裏腹




『ねぇ。邪魔なんだけど・・・・』

『じゃぁ少しは僕の相手をしてくださいよ』



 書類に目を通す僕を後ろからまとわりついて邪魔をしてくるこいつ。

さっきから人の髪を引っ張ってきたりベタベタと触ってきたり。

勝手に来たのはそっちのくせに暇だの相手をしろだのとうるさくて仕方がない。


『いい加減ウザイんだけど。噛み殺していい?』

『いいですよ。相手をしてくれることに変わりはないんですから』

『・・・・・・やる気が失せた。もう黙っててよ』

『嫌・・・ですよ。せっかくの休日なのに君はなぜか学校にいるし・・・・。そんな仕事放っておいてデートにでも行きましょうよ』

『断る。僕はこれをしなくちゃいけない。そんなの勝手に1人で行ってきたらいいだろ』

『それじゃぁ意味がないんですよ』


 骸は少し困ったように笑った後、後ろから抱きつくのをやめて僕の隣に腰をおろした。

体にまとわりつかれるより幾分かまし。そう思ってあまり骸のほうは見ないようにしながら仕事を進める。

しばらくは骸も大人しくしていた。

そこから30分ぐらいたったころ、やっとのことで仕事が片付く。

ふと骸のほうを見ると・・・・・・寝ている?

どおりで静かだと思った。

仕事も終わったし・・・・放っといて帰ろうか・・・・・。

とも思ったけど・・・・・まぁこうしてせっかくの休みに会いに来てくれたし仕事にも付き合わせちゃったしね・・・・・。

 ふぅっと1つ息をついてゆっくりと立ち上がり隣の部屋から毛布を持ってきて、眠る骸にふわっと毛布をかけてやる。

そうすると・・・・


『優しいとこ、あるんですね』

『・・・・・・・狸寝入り?趣味が悪いね』

『クフフ・・・僕もいいとは思ってませんよ』


 ほんとに趣味が悪い。

僕は骸を1つ睨んで立ち上がろうとした瞬間・・・・・

ふいに腕をつかまれて引っ張られたかと思ったときにはドアップの骸の顔。

同時に唇に柔らかな感触がして、即座にトンファーを骸めがけて振り回す。


『おっ・・・と。危ないじゃないですか。そんなもの振り回しちゃダメですよ』

『平然と避けながらそういうこと言わないでくれる?』

『ほんとに・・・・ゆっくりキスも出来ない』

『そんなのしなくていいよ』


 少し濡れた唇を手の甲で拭う。

余裕でニヤニヤしている骸がムカついてしょうがない。

殴りかかることは簡単なことだけど・・・・・そうすれば骸の思うツボって感じがしてすごく嫌だ。

でも・・・どう動いても骸に勝ててる気がしない。

手の平の上で転がされてる気がして・・・・・どうあってもムカつく。


『ねぇ・・・雲雀くん・・・・』

『ッ・・・・!!』


 呼ばれたと思った瞬間には目の前から骸の姿が消えていて・・・・・同時に後ろからあの嫌な笑い声が聞こえた。

すぐにトンファーで殴りかかろうとしたけど・・・・・両手ともつかまれて動けない。

その上骸はなにを思ったのかそのままソファに座りだして・・・・・

これじゃ僕が膝の上に抱きかかえられているみたいだ。


『暴れないで下さいよ・・・・』

『・・・・離せよ』

『軽いですね、雲雀くん』

『黙って』

『嫌ですよ。クフフ・・・・でも・・・・・雲雀くんも僕が好きでしょう?』

『バカじゃないの?どこでそうなるの?』


 まったく繋がらない会話。

そして極め付けにわけのわからない内容を持ってこられる。

どうしてそこで好きとかそういうのが出てくるの?

確かに骸とは一応付き合ってることになってるのかもしれないけど・・・・・・今のどこに好きとかそういう会話があったのかわからない。

やっぱりこいつ・・・・わからない。


『前よりは、好きでしょう?』

『前も今も変わらないんだけど』

『それは前から僕のことを好きでいてくれたという意味ですか?』

『・・・・・さっきから何を根拠に好きとか勝手に言ってるわけ?』

『気付いてませんか?今日僕が来た瞬間からどれだけあなたにまとわりついても、しばらくはなにも言わずに僕の好きにさせていた。それがなによりの証拠だと思いますけど?』

『なにが証拠なの?もっと解りやすく説明してみなよ』

『・・・今までの君なら、確実に少しでも触れようものならトンファー出してましたよね?それがあれだけ触っても怒らなかったなんて・・・・・。それに・・・・コレ。今までならこんなのかけてくれなかったでしょう?』


 言いながら毛布を手に取る骸。

確かにあの時は・・・・・・ちょっとは悪かったかなとか思ったからで・・・・・でも・・・・そんなこと今まで思ったことなかったけど。

言葉を失う僕に骸はまた小さく笑ってコツンと背中に額をぶつけてくる。


『もういい加減素直に認めたらどうですか?』

『・・・・なんで僕が認めなくちゃいけないの?勝手にしたらいいじゃない』

『じゃぁ・・・キスしても怒らないで下さいね?』

『そんなこと知らないよ』


 骸はまた苦笑して、懲りずに唇を近づけてきた。

まぁ1回ぐらいなら・・・・素直に受けてもいいか・・・と、黙ってキスをさせてやる。

ただまぁこれからもさせてやるとは限らないけどね。

そう自分で言い聞かせながら、黙って骸の膝の上に座っていた。



                                                                         end