放課後の憂鬱
放課後の並盛中学校。
グラウンドや体育館、校舎の中のいくつかの教室では部活動が盛んに行われて賑やかだ。
そんな中、委員会を開いているところもあって・・・・代表的なのは少し離れたところにある応接室を使っている・・・風紀委員。
委員長の雲雀恭哉は今日1日授業に出ることもなく、1日を此処で過ごしていた。
他の人は特に仕事もないからと帰らせ、静まり返る応接室で1人寝転がっている。
授業中に寝ていたせいもあり、寝転がっていても眠気はこない。
さらにグラウンドから聞こえる野球部の声やボールの音もうるさいため、寝ようと思っても寝れないだろう。
退屈でしかたがない。そんな時だった。1人の来客が来たのは・・・・・。
『お久しぶりですね、雲雀恭哉』
開けられたドアの方を見るとそこに立っていたのは意外な人物。
だからって歓迎は出来ない相手。まぁ誰が来ても歓迎はしないが・・・・。
『なんでいるの?ここの生徒じゃないやつは出て行ってくれる?それとも・・・・噛み殺されにわざわざ来たの?・・・・・六道骸』
そこに立っていたのは憎い相手。
あれほどまでに屈辱を与えられたのは初めてだった。
だからこそ、次にあったら噛み殺そうと思っていたところだ。
まさか相手の方からノコノコやってくるなんて思いもしなかった。
だけど・・・・・コイツが強いのは確かで・・・・・。それに惹かれている自分も確かにいることを否定できない。
僕はコイツが気に入ってる?アレだけ屈辱を味わわされたのに?
『そんな殺気立たないでくださいよ。僕は君と・・・・お話しに来たんです』
『僕には話なんかないよ。丁度退屈してたんだ、噛み殺していい?』
『それは後でも十分出来るでしょう?死んでしまったら話は出来ないのですから・・・・・』
『・・・・・・。座れば?お茶ぐらい出してあげる。・・・・最後のお茶になるかもしれないけどね』
『これはこれは。頂きます』
決して気は緩めずに、席を勧めて紅茶を淹れてやる。
骸は穏やかにそのカップを手に取り口をつけた。
その姿から殺気は感じられない。
『美味しいですね。いい紅茶だ』
『そんなのはどうでもいいよ。話ってなに?』
『・・・・僕は君に興味があります。あの時僕は確かに君の体をボロボロにしたはず。骨も何本も折りましたし。現に僕が憑依しても動けなかった。なのに君はその体であれだけ動いていた。その強さがどこにあるのか・・・・・知りたくなりました』
『ふ〜ん・・・奇遇だね。僕も君に興味があるよ。その強さは僕を退屈させない』
『それは僕を認めてくれてるという意味ですか?』
『・・・・・好きにとったら?そんなことどうでもいい・・・・・早く噛み殺したいんだけど・・・?』
カチャッと仕込みトンファーを構えても骸は平然と紅茶を飲み続ける。
無抵抗の相手を殴り飛ばすのなんて僕には簡単に出来るしためらいもない。でも・・・・・きっとコイツはこんな平然としながらも軽々避けるだろう。
それは・・・・とてもおもしろくない。
コイツが強いのはもう知ってる。
だからこそ・・・・本気になったコイツを相手にしなくちゃ・・・・・そこらへんの弱いヤツ相手にしてるのと同じだよ。
『どうしたんですか?殺らないんですか?僕を』
そういう骸をジッと睨んで、仕込みトンファーを直す。
深く息を吐いてソファに沈み込み、自分用に淹れていた紅茶をすする。
『今の君を殺ってもおもしろくないからね』
そう答えると、骸はあの変な独特の笑い方で笑った後、手に持っていたカップをテーブルに置いた。
こっちをじっと見ているのはわかる。
それでもあえて目を合わさない。
しばらくの沈黙。それでも骸は僕から目を離さなかった。
『なに?』
いい加減ウザくなってきて、自ら口を開く。
それでも絶対に目は合わさない。
合わさないでいたのに・・・・・。骸の一言で僕は骸の方を向くことになる。
『綺麗な顔ですね・・・・』
『・・・・・。噛み殺されたいの?』
『褒めてるんですよ。傷は・・・・残っていないようでよかった』
コイツは何を言っているんだろう?
綺麗な顔とか・・・・・。
傷というのはたぶん骸に散々殴られたときについたもの。そんなものはとっくに治ってしまっている。
別に女の子じゃないんだから顔に多少傷が残ったっていいだろうに・・・・・。
やっぱり何を考えているのかさっぱりわからない。この男だけは。
『傷が残ってたら・・・・・・・その責任を取る・・・とでも言ってどうにでもなったのに・・・・・少し残念です』
『・・・?何の話?別に責任取ってほしいとか思わないんだけど』
『クフフ・・・・・・責任なんて・・・・・ただの口実ですよ』
『僕が聞きたいのはその口実がなんの口実かってところだよ』
『わかりませんか?僕は君が好きだと言っているんですよ』
唐突に告げられたその答え。
驚きに言葉も出せなかった。
表情1つ変えず、言い切る目の前の男をジッと見つめたまま、僕は頭の中を整理していた。
ニヤけた表情はしているけど、ふざけている様子もない。
だからって本気かどうかもよくわからない。
そもそも好きとはどういうことなんだ?本当によくわからない。コイツは。
『へぇ・・・・・おもしろいこと言うね、君』
『ケガの1つでも残っていてくれたら責任を取りましょう・・・と簡単に貴方を手に入れられたのに。そうもいかないみたいで残念ですよ』
『なにか勘違いしてない?僕は別にケガが残ってたって君に責任取ってもらうつもりなんかないし簡単に君のものになんかならないよ』
『クフフ、そういう気の強いところがすごく素敵です』
『変態は黙って』
僕が反抗するたびに骸は嬉しそうに笑う。
そういうのもバカらしくて、もう相手にしていられない・・・と席を立った瞬間、さっと目の前から骸が消え、気配が後ろに移る。
その気配を察知してトンファーで攻撃しようとしたが、一足遅く、その手を捕まれてしまった。
ソファを挟んでいるため足も使えない。
手を動かそうとしても・・・・・やっぱりコイツは強い。
外せそうにない。
『離してくれない?』
『嫌ですよ。大人しく座ってくれないでしょう?』
『散々しゃべったんだしもういいでしょ?』
『まだ僕の話は終わってませんよ』
『じゃぁ早く言ってよ』
そのままの体勢を保ったまま、先を促す。
正直な話、後ろなんか取られっぱなしなんて嫌だけど、話終わるまで離してくれる気配はない。
『僕はもう言いましたよ。貴方が好きだと。後は貴方の返事だけだ』
『ふ〜ん。それ、なんのゲーム?』
『ゲームですか。実におもしろい。僕は愛しい人は殺してでも傍に置いておきたいタイプですから』
『へぇ・・・・・殺していいんだ?おもしろそうだね。いいよ、そのゲーム乗ってあげる』
『決まりですね。・・・・・僕に・・・・惚れさせてあげますよ。ゲームは明日から。それでは・・・arrivederci』
その瞬間、骸の気配が完璧に消えた。
逃げられた・・・・・。やっぱり最初に噛み殺しておくんだった・・・・・。
・・・・・・惚れさせる・・・・ねぇ。
惚れるかどうかはわかんないけど・・・・・・アイツの近くにいれば常に退屈しないはず。
これがもうすでに惚れてるってことなのかもね。まだ認めないけど。
楽しいゲームになりそうだよ・・・・・。
命掛けのゲーム・・・・・。
雲雀恭哉・・・・・。
落とすまでにまだまだ時間は掛かりそうですが何とか第一段階は終えましたね。
殺すなんて・・・・・するわけない。
もう貴方を傷つけるようなことしませんよ。
貴方は僕の最初で最後の恋人になるんですから・・・・・・。
end