冬が去り暖かくなって過ごしやすくなってきたココ現世に、恋次は長期休暇を取り、遊びに来ていた。
無論、一護に会いに。
1ヶ月に1度は必ず会う約束はしているものの、恋次にも副隊長としての仕事があるため、そう長くは会えない。
1時間もしゃべれたらいい方だったのだが、今回は3日間も休暇をもらえたらしい。
昨日の昼ごろ、急に一護の家へと訪ねてきたのだった。
1ヶ月ぶりの再会。
嬉しくないはずもなく、お互いの生活のこと、身の回りのことをたくさん語り合った。
その話の中で、恋次がどこから聞いてきたのか、現世にある桜が見たいというのだ。
桜なら、2日ほど前から一気に花を開き、今丁度見ごろだろう・・・ということで、今日は恋次を近くの公園へと連れて行ってやることにしたのである。
『すっげーキレイだから恋次ビックリすると思うぜ』
『そんなにキレイなのか?』
『おぅ!たいやきと団子も買っていくか!!』
『おっ!たいやき食いてぇ!!』
『絶対うまいぞ』
そんな話をしながら隣同士歩く。
そんなことも久しぶりで、つい横の恋次を意識してしまう。
恋次の方はすっかりたいやきのことしか頭にないようだが・・・・・。
それに少しムッとして、自分ばかり焦ってバカらしく思えてきて・・・・・。
でもそんなとこも変わらないなと少し安心する。
そりゃぁ1ヶ月ぐらいでコロコロ性格変わっちゃ大変だろうけど。
そんなことすら考えるのが楽しくて、横を意識するのは嬉しいからだと自分に言い聞かせる。
公園に行く前に恋次お気に入りのたいやき屋さんに寄って、隣のお団子やさんにも寄って。
そこから少し行った所の公園へと歩く。
公園が近づくにつれて薄いピンクが主張し始めて・・・・。
『恋次、アレ。あのピンク色見えんだろ?アレが桜』
『へぇ・・・・・なんか塊にしか見えねぇ・・・』
『そりゃぁ・・・・。もう少し近づいたら1つ1つ花が見えてくるって』
確かにこの距離じゃピンクの塊だけど・・・・。
それでもキレイだと思うんだが・・・。恋次は桜を知らないからただの塊だと思うのかもしれない。
アレを近くで見たらきっと・・・・・。
『へぇ・・・・すげぇな・・・・』
『だろ?』
公園にやってきて桜の木の下に連れて行ってやる。
さすがの恋次も、言葉をなくして桜を見上げている。
優しく降り注ぐ花びらは、見方によっては雪に見える。
冷たくない・・・・・暖かな、確かに形のある雪。
少しの風でも1つ、また1つと地面に落ちていく。
咲いてすぐ・・・・散る花。
その儚さが好きだったり・・・咲いているのは一瞬なのに、その一瞬で世の中の人々を魅了する強さが好きだったり・・・・。
そう恋次に話すと、“悪くねぇな。その強さ、俺も好きだぜ”なんて同意してくれて・・・・・・。
俺は返す言葉も見つからないほど嬉しくて。
見つからないというか・・・・・どの言葉もしっくりこなくて。恋次なら言わなくてもわかってくれるだろうって言うのもあるし。
だからこそなにも言わないで黙って見上げる。
いったいどれくらい見上げただろう?
俺はふと恋次の手の中にあるたいやきの袋を見て思い出す。
『やっべぇ・・・・たいやき冷めちまうんじゃねぇか?』
『ぬぁっ・・・・忘れてたぜ。でもまぁ冷めてもうまいんだけどな!』
『冷めたらうまくねぇだろ・・・・』
『うまいんだよ。ぉら食え』
ごそごそと袋を漁り、1つ取り出して口元に持ってくるから自然にそれを咥える。
恋次は俺が加えたのを確認してから手を離し、自分の分を取り出して咥えた。
やっぱり生温い。
もっと早くに気がつけばよかった・・・・・。
少し悔いたがそれも一瞬で・・・・・この桜を目の前にしたらどうでもよくなった。
立って食うのもなんだからと言ってちかくのベンチに移動する。
団子も広げて2人で花見。
『めずらしいな。恋次がたいやき目の前にしてがっつかないなんて』
『・・・なんかよぉ、コレ見てたらんながっつけねぇっていうか・・・・』
『わかるけどな』
なんでって言われりゃわかんねぇけど。
なんかもう桜に圧倒されてというか・・・・・。なんでもゆっくりでいいじゃねぇかみたいな気持ちにさせられるんだ。
さんざん食って花も見て・・・。
もったいないけどそろそろ帰ろうか・・・・・と俺が立ち上がる。
2,3歩、歩いたところで・・・・
『一護』
『ん?なんだよ?』
急に恋次に呼ばれて振り返ると、なぜか赤い顔をした恋次。
不思議に思って恋次に近づく。
なぜか目線が外せなくて、お互いジッと見つめたまま。
恋次が赤い顔してるから俺までつられて赤くなってくる。
そのとき、ヒラヒラと舞い落ちてきた桜の花びらが俺の唇について・・・・。
取ろうと手を伸ばしたその手を恋次に掴まれる。
『キレイだから・・・・そのまま』
そう言われた直後、その花びら・・・・・俺の唇に恋次のそれが重なった。
一瞬の出来事。
それなのにその一瞬がとても長く感じられて。
唇が離れた直後、暖かな春の風が吹き、唇についた花びらをさらっていった。
花びらが流れた方向を2人で見つめて・・・・・視線がぶつかって笑い合った。
『なんであのとき顔赤かったんだよ?』
さっき聞きそびれた疑問を帰り道にぶつけてみる。
恋次は少し言葉につまった後、観念したように口を開いた。
聞かなきゃよかったって思ったんだけど・・・・・。
『そりゃぁお前・・・・・・振り返ったお前がキレイだったからよぉ・・・・』
『ぁ・・・なっ・・・・』
“恥ずかしいこと言うんじゃねぇ”と赤くなった俺に“お前が言えって言ったんだろうが”と言われたが、そんなことは知らない。
まさかそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
本当に聞かなきゃよかった・・・・・。
少し後悔したものの、今日恋次と2人で桜を見に行けてよかった。
恋次と過ごせるのも明日1日。
明日は家で2人でのんびりしようか?
end