ずっとずっと気になってたんだと思う。獄寺のこと。自分でも気付いてなかっただけなんだって、今になってそう思う。
“獄寺”が好きだと気付いたのはたぶんあの瞬間・・・・・・。


 少し早く朝練が終わり、暇になってしまった俺はふと屋上に来てみた。いつもはここでツナと獄寺の3人で昼飯を食ってる場所。 一人で来てみると、こんなに広かったっけなぁ〜と思うほど、何もなく寂しい場所だった。でも俺は屋上って結構好きなんだ。
いつもは遠い空が近い。今日なんて雲1つない快晴で、気持ち良い。今はそうでもないけど、昼になったら日も当たってもっと気持ち良いだろう。今日は良い昼休みになりそうだ。
 下を見るとさっきからチラホラと生徒が登校してきている。少し時間が早いから見るからに優等生って感じのやつらばっかりだけど。ツナも獄寺も遅刻ギリギリだろうからまだこないだろうな。
そんなことを思いながらじーっと下を眺めていた。
だんだんと門をくぐる生徒が多くなり始めた。そのころになると校舎のほうから門に向かって歩いて行くやつらを見つける。
 学ランを肩に引っ掛けて先頭を歩いているのはたぶん雲雀。後ろについている2人はどっちもリーゼントだし名前は知らないけど風紀委員のやつなんだろうな。
『朝から大変だなぁ〜』
 その3人が門に着いてから、門検が始まり、厳しいチェックのもと、みんなビクビクしながら門を通過していく。さすがに毎日雲雀が立ってるからみんなもそれなりに身なりを整えてきている。
そんな中、捕まったやつがいた。そいつの顔を見た瞬間俺は自然と顔がほころんでしまった。
『獄寺・・・・』
 もちろんツナも一緒だ。なにを注意されているのかまではわかんねぇけど・・・・・獄寺って全身校則違反って言われてもおかしくねぇもんな。
リーゼント2人が獄寺に詰め寄って何か言ってる。獄寺は相変わらずウザそうに2人を睨んでいるけど・・・・・そこに雲雀が入る。 雲雀もなにか言っているようだけど・・・・・獄寺も言い返してるみたいだな。ったく。あいつあぶねぇから絡むなって前ツナと一緒に忠告してやったのに・・・・。
 呆れて見ていると、さっきまでビクビクしていたツナが間に入って頭を下げたかと思うと獄寺の腕を掴んで走り出した。これ以上はヤバイと思ったんだろうな。さすがツナ。
 2人はしばらく走って止まり、人ごみに紛れて校舎へと歩いていく。
 ツナが獄寺を振り返り困った顔で何かを言っている。獄寺は少しシュンとして、ツナに頭を下げた。たぶんまた大声で“すいません十代目”とか言ってマフィアごっこしながら謝ったんだろう、ツナがあたふたとしている。そして何回か会話した後、2人同時に笑い始めた。俺も早く混ざりたくて、荷物を持とうとした瞬間・・・・・・・・・
俺はその場にへたり込んだ。徐々に熱くなっていく顔を自然と手で覆ってしまう。
『やベーな・・・・・俺ってそうだったのか?』
 校舎に消えていく、最後に見た顔は微笑み。ツナが楽しそうに笑っているのを見て嬉しそうに笑う獄寺。細められた目は、いつものつんつんした雰囲気が嘘のように優しくて。
 射抜かれたってこのことを言うのか?初めての感覚に、ドキドキと心臓が高鳴る。それと同時にワクワクとした気持ちもある。なにかが始まりそうな・・・・なにかを起こせそうな予感。
―――――あの顔を・・・・・・今度は俺に向けて欲しい。向けさせてやる。
そんな決意も生まれる。俺には1回もあんな顔どころか、普通に笑ってさえくれないけど、今に見てろよ獄寺。
 俺は荷物を持ち、階段を駆け下りた。どうやって振り向かせようか。・・・・そんなことばかり考えながら。
さっそく今日から行動しよう。まずはこの今日の天気を生かして。この青空の下で、たくさん話が出来るといいな。
まずは・・・・・小さな一歩から。




 俺が獄寺に惚れた瞬間。正しくは惚れたと確信した瞬間だけど。

たった一瞬の一度きりの、しかも他のやつに見せた笑顔。

その顔があまりにキレイで・・・・・・。

思わず腰を抜かしそうになるくらいで・・・・・。

前途多難な恋になるんだろうな。

でも、野球だってそうだし。努力しなきゃ始まらねぇもんな。

いつか絶対。俺にあの顔を向けさせてやるから。

覚悟しとけよな!獄寺。





その笑顔が見れるのは・・・・・・きっと遠くない未来・・・。






                                                                        end