馬!!馬乗りなよ!!』
『嫌だ』
『えーーーッ!乗ってくれないの?乗ろうよ〜!!』
『うるさいカス。1人で乗ってろ。見ててやるから』
近くにくると案外馬が大きくて、俺なんかが乗ったら目立ってしょうがない。恥ずかしくてたまらない。
馬車ならまだしも・・・・・馬になんか乗れるか。
『じゃぁ俺も乗らない。別のとこ行こ?』
『乗りたいなら乗ればいいだろ』
『イールと一緒じゃなきゃ嫌なの』
どうしたもんか・・・・・。
せっかく来たのに我慢させてちゃ意味ねぇし。でも・・・・俺がこれに乗るのか??プライドが許さないと言うか・・・・・。
「お2人で一緒に乗ってもらってもかまいませんよ?」
ふいに話しかけてきたのはそのメリーゴーランドを動かしている女。
しかし2人で乗っていいって言うが・・・・・。
『明らかに1人乗りだろうこの馬』
「普通はそうなんですが、2人乗っても大丈夫な作りにはなっていますので」
そうニッコリと笑うそいつは、俺からロイに視線を移した。
『ほんとにいいの?』
「かまいません。どうぞお乗りください。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ嫌なんですよね!」
『お兄ちゃん・・・・・』
あぁそういうことか。
俺達兄弟に見られてたんだな。弟のロイが駄々こねてるように見えたんだな。
でも・・・・・2人で乗るなら多少恥ずかしくても乗れなくはないな。
『ロイ、乗るぞ』
『え?イール??』
俺はバッと馬に飛び乗ると下で唖然としているロイに手を差し伸べた。
ロイは一瞬目をパチクリさせた後またあの嬉しそうな顔で俺の手を取った。グイッと引っ張り自分が座る前に座らせてやる。
『イールお兄ちゃんだってさ!』
俺にもたれてきながら笑うロイ。
本当に嬉しそうな顔で笑っている。
あの女に感謝だな。悲しい思いさせずに済んだ。
そうしてる間にメリーゴーランドが回りだす。俺達2人を乗せた馬も上下にゆっくりと動き出し、本当に走っているようで・・・・・。
『やっぱイール王子様みたい!迎えに来てくれてありがとう』
『カスが。・・・・・楽しいか?』
『うん!すっげー楽しい』
そうか・・・・と頭を撫でてやる。
兄弟に見られているなら多少いちゃついても大丈夫か・・・と思ったんだが。
似てないだろうどう考えても。大丈夫なのか??
そんな不安はあるが・・・
『この馬すげー可愛い。なぁ?イール』
こんな可愛い顔で見上げてこられたらどうでもよくなってくる。
いっぱい甘やかしてやりたくなる。
そっと支えるように後ろから抱きしめてやると、ファンシーな曲に混ざる笑い声がかすかに聞こえてくる。
何周かグルグルと回った後、ゆっくりとスピードを落として馬が止まる。
“完全に止まるまで動かないで下さい”と言うさっきの女の声で入る放送の後、俺は先に馬から下り、乗ったときと同じようにロイに手を差し出した。
素直にその手を取ったロイは馬から飛び降り“ありがと”と笑った。
それからジェットコースターにも乗った。グリムジョーから聞いていたこの遊園地で一番怖いというアレ。足がブラブラでコースもグネグネで1周回転とかして急にバックとかもする。あのウルキオラでさえ怖がっていたというアレ。
そりゃぁ俺だって期待する。ロイが“イール・・・怖いよぉ”とすがり付いてくるシチュエーション。だがやはり現実は違う。
ロイは怖がるどころか気に入ったらしく、その後5回ほど乗らされた。しかも1回休憩してからもう1度乗りたいとかぬかしやがる。
俺もジェットコースターは好きだが・・・・それだけ連続で乗りたいとは思わない。コイツある意味ウルキオラより大物かも・・・・・。
『あれ楽しすぎ〜!!あんなの俺達の世界にも出来ないかな?藍染様作れないかな〜?』
『無理を言うな』
いくら藍染様がすごい御方だと言ってもさすがに遊園地までは作れないだろう。もし遊園地が出来たら毎日行きたがるだろうな・・・・。
『あっ!イール、あれ食べたい!!あれ!!』
俺の手を引いて連れて行こうとする。その方向にはアイスクリームを売っている店。
『わかったからそんなに引っ張るな』
早くと急かすロイを落ち着かせながら引っ張られるまま足を動かす。
いらっしゃいませとにこやかに話しかけてくる店員。書いてあるメニューを眺めながらロイはあれも食べたいこれも食べたいと悩む。
なんとか2つに絞ったようだが、そこからが決められないらしい。見かねた俺は仕方ないと深いため息をついた。
『このストロベリーと、チョコミント1つずつくれ』
『え?イール??』
『半分ずつしたらいいだろ』
どうぞと手渡してくる店員からロイにアイスを受け取るように言うと、俺は2つ分のアイスの代金を支払い、ロイをつれて近くにあったパラソルがついているテーブルがあるイスにつく。
『イールお金・・・・・』
『いいから早く食え。溶ける』
ロイが持っているアイスの片方を受け取り、溶け出しそうになっているアイスを舐める。
それを見てロイは“ありがと”と今日何回目になるかわからない礼を言って自分も食べ始めた。
しばらく食べた後、交換して。
『ん〜〜うまぁ!』
『それはいいが・・・・ちょっとこっち向け』
『ん?なに??』
『もっと上品に食え』
手を添えてこちらを向かせ、親指でロイの口の端についているアイスを拭い取り、ペロッと舐め取る。
それを黙って見ていたロイの顔がみるみるうちに朱に変わっていく。
『ちょっ・・・イール』
『文句言うならもうつけながら食べんじゃねぇよ』
『うぅ・・・』
『次つけてたら・・・・・・ココに・・・キスしてやる』
人差し指を立ててロイの唇に当てる。
柔らかな感触と温もりが伝わってきて、本気で今キスしてやろうかと思った。
『い・・・イール!!駄目じゃん!さっきからもうっ!!』
『なに真っ赤になって怒ってんだカス』
ちょっと意外だった。
もっと常識ないやつだと思ってたから外でいちゃつくぐらい平気だと思ってた。そうでもないんだな。
『イールはすぐ俺をからかうんだから・・・・・。でも美味しかった〜。次何乗る?コーヒーカップ?』
『やめとけ。食った後回ったら吐くぞ』
『じゃぁ・・・・お化け屋敷』
これもグリムジョーから聞いた。ウルキオラはこんにゃくにビビッただけで化け物は平気だったと。たぶんロイも平気だろうな・・・・・。これも思っているようなシチュエーションは望めなさそうだ。
そう思いながらも近くに見えている怪しげな建物の方へと歩いていった。
中は少しひんやりとしている。
薄暗い中、隣にいるロイはビビることは愚か、ピクニックにでも行っている様なはしゃぎ様。
実際ウルキオラがビビったというこんにゃくが後ろから当たったというのに
『んぁ〜?なんかクニュッてしたの当たった〜。気持ちいいのか気持ち悪いのかよくわかんねぇけどおもしれぇ〜!なぁイール!!』
『急に当てられてそれだけ反応薄いのもどうかと思うぞ』
ここで仕事してるやつも可哀想だな・・・・・。
それからわりとゆっくり薄暗い中を歩いてるんだが・・・・・どんなやつが出てきてもロイは大爆笑。
血だらけの落ち武者が出てきても
『なんだこいつ!!髪ぼさぼさ〜〜!!』
あまつさえそのぼさぼさの髪を整えてやったりまでする。
驚かせ役なのにロイに感謝して、ふいに仕事を思い出しそそくさと暗闇に消えていくのだ。
それにも飽きたのか、ロイは逆に驚かし始めた。
驚かそうと出てくるやつを次々に返り討ちにする。
これじゃぁあまりにも気の毒だと思い、そろそろロイをとめておいた。
と言ってもとめるのが遅かったのか、もう出口についてしまったが・・・・・。
『なぁんかグリムジョーはつまらなかったって言ってたけど、案外楽しかったよな?』
『・・・たぶんお前だけだ』
それから、さっき言ってたコーヒーカップに乗って、ロイがふざけて回しすぎてフラフラになったり、トロッコに乗っておもちゃの銃で的を狙っていくやつに乗ったりして、時間はあっという間に過ぎていった。
そして辺りが暗くなったころ、もうそろそろ帰ろうかと言う話になって、最後に観覧車に乗る。
これもグリムジョーから聞いた話だ。
ココの観覧車に乗って、てっぺんでキスするとその恋は永遠のものになるらしいと言う伝説。
別に信じちゃいないが・・・・・しておいても損はないと思う。てっぺんでキスなんてロマンチックだと思うし。
『じゃぁ行くか』
ロイの手を取って、観覧車のある方へと移動する。
遠くから見ていた観覧車も十分大きいと思ったが、近くで見るとなおも大きい。
その大きさに一瞬呆然としてしまったが、従業員に呼ばれ、2人で中に乗りこんだ。
ゆっくりと動く観覧車。そこらじゅうのライトがとても綺麗で、自分達が歩き回っていた園内はこんなに狭いのかと、上から見て思ってしまった。
『綺麗だな。・・・・・?どうした?』
ふと前を見ると、小さくなって震えているロイが見えて驚く。
てっきりはしゃいでいると思っていたのに。
『俺・・・・さ、高所恐怖症みたい・・・』
『はぁ?今まで気付かなかったのか??』
『・・・・なんか・・・・コレ怖ぇ』
必死に外を見ないように膝を抱えるロイ。
まさかコイツの口から怖いなんて聞くと思わなかった。観覧車が苦手なんて。あんだけ早いジェットコースターも・・・・・。ん?なんで高所恐怖症のくせにジェットコースター平気なんだよ??あんだけ足ブラブラで。
コイツやっぱ変なやつ・・・・・。
今さら下ろすことも出来ないし。我慢してもらうしかないんだが・・・・・。
俺はしばらく考えた後、ロイの隣にそっと移動してやる。
安心させるように肩を抱いて引き寄せてやると、目に涙をためて俺を見上げ、その直後、俺の膝に乗って抱きついてきた。
『イールぅ・・・・』
『んな怖がんなくて大丈夫だ』
よしよしと子供をあやす様に柔らかい髪を撫でてやると、抱きついた手を緩め、まだ半分泣いている顔で俺をジッと見る。
目に溜まる涙を吸い取るように目じりに口付けてやると、くすぐったそうに目を閉じ、両目とも同じようにしてやった後、気を散らすように頬や口の端にも柔らかく唇を落としてやる。
『口には?』
『てっぺんに着いたらしてやる』
それまではこっち・・・・・と耳に甘く噛み付いてやるとくすぐったいのか、ピクッと反応した。
そのまま耳の下に唇を滑らせると、そこに紅い痕を残してやる。
そうしてる間にもゴンドラはてっぺんに近づいていて・・・・。
『ロイ・・・・愛してる』
『ん・・・・イール、俺も・・・』
ずっと触れたかった唇にようやくたどり着く。
どうか永遠であるようにと願う口付けも悪くないな・・・・・と思った。
それから下に下りるまで、怖がるロイを強く抱きしめて、口付けての繰り返し。
『俺がついてるだろ?大丈夫だ』
耳元で囁くと、小さく頷く。その震える背中を何度も撫でてやりながら、早く時間が過ぎてくれればいいと願う反面、この時間がずっと続けばいいのにと思う自分がいた。
『ただいま!!グリムジョー、ウルキオラ!!』
『帰ったのか。楽しかったか?』
『うん!すっごく楽しかった!!』
楽しそうにウルキオラに話しているロイ。それを少し離れて見ていると、グリムジョーが近づいてくる。
『どうだったよ?お子様のお守り』
『あぁ。まぁまぁだ』
『結構いいだろ?現世デート』
『・・・そうだな。意外なとこも見れたしな』
『何話してんの?』
『顔がいやらしいぞ、グリムジョー』
走ってくるロイの後ろからウルキオラがゆっくりと近づいてくる。
ロイはそのままの勢いで俺に抱きつくと、俺を見上げ、エヘヘと笑った。
『誰がいやらしい顔だ』
『お前』
『テメー・・・ウルキオラ』
言い合いが始まる横で、俺は呆れながらも、結構仲良くやってるんだな・・・と見ていると、ロイが俺の服の裾を引っ張る。
少しかがんで耳を貸すと
『俺達も負けてられないね』
と言ってニッコリ笑った。
『負けてる気はしないがな・・・』
と返してやると、一瞬キョトンとしてから“そうだね!イール大好きだよ!”と頬に口付けられた。
そのまま言い合いをしているグリムジョーとウルキオラを置いて、ロイを自室にお持ち帰りしたのは言うまでもない。
end