甘い甘いチョコを君に




 とうとうやってきたこのシーズン。バレンタインデイ。
一応付き合ってるヤツがいるんだから作ってやろうとは思うんだが・・・・・。
『やっべ!!またお湯入っちまった・・・ッ!!』
 材料もばっちり買ってきてさっきからトリュフ作りに挑戦中の俺。
だが・・・・さっきから失敗の繰り返し。板チョコをきざんでは手を切って、やっときざんだと思ったチョコを溶かそうとしては中にお湯が入ったりなんかして、さっきからチョコの残骸が・・・。
『くっそ・・・・またきざみなおしかよ・・・』
 今日の夕方、山本の家に行くと言ってある。もちろんチョコを渡すためだ。今はまだ昼をちょっと過ぎたぐらいだが・・・間に合うだろうか・・・??
 とにかくやらないと。そう思いまた新しい板チョコを取り出し、きざみ始める。何度も何度も指を切りながら・・・・・。
やっとのことで板チョコを3枚ぶんきざみ終わる。気付けば指は絆創膏だらけ。手についたチョコを洗い流すたびに傷にしみる。それをグッと我慢して、きざんだチョコをボールにうつす。そして今度は慎重に、温めたお湯につける。さっきゴムベラでかき回したときに派手にやりすぎてお湯が入ったから今度はゆっくり。
これで失敗したらもぅ俺は山本にチョコ渡さねぇ!!会いにも行かねぇ!!
って・・・・・・・そんなの嫌だけどな。


 暗示が効いたのか、なんとか無事チョコを溶かすことができ、今少し熱を抜いている最中だ。
もぅ少ししたら丸めていくかな。
 山本はうまいと言ってくれるだろうか?
いや、山本ならどんなにまずくてもうまいと言ってくれるだろう。だけど、やっぱり本心でうまいと言ってほしい。つーか、うまいもんを食わせてぇ。溶かしただけだしまずいなんてことはねぇと思うが・・・。
やっぱなんか不安になるもんだろこういうのって。生クリーム多くなかったかなとか。


不安を抱えつつもとりあえず全て丸め、ココアパウダーの上を転がす。一応形にはなったが・・・・・。
 生クリームをいれる前の溶かしたチョコを少しとっておいたので、そのあまりのちょこを型に流し込む。あとはこのチョコを固めてラッピングするだけだ。
 そこまで来てようやく俺は肩の力を抜く。ずっと肩に力が入っていたのか、かちかちに固まっている。
冷蔵庫にチョコをいれたあと、軽く肩をほぐし、ホッと一息つく。
こんなに気を張ったのは久しぶりかもしれない。そう思うほど、体が疲労感に襲われている。
横になり伸びると急激に力が抜け、俺はそのまま吸い込まれるようにして眠ってしまった。


 パチっと目を開けると、視界に飛び込んできたのは少し赤いオレンジ色。
それを見て俺は一気に目を開けた。
『やっべぇ!!何時だ?!』
 携帯を開くと4時半。山本と約束しているのは5時半。
なんとか間に合いそうだが・・・・・急いで準備しねぇと!!
バッと起き上がり、冷蔵庫を開け、チョコを取り出す。なんとか固まっていて、それを箱に詰めていく。戸惑いながらリボンを結び・・・・・・・3回ほど失敗して・・・・・なんとかうまく結べた。
とりあえず紙袋に入れて、山本に“今から行く”とメールを打つ。返事が返ってきてから俺はチョコを持って、家を出た。もちろん絆創膏は全部外して。もぅ緊張してやばい・・・・・・。


『いらっしゃい獄寺。入れよ』
『おぉ・・・』
 こっちの気は知りもしないで明るく出迎える山本。とりあえず山本の部屋にあげてもらって、落ち着いてから渡すことにした。
『寒かっただろぉ?これ飲んだら暖かくなると思うぜ?』
 差し出された紅茶を手に取る。冷えた指先からジンジンと熱が伝わる。口に運ぶと冷え切った体が一瞬にして温まった。
ゆっくりと息を吐き、テーブルにカップを置いてから、目の前に座っている山本を見る。山本は俺の視線に気付いて目を合わせてきて・・・・・俺は意を決し、横に置いてあった紙袋を手に取り、バッと山本に差し出した。
『??なんだ??』
『・・・・・いいからとれよっ』
『ん?あぁ・・・』
不思議そうにそれを受け取った山本は俺とその袋を交互に見ながら中のものを取り出す。
『開けていいのか?』
『さっさと開けろよ』
 こいつもしかして今日がバレンタインってこと知らねぇんじゃ・・・・・。
『なんか今日さぁ〜女の子もいっぱい物くれたんだよなぁ〜。なんかあんのか??』
 ・・・・・やっぱり。男としては嬉しいはずの今日を知らねぇ中学生なんてコイツぐらいだろ・・・・。まったく。
それより・・・やっぱ貰ったんだな。 モテるもんなぁ。でもそんな包みどこにもねぇけど・・・・・もぅ食べたのか??
キョロキョロと辺りを見回してもそれらしき物はない。包装紙の1枚ぐらいあってもいいだろうに・・・。
『あっ!心配しなくてももらてないぞ。女の子からのやつ。悪いけど全部断った。貰っちゃいけねぇ気したし。俺には獄寺がいるからな』
『んなッ!!?』
 なんでコイツはこういうときだけ・・・・・・。
嬉しくて仕方がない。顔は真っ赤になって・・・・・山本を見てられなくて。
バレンタインだって知らないくせに、女子からのプレゼントだってたんなる親切だって勘違いしてるくせに、なんでこんなときだけ 勘が冴えたみたいに俺のしてほしいことわかんだよ。
『・・・・・もぅいいからさっさと開けろよ』
『・・・・・・・・チョコ?』
『そうだ。今日何の日かわかるか?』
『・・・・?俺誕生日じゃないぜ?』
『そんなこと解ってんだよ。・・・・バレンタインだっつの!!』
『バレンタイン??あっ!だから女の子もいっぱいくれようとしてたのか!!』
 ほんと鈍い。普通わかるっつの。
『・・・なぁ、これってさ、獄寺が作ってくれたのか?』
『・・・・・・』
『サンキュな獄寺!いただきます』
 俺が作ったと言うのが恥ずかしくて目を逸らしてしまったがもちろんそんなこと山本は気付いていて・・・・ 山本はトリュフを摘むと、口にヒョイッと放り込んだ。目を逸らしてしまったがやっぱり山本の反応は気になる。だけど素直に“うまいか?”なんか聞けねぇし、視線だけを山本に送る。
だんだん不安になりながら見ていると、山本はニッと笑って・・・・・・
『すっげーうまい!ほんとにサンキュな』
『ほんとか・・・??』
『ほんとだって!口開けてみ?あ〜ん』
『な・・・っ、んな恥ずかしいこと出っモゴッ』
 俺の反論は聞かず、口の中にトリュフを放り込まれた。すぐに甘ったるく柔らかい味が広がる。初めて作ったわりにはうまく出来たかもしれない・・・・。
『な?うまいだろ??すっげーな獄寺』
『ぅ・・・うるせぇよ・・・』
 恥ずかしくて目を逸らすと、逆に手を取られる。驚いて顔を上げると、手をとられたまま肩口に顔を埋められた。
『なんだよ?!どうした??』
『こんなに手傷だらけにして・・・作ってくれたんだな』
『ぁ・・・・べ・・・別に・・・・こんなんどってことねーし・・・・』
『ありがとな』
 何度も失敗して、ケガしながら作ったかいがあったな。
嬉しくて、顔を埋める山本の髪を空いている右手で撫でる。短い髪が手のひらをくすぐって・・・・。
山本も、俺の胸に擦り寄ってくる。
『なぁ獄寺ぁ。あ〜ん』
 今度は俺に食わせようとしているんじゃなく、食わせろと言っている。口を開けて、チョコを入れてくれるのを待っている。
『自分で食えよな・・・』
 そういいながらも俺は箱からチョコと1粒取り、山本の口の中に入れてやる。
『あっ!バカやろッ指舐めんじゃねぇよ!』
『ん、うまぃ。へへっ、またなんか作ってくれな?』
『・・・・気が向いたらなっ』
 山本が嬉しそうに笑う。そんな顔を見れるなら、ほんとにまた作ってやってもいいかなって・・・・思ったりしちゃうんだよな。

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