一瞬の温もりと残されたもの




『よぉ一護、おかえり』
『なッ?!なんでテメーがいんだよ?!?!』

 学校から帰ってきてまず飛びついてくる親父をぶっ飛ばした後、駆け寄ってくる妹2人の頭を撫でてやって、飯が出来るまで上にいる・・・と伝えて階段を上り自分の部屋に入った途端ベッドに寝そべる俺の姿をした虚。
 こいつは時々こうして俺の部屋にいることがある。
勝手になにやってんだって思うけど・・・・・・まぁこういうやつだし、今はもう慣れた。
が、まぁそれなりに驚きはする訳で・・・・・。
とりあえずカバンを下ろして床に座る。
なんでこの部屋の主人のはずの俺が床でコイツがベッドに座ってんのかはわかんねぇけど今はもうどうでもいい。

『待ちくたびれたぜ一護ぉ』
『なんで待ってんだよ・・・・・・つーかくっつくな!!』

 後ろからぎゅうぎゅうと抱きついてくるコイツを剥がそうとすればするほど腕の力を強められ、まったく剥がれない。
それどころかいつのまにかベッドに引きずりあげられていた。
どれだけ足掻いても上から押さえつけられている分、分が悪い。
ニヤニヤと笑うその顔に思わずゾクッとした。

『いい眺めだなぁ一護。寂しかったんだぜぇ?相手してくれよ』
『離せよクソ・・・ッ』

 コイツはいつも俺の言うことなんかこれっぽっちも聞かない。
勝手にやりたい放題。
ムカつくのに・・・・・すっげー腹立つのに・・・・・。
どこかで拒絶してない俺がいるんだ。

 降りてくる唇を素直に受け入れる。
だって拒絶できない。
重なったその隙間から濡れたそれが中を動き回る。
それが俺の舌を捕らえ、痛いほどに吸われると痺れるほどに甘く・・・・・。
呼吸も満足に出来ない。
気付けば甘ったるい声が漏れていて、口の端からどちらのものかも解らない混ざり合った唾液が溢れるころに要約解放してもらえた。
こいつのキスは俺にとって媚薬。いや・・・・毒。
この強烈なキスが終わるころには体はすでに蕩けきってしまっていて理性もなにも剥がれ落ちてしまっている。

『相変わらずいい顔するじゃねぇか一護。もっと見せろよ』
『ん・・・・っ・・・・』

 長い舌が首筋を舐めあげる。
濡れたそこにきつく吸い付かれると堪らなくて声が漏れた。
同時に残る紅い痕。
一箇所だけじゃなく・・・・どこもかしこも・・・・・所有印のように。


 いつしかその白い手に体中を撫で回されて、いいように火照らされていた。
ただ俺は喘ぐだけ。
その白い手によって絶頂へ導かれていた。

『ぅあっ・・・・んっ・・・・ぁ・・・』
『まだまだこんなもんじゃねぇだろ?もっと刺激欲しいんじゃねぇか?』
『ぃ・・・・・ぅくっ・・・・』

 イきそうでイけない、そんな微妙な刺激がもどかしくて狂いそう。
求めるようにすがり付いても益々焦らすようにゆるゆると触られるだけで決定的な刺激にはならない。
こうなったコイツは俺がちゃんと口で頼むまでしてくれない。
とことん鬼畜なやつ。

『おら・・・・どーしたよ一護。解ってんだろぉ?』
『ん・・・ぁ・・・・も・・・っ・・・』
『さっさと言えよ。辛ぇんだろ?』
『んぁっ・・・・もっ・・・早く・・・イかせて・・・くれっ・・・ぉ・・・ねが・・・・ッ』
『仕方ねぇな・・・・いいぜ、イケよ』

 その言葉と共にどんどん追い立てられ、俺は簡単にその白の中に吐き出した。

 それからもひとつも容赦なく、コイツは俺を快楽の奥深くへと追い詰めていく。
深く深く、俺の全てを持っていかれそうな・・・・・・。
でも・・・・・・

『一護・・・・・一護・・・っ』
『ぁ・・・はぁっ・・・』

 何度も名前を呼ばれるとそれすらもどうでもよくなって・・・・・
コイツとならどこへでも落ちていけそうな、そんな気持ちになるんだ。



『やっぱ俺達相性いいよなぁ一護』
『・・・・お前しつこいしなかなかイかせてくれないから嫌だ』

 ご機嫌にベッドの中で俺を抱きしめる。
あの後こいつが1回なんかで終わるはずなく・・・・2,3回は当たり前みたいにヤってその間に焦らされるわ激しくされるわで俺の体はボロボロ。
ヤツはその分だけ上機嫌。
まぁそれでもいいか・・・とか思ってしまうのはやっぱり・・・・・・。

『一護、そろそろお別れの時間だなぁ』
『・・・・・もう行くのかよ』
『なんだぁ?寂しいのか?』
『そんなんじゃ・・・・ねぇけど・・・・』
『またすぐ来てやるよ。それまで浮気すんじゃねぇぞ?じゃぁな、一護』

 今この瞬間まで俺の体を抱きしめていた温もりが消える。
そんな存在なかったかのように跡形もなく。
最後に残ったのはさっきまで俺を追い詰めていた異物感と首や胸、体中に残った紅い痕と抱きしめられていた腕の温もりと、去り際にくれたキス。
いつもそうだ・・・・・。
コイツは時々現れて、俺にいろんな痕を残して一瞬で消える。
寂しくないわけねぇじゃねぇか。
あんなに自分の痕を残しておいて・・・・・。

『浮気なんかするわけねぇだろ・・・・バーカ』

 残された温もりを1人抱きしめて、暗くなった天井を見上げた。
考えるのは・・・・・
次いつ会えるのかな、とか・・・・
今俺の中にいるのかな、とか。
俺のこんな情けない姿も見てるのかな・・・・・とか。
早く会えればいいのに・・・・・。
そう願いながらウトウトとしているところに下の階から飯が出来たと俺を呼ぶ声が聞こえる。
ダルイ体を起こして“今行く”と告げ、服を身にまとう。
部屋を出る直前、もう一度暗い部屋・・・・・ベッドの上を見て、一言口パクで呟いてから部屋を出た。

愛してる・・・・・・



                                                                         end