貴方に全て捧げましょう




 昨日の夜、いつものように一護と電話をしていたときだった。

一護が急に、


『明日俺の家に来い』


と言ったのは。

別にそれは構わねぇし、いくらだって行くが・・・・・なんか様子が変だった。

上手く説明は出来ないが・・・・・電話の向こうで照れているような。

電話するだけで照れるなんてそんな今更な話だからあるわけねぇし、別に今回初めて一護の家に行くわけでもねぇ。

結構頻繁に出入りしているし、一護から誘ってくるのも珍しいわけじゃない。

だから気のせいだろうかと俺は思っていたんだ。

特に気にもしなかった。





 次の日、言われた通り昼過ぎに一護の家に到着する。

いつもと変わりない態度・・・・・・・というわけではなかった。

いつもより素っ気無い。気がする。

一護は歳の割には落ち着いているし、クールなところもある。

でも今日はそれの比ではないほどに・・・・・俺と目が合うとサッと逸らす。

眉間の皺もいつもより深い。

最初は気にしないふりで喋っていた。

喋る分には一護も普通に返してくるから。

だが・・・・・・・こうも視線を逸らされるとさすがの俺でも気になる。

俺は我慢しきれず・・・・・・一護の胸倉を掴んだ。


『どぉいうつもりだ一護?さっきからずいぶん避けてくれるじゃねぇか』

『ちょっ・・・・恋次、落ち着け』

『落ち着いてられっかよ。わけがあんならはっきり言いやがれ』


 そう言って詰め寄ると、一護はしばらく視線を宙に彷徨わせた後、はぁっとため息をついた。

脱力した一護に俺は反射的に胸倉を掴んでいた手を放す。

見ると一護の顔は耳まで赤く染まっていて、俺はますますわけがわからなくなった。


『なんだ?!?!どうしたんだ一護?!俺がなにかしたのか?!?!』

『・・・・・んー・・・・・恋次のせいではあるが違う』

『よく意味がわかんねぇんだけど・・・・?』

『今日は何の日でしょう?』

『なんだいきなり・・・・今日・・・・??・・・・・・・なんかあるか??』

『マジでわかんねぇのかよ??』

『・・・・・?付き合った記念日はまだだろ?つーと・・・・・・他になにも思い当たる節が・・・・・』


 本気で思い当たらない。

頭をグルグルさせていると一護がおもむろに立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。

怒らせたか??と少しドギマギしながらドアを見つめていると、すぐに一護が帰ってくる。

そのことにホッとしたが・・・・・入ってきた一護の手には黄色い箱が握られていて・・・・・。

それを持ったまま俺の座る目の前にストンと腰を下ろした。

一護が少し下向き加減で目線をこっちによこさない。

覗き込むとやはり少し紅くて・・・・・。

そっとオレンジ色の髪に手を伸ばそうとした瞬間、胸にその黄色い箱が押し当てられた。



『誕生日、おめでとう・・・・・・恋次』

『は・・・・・・?・・・・・・・・・・ぇえッ?!』

『ったく・・・・自分のこと無頓着で嫌になっちまうぜ・・・・・・バカ恋次』

『なっ・・・・俺の誕生日???マジか?!くれんのか一護?!?!』

『ぉう!開けてみろよ』



 すっかり忘れていた自分の誕生日。

驚きつつも胸に押し当てられた黄色い箱を受け取り、勧められるままあける。

中に入っていたのは・・・・・・サングラス。

俺はそれと一護の顔を交互に見て、それからすぐにそのサングラスを取り出した。

結構高そうなもんだ。

高校生でバイトもしていない一護が買うのは少ししんどいはずの。


『かけてみてくれよ』

『あぁ・・・・・似合うか?』

『おぅ!やっぱ俺の見立ては正しかったな。似合ってるぜ恋次』

『一護・・・・コレ高かっただろ?』

『まだ安いほうだったぜ?ごめんな』

『バカ謝んじゃねぇ。嬉しいに決まってんだろ。サングラスで安いっつっても結構するのは分かってんだよ。どうやって買った?』

『小遣い貯めて』


 さらっと平然に答えた一護を引き寄せて抱きしめる。

一護が痛い≠ニいうぐらいに強く抱きしめて、一生大事にする≠ニ誓った。





『これはありがとうなんだけどよ、なんであんなに俺を避ける必要があったんだよ??』

『いや・・・・なんつーか・・・・どうやって渡そうかとか、どうやって今日の誕生日演出しようか・・・・とか、いろいろ考えてたら恥ずかしくなっちまって』

『・・・・で??どんなの考えてくれてたんだよ??』

『そっ・・・・れは・・・・・』


 また見る見るうちに一護の顔が赤くなる。

頬をつついたりして煽ると、観念したように一護がぽそぽそと呟きだす。



『・・・・・甘やかしてやろう・・・・とか、・・・・・・恋次のしたいこと・・・・させてやろう・・・・とか』


 それが可愛くてしかたない。

俺はさっそく一護に飛びつき、膝の上を確保した。

焦った一護はなにするんだよ?!≠ネんてことを喚き散らしていたが、甘えてる≠ニ言うと、グッと押し黙った。

一護も観念したように、俺の髪にそっと指を滑らせる。

一護の指、好きだ。

優しくて・・・・気持ちいい。

ふわふわとした気分になって寝てしまいそうな・・・・・。

でも寝るのはもったいなさ過ぎるこの環境。

一護を見上げられるように仰向けになる。

手を伸ばすと、一護は当然のようにその手を掴んで・・・・・。

俺は少しもったいなく思いながらも起き上がる。

俺の行動をジッと見ている一護の唇をすばやく奪って・・・・。

たったこれだけのことなのにいまだに頬を紅く染める一護に何度もキスを送る。

感謝の意味も込めて。


『・・・・なぁ恋次、なんかしてほしい事ねぇの?』

『しいて言うなら・・・・・すっげぇ一護を抱きてぇ』

『ぅっ・・・・・・よ・・・・・・・・夜、・・・な?』

『おう!んじゃぁ今はもっと一護に甘える』

『ふぁっ・・・・くすぐってぇって恋次っ』


 美味しい許可ももらえて、それまではのんびり一護と過ごしたい。

日が暮れるまで。

一護の胸に擦り寄ると、かなりくすぐったかったらしくじたばたともがく。

それでもわざと擦り寄って・・・・・。

2人で過ごす時間が楽しくて。

 ふと、会話が切れた。

一護の目が泳ぎ、直後何か決心したように俺を真っ直ぐに見つめた。



『恋次、おめでと。・・・・・大好きだぜ』



 そう言って、少し顔を赤らめた後、一護から俺に軽いキス。



『・・・・ばっ・・・・・・・お前は俺をどれだけ喜ばすんだよ!!』



 ぎゅぅっと一護を抱きしめる。

1回の誕生日でこんだけいろんなもんもらったのは初めてで・・・・・。

来年の一護の誕生日にどんなことで返してやろうかと今から計画を立ててる俺がいた。

ただ今は・・・・一護を独り占めさせてくれれば満足。









8/31 Happy Birthday 阿散井恋次